新川電機株式会社

瀧本 孝治

マーケティング部 ST製品企画室...もっと見る マーケティング部 ST製品企画室

ISO規格に基づく認証制度というと多くの方がISO 9000(品質管理システム)やISO 14000(環境管理システム)などのような企業・団体を対象とした認証制度をイメージされるのではないでしょうか。しかし今回は、機械状態監視診断技術者という個人の技術レベルを認証する制度について紹介します。

1.ISO規格と認証制度発足の経緯

まずISOとは国際標準化機構(International Organization for Standardization)のことで、製品やサービスの国際交流を容易にし、国際協力を促進するための組織です。ISOは数多くの国際工業規格を制定している機関であり、実質的な規格立案や審議は技術専門委員会(TC:Technical Committee)で行われます。TCの下にはいくつかの分科会(SC:Sub Committe)が設けられ、更にその下の作業グループ(WG:Working Group)が新規格の検討や既存規格の見直しを行っています。なお、ISOには1つの国からその国の標準化業務を推進する団体が加盟でき、日本からはJISの審議・調査を行っている日本工業標準調査会(JISC)が登録されています。

さて、機械状態監視診断技術者の認証制度に関する規格案の検討が始まったのはそれほど古い話ではないのですが、その母体となるTCの歴史は古く、1964年に「機械振動と衝撃(Mechanical vibration and shock)」に関する技術専門委員会TC108が設立されています。1994年にTC108の下に「機械の状態監視と診断(Condition monitoring and diagnostics of machines)」という分科会SC5が作られ、この中の作業グループWG7で「機械の状態監視と診断分野における訓練および認証(Training and certification in the field of condition monitoring and diagnostics of machines)」に関する規格案が提案され、討議されてきました。これまでにこのISO / TC108 / SC5 / WG7の下でISO 18436シリーズとして表1の国際規格が発行されています。なお、この認証制度は、元々独自の認証制度を実施していた米国のVI(Vibration Institute)が、これをベースにしてISO規格とすべく提案したという経緯があります。

表1. ISO 18436シリーズ既発行規格
規格番号 タイトル
Condition monitoring and diagnostics of machines — Requirements for training and certification of personnel — (機械の状態監視及び診断 ―技術者の訓練及び認証に関する要求事項 — )※1
ISO 18436-1:2004 Part1:Requirements for certifying bodies and the certification process (認証機関及び認証過程に関する要求事項)※2
ISO 18436-2:2003 Part2:Vibration condition monitoring and diagnostics (振動による状態監視及び診断)※3
ISO 18436-3:2008 Part3:Requirements for training bodies and the training process (訓練機関及び訓練課程に関する要求事項)
ISO 18436-4:2008 Part4:Field lubricant analysis (現場の潤滑油分析)
ISO 18436-6:2008 Part6:Acoustic emission (アコースティック・エミッション)
ISO 18436-7:2008 Part7:Thermography(サーモグラフィ)

※1 Part3以降は“– Requirements for qualification and assessment of personnel –”となっている。
※2 ISO 18436-1:2004の日本語同等規格としてJIS B0912-1:2009が発行されている。
※3 ISO 18436-2:2003の日本語同等規格としてJIS B0912-2:2009が発行されている。

日本におけるISO / TC108 / SC5 / WG7への取り組みは、2000年7月にISO / TC108 / SC5国内検討委員会をボランティアで発足、翌年2001年5月より日本機械学会内の正式な委員会として発足しました。この国内検討委員会は年数回開催され、ISO / TC108 / SC5の中の10件以上あるWG全てに関する進捗確認や討議が行なわれますが、その中でもWG7は毎回最も注目され、討議されました。また、ほぼ1年毎に開催されるISO / TC108 / SC5国際会議には日本からも国内検討委員会のメンバーを派遣して、日本の意見を反映すべく討議に参画しています。

表1に示すように、ISO 18436-2(振動による状態監視及び診断)が2003年に、ISO 18436-1(認証機関及び認証過程に関する要求事項)が2004年に発行されていますが、日本としてもこれらの規格審議に参画するとともに、規格の進捗に合わせて、日本機械学会の中に技術委員会を設置して、日本における機械状態監視診断技術者の認証制度立ち上げのための準備を進め、規格発行に遅れることなく2004年から認証制度がスタートし、毎年2回の資格認証試験を実施しています。日本では、2010年1月現在で2,300人以上の「ISO 18436-2準拠機械状態監視診断技術者(振動)」に基づく振動診断技術者が認証されています。

また、2009年より日本機械学会と日本トライボロジー学会の協力により潤滑油診断技術者の認証制度「ISO 18436-4準拠 機械状態監視診断技術者(トライボロジー)」もスタートしています。

