東京工業大学 工学院 電気電子系エネルギーコース 教授

山田 明

職歴
東京工業大学 理工学研究科 電子物理工学...もっと見る
職歴
東京工業大学 理工学研究科 電子物理工学専攻 教授(2008-)
東京工業大学 量子ナノエレクトロニクス研究センター 助教授(2004-)
東京工業大学 量子効果エレクトロニクス研究センター 助教授(2001-)
東京工業大学 工学部 助教授(1994-)
東京工業大学 工学部 講師(1990-)
東京工業大学 工学部 助手(1989-)

委員歴
応用物理学会 理事(APEX/JJAP編集担当) (2014/04-2016/03)
光産業技術振興協会 第5分科会 主査 (2012/05-)
(競)JST さきがけ領域アドバイザー (2011/08-)
電気学会 論文委員 (1996-2003)
応用物理学会 編集委員 (1998-2000)

太陽光発電の研究を行っています。そこで、エネルギーの話から始めます。

 図 1 は、資源エネルギー庁が発表している平成 27 年度(2015 年度)エネルギー需給実績から作成した棒グラフです。日本が必要としてきたエネルギー量が 1990 年 〜 2015 年に亘って示されています。2009 年に減少しているのは、2008 年 9 月 15 日起こったリーマンショックによる影響です。2011 年以降漸減しているのは、2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災によるものです。震災以降原子力エネルギーからの寄与がなくなっているのは、皆さんのご承知の通りであり、その分、天然ガスによりエネルギー源を賄ってきていることがわかります。

エネルギーのお話

図 1 エネルギー源別一次エネルギー国内供給の推移 (資源エネルギー庁:平成 27 年度(2015 年度)エネルギー需給実績より)

実は、この間も石油由来のエネルギーの供給量は減り続けています。小職が研究している太陽光発電は再生可能・未活用エネルギーに分類され、資源エネルギー庁では、再生可能・未活用エネルギーを 3 つ、自然エネルギー、地熱エネルギー、未活用エネルギーに区分しています。この再生可能・未活用エネルギーの一次エネルギー総供給量に対する割合は、1990 年度において約 2.8%(自然エネルギーは約 1.3%)であったものが、2015 年度には約 4.6%(自然エネルギーは約 2.4%)まで増加しています。自然エネルギーには、太陽光、風力などが含まれますが、割合は少ないものの着実に自然エネルギーの使用が増えています。ここで取り上げたいことは、化石エネルギーの割合です。上述のように自然エネルギー由来の一次エネルギーは増えておりますが、一次エネルギー総供給量に対する化石エネルギーの割合は、2015 年度で約 86.1% に達します。化石エネルギーですので、燃焼等により使えるエネルギーを取りきると最終的には CO2 になります。この CO2 が地球温暖化問題として大きく取り上げられています。また、日本は資源の無い国です。これらの化石エネルギーを輸入に頼らないのが現状であり、発展途上国が先進国と同程度のエネルギーを消費するようになる、少子化等々により日本の経済が縮小傾向にあるなど、化石エネルギーが購入できなくなったらどうなるのだろう、自然エネルギーの導入量をもっと増やすべきではないか、そのように考えて太陽光発電の研究を進めています。

太陽光発電

太陽光発電の核である発電機能を有する素子は、太陽電池と呼ばれています。太陽電池は半導体と呼ばれる固体で構成されており、光が当たることにより起電力が生じる現象を利用しています。太陽から降り注ぐ光のエネルギー密度は、東京の緯度において晴天時、単位面積当たり 1kW/m2 となります。もし、光のエネルギーを 100% 電気エネルギーに変換することができると、1m2 の面積があれば 1kW=1000W の電力を得ることができます。W(ワット)は、電力の単位で大体家庭用の電子レンジが 1500W 位の電力です。この電力を利用して、食べ物の過熱などを行っています。もちろん、光のエネルギーを 100% 電気エネルギーに変換することは不可能です。電気エネルギーに変換できる割合を変換効率と呼び、現状の市販の太陽電池のパネルですと変換効率は約 15% です。すなわち、1m2 の面積があれば晴天時に 150W の電力を得ることができます。大体、家庭で使用される電力が 3kW∽4kW と言われていますので、太陽電池のパネルが 20m2∽27m2 あれば家庭の電力を賄うことができる計算になります。