2.機械状態監視診断技術者(振動)認証制度のしくみ

(a)技術者レベルとカテゴリ分類

機械状態監視診断技術者(振動)は、表2に示すようにその能力によりカテゴリⅠ~Ⅳまでの4段階のレベルに分類されています。カテゴリⅠは単純に振動計測ができるレベル、カテゴリⅡは基礎的な振動解析を実施して、簡単な対策処置を提案できるレベル、カテゴリⅢは様々な振動解析技術を駆使した診断ができ、振動監視の計画構築、対策処置の立案ができるレベル、カテゴリⅣは全ての機械の振動計則と解析に対して精通した最高レベルの技術者ということができます。

表2. 機械状態監視診断技術者(振動)に要求される能力
カテゴリ 要求される能力
カテゴリーIの要求事項を満足する技術者は、ISO 17359とISO 13373-1に従った単純な1チャンネル機械振動の状態監視と診断の範囲を行う資格を有すると認められる。
当該技術者は、確立された警告設定に対して警告状態を判断することを除いて、たとえばセンサの選択,行われるべき解析,および試験結果の評価に対しての責任はない。当該技術者は、以下の資格を有するものとする。

  • 事前に選定あるいは計画された測定順路で、携帯用計測器を操作する。
  • 常設の計測器からの指示値を読み取る。
  • データベースに測定結果を入力し、コンピュータから順路をダウンロードする。
  • 事前に定められた手順にしたがって、定常状態の運転条件下での試験を行う。
  • 信号が存在していないことを認識することができる。
  • 事前に制定された警告設定に対して、オーバーオールあるいは単一の振動測定値を比較することができる。
カテゴリーIIの要求事項を満足する技術者は、確立され承認された手順に従って、位相トリガー信号の有無に関わりなく、1チャンネル測定を用いた産業機械の振動測定および基本的な振動解析を行う資格を有する。
当該技術者は、カテゴリーIで期待されるすべての知識と技能を必要とし、さらに以下の資格を有するものとする。

  • 適切な機械振動測定法を選択する。
  • 振幅,振動数と時間の基本的な分析のための機器を準備する。
  • スペクトル分析を用いて軸,軸受,歯車,ファン,ポンプおよびモータなどの機械や機械要素の基本的な振動解析を行う。
  • 結果と傾向管理のデータベースを保守する。
  • 固有振動数を決定するために、基本的な(1チャンネル)インパルス試験を行う。
  • 適用可能な仕様と規格に従って、(受入検査を含む)試験結果を分類,解釈および評価する。
  • 簡単な対策処理を提言する。
  • 基本的な1面フィールドバランシングの概念を理解している。
  • 不良測定データのいくつかの原因と影響を理解できる。
カテゴリーⅢの要求事項を満足する技術者は、ISO 17359とISO 13373-1に従った機械の振動状態監視と診断のためのプログラムを、遂行および・または指示、および・または構築する資格を有する。
当該技術者は、カテゴリーIおよびカテゴリーIIに分類された技術者に期待されるすべての知識と技能を必要とし、さらに以下の資格を有するものとする。

  • 適切な機械振動解析法を選択する。
  • 携帯および常設のシステムの両方に対して、適切な振動計測のハードウェアとソフトウェアを指定する。
  • 位相トリガーの有無にかかわらず、定常および非定常の運転状態の両方に対して、波形およびオービットのような時間領域プロットはもちろん、1チャンネルの周波数スペクトルの測定と診断を行なう。
  • 定期的・連続的な監視を行なう機械の決定、試験の頻度,測定順路計画を含む振動監視プログラムを構築する。
  • 新しい機械の振動レベルと、受け入れ基準の仕様のためのプログラムを構築する。
  • 基本的な運転時のたわみ形状を測定し解析する。
  • アコースティック・エミッション(AE),サーモグラフィー,モータ電流および潤滑油分析のような代替の状態監視技術を理解し、その使用を指示することができる。
  • 釣合せ,軸心調整,および機械部品の交換などの現場での対策処理を提言する。
  • 加速度エンベロープ(検波)手法を使用することができる。
  • 基本的な1面フィールドバランシングを行う。
  • プログラムの目的,予算,コスト判断および人材開発に関して、経営陣に報告する。
  • 関係する技術者のために機械状態に関する報告書を作成し、対策処理を提言し、そして、修理の有効性を報告する。
  • 振動訓練生を指導し、技術的な指示を与える。
カテゴリーⅣの要求事項を満足する技術者は、ISO 17359とISO 13373-1に従った機械の状態監視と診断、およびあらゆるタイプの機械振動測定と解析を行う、および・または指示する資格を有する。
当該技術者は、カテゴリーI,IIおよびカテゴリーIIIに分類された技術者に期待されるすべての知識と技能を必要とし、さらに以下の資格を有するものとする。

  • 周波数応答関数,位相,コヒーレンスなどの多チャンネルスペクトルの測定および結果の解釈を含んだ振動理論と技術を適用する。
  • オービットとその制限を含む周波数および時間領域処理の理解を含んだ信号解析を理解し、実行する。
  • システム,機械要素および組み立て品の固有振動数,モード形状および減衰を決定する。
  • 機械および結合された構造物の運転中のたわみ形状を決定し、修正のための方法を提言する。
  • 振動解析,パラメータ同定および故障診断に対して、一般に認識された高等技術を使用する。
  • 振動診断にローター軸受動力学の基本原理を適用する。
  • 基本的な2面フィールドバランシングを行う。
  • 高度な2面影響係数あるいは静的・偶力釣合せを提言する。
  • 部品交換あるいは補修、絶縁、減衰、剛性変更および質量変更を含む対策処理および・または設計変更を提言する。
  • 振動訓練生を技術指導する。
  • 実際に発表されたISO規格,国際規格および仕様を解釈し、評価する。
  • 往復機械やスクリュー圧縮機のような容積形流体機械において気体の脈動によって起こされる振動を認識し、必要なパラメータを測定し、さらに修正のための方法を提言する。
  • 弾性設置,他の据付けおよび基礎の問題に対する対策処理を提言できる。

(b)受験資格

資格認証試験を受験するためには、機械の状態監視と診断の分野における一定期間以上の実務経験を有している必要があります。必要な実務経験は、カテゴリⅠで6ヶ月以上、カテゴリⅡで1年6ヶ月以上、カテゴリⅢで3年以上、カテゴリⅣで5年以上と規定されています。また、カテゴリⅢを受験するためにはカテゴリⅡの有資格者であること、カテゴリⅣを受験するためにはカテゴリⅢの有資格者であることが必要とされています。ただし、カテゴリⅡに関してはカテゴリⅠの有資格者である必要はなく、最初からカテゴリⅡを受験するということが可能です。

(c)訓練

上記の受験資格を満足する技術者は、日本機械学会イノベーションセンター機械状態監視資格認証専門委員会が認定した訓練機関による訓練を受講して、試験日前日までに訓練を修了しなければなりません。

日本国内では現在6社が公表された認定訓練機関として活動していますが、その中で新川センサテクノロジが唯一カテゴリⅠ~Ⅳまでの全てのカテゴリに対応した訓練機関として認定されています。カテゴリ毎の訓練時間は、カテゴリⅠが32時間、カテゴリⅡが38時間、カテゴリⅢが40時間、カテゴリⅣが64時間と規定されています。表3に訓練プログラムの一例を示します。

表3. 振動診断技術セミナーのプログラム例 (2010年10月、11月実施予定のカテゴリⅡの場合)
1ヶ月前コース 10/18(月) 10/19(火) 10/20(水) 10/21(木) 10/22(金) 11/20(土)
直前コース 11/15(月) 11/16(火) 11/17(水) 11/18(木) 11/19(金)
9:00~ (オリエンテーション)
振動の原理
信号処理 対策処理 受入試験 参考規格 補習
10:00~
11:00~ 設備の試験と診断 報告と文書化
13:00~ 振動の原理 状態監視 対策処理 設備の試験と診断 報告と文書化 認証試験
14:00~ データ収集 設備に関する知識 実習(信号処理、状態監視、故障分析) 故障程度の決定
15:00~
16:00~ 故障分析
17:00~ 修了試験
18:00~

(d)資格認証試験

さて、ここまでクリアして認定訓練機関の発行する「訓練修了証明書」を手にすると、いよいよ資格認証試験を受験することになります。表3を見ると分るように、最終日は訓練ではなく資格認証試験となっています。

このように通常は、訓練は認証試験の前日に修了するように連続・集中したプログラムが組まれ、前日まで訓練に使っていた会場で、修了翌日資格認証試験を受けられるようにしています(試験問題の会場への送付と、回収後の採点は資格認証専門委員会が行ないますが、カテゴリⅠ~Ⅲの試験の実施、監督は訓練機関に委託されています)。ただし、カテゴリⅣに関しては時間的に2週間の訓練となるため、連続ではなく、約1ヶ月の間隔をおいて1週間ずつの前後期分散型となり、また修了試験から資格認証試験までもある程度の期間を設けています。また、試験会場は日本機械学会(東京都新宿区)となり、まず択一問題による試験を受験し、これにパスするとおよそ1ヵ月後に記述、技術プレゼン、質疑応答による面接方式の試験を受けることになります。

さて、今年度1回目の資格認証試験は既に(6月19日)に実施されましたが、今年度2回目の試験が2010年11月20日(土)に行なわれます。

次回コラムで引き続き認証制度のもたらすメリットに関して紹介する予定ですが、ここまで読んで興味を持たれた方はぜひ「第14回 振動診断技術セミナーのご案内」のページにアクセスしていただくか、新川電機の営業担当者、または新川センサテクノロジの教育研修部にお問合せください。

※ 本コラムの内容は社団法人日本機械学会のホームページおよびD&D2006基調講演(「機械の状態監視と診断に関するISO規格関係の話題」ISO/TC108/SC5国内検討委員会主査 株式会社東芝 榊田氏)の内容、および該当する規格、技術指針を参考にしています。

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