図 2 に示したのは、太陽光発電協会が 2015 年 2 月 18 日に報告した、2030 年までの太陽光発電の導入量試算です。2015 年度の日本における太陽光発電導入量が約 9GW((株)資源総合システム、2015 年 12 月 2 日発表)との報告がありますので、このグラフを少し上回る量が導入されていることがわかります。2012 年度からの急速な立ち上がりは固定価格買取制度(FIT)によるものであり、改正 FIT が開始する 2017 年度から減少しつつも、2022 年度以降はおよそ 3GW が毎年導入されると試算しています。GW は先ほどの W と同じ単位ですが、1,000,000,000W を意味しています。数字が大きすぎて分かりにくいのですが、原子力発電所 1 基がおよそ 1GW と言われています。ここで注意しなくてはいけないのは、W は発電する能力を示しており(電力)、実際に発電した量を求めるためには発電した時間をかけなくてはいけません(電力量)。よく知られているように、太陽電池は晴れていないと発電できません。先ほどの晴天時の日射量 1kW/m2 が年間得られる時間は、日本では約 1200 時間とされています。1 年は 8760 時間であり、原子力発電所の稼働率によりますが、大体太陽光発電 6∽7GW で原子力発電所 1 基 1GW に相当することになります。したがって、年間 9GW という導入量はそれなりに意味のある数値であることがわかります。

図 2 2030 年までの導入量試算 (太陽光発電協会(JPEA):太陽光発電の現状と展望、2015 年 2 月 18 日)

このような計算を日本および世界の 1 次エネルギー、電力使用量に当てはめてみると興味深い結果が得られます。現在市販されている太陽電池の変換効率 15%、1kW/m2 換算の晴天時間が年間 1200 時間(東京)と仮定します。

このとき日本の年間の一次エネルギー消費量 4.4兆kWh を賄うのに必要な太陽光発電の面積は約 2.5万km2、日本の年間電力量 1兆kWh の場合は約 5800km2、世界の一次エネルギー消費量 130兆kWh の場合は約 75万km2、世界の年間電力量 19兆kWh の場合には約 11万km2 と見積もることができます。いずれも単位が大きすぎて良くわかりません。そこで例えば最後の例、世界の年間電力量を賄うのに必要な面積約 11万km2 を正方形として考えます。すると、一辺が約 330km の正方形となります。東京と大阪の直線距離は約 400km です。したがって、東京と大阪を一辺とする正方形をこの地球上のどこかに取って、そこに現在市販されている太陽光発電パネルを敷き詰めることができれば、現在消費している全世界の電力量を賄うことができるとの計算になります。太陽光発電もそれなりの実力があると感じていただけたら幸いです。

 また、太陽光発電は太陽電池を作るのにエネルギーを使うので発電にならない、作るのに CO2 を排出するため CO2 の削減に寄与しない、とのご意見もいただきます。これは、エネルギー・ペイバックタイム、CO2 ペイバックタイムと呼ばれており、それぞれ生産に使ったエネルギーを回収できる年月、排出した CO2 を上回る効果が出る年月と定義されており、詳しい試算結果が、産業技術総合研究所のホームページ(https://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/supplement/EPTdefinition.html)に書かれています。ご興味がございましたら、ご覧ください。

まとめ

日本の一次エネルギーのお話、日本の太陽光発電の導入量と実力のお話をしてきました。現在、FIT のために急速に太陽光発電が導入されたため出力制限が起きている、施工不良によって土地が荒れた、日本の電機メーカーの元気がない、など太陽光発電に対してのイメージが落ちているのは否めません。前者に関しては、2017 年 4 月より改正 FIG 法が導入される予定です(http://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/ kaitori/dl/kaisei/2017_fit.pdf)。また、太陽光発電は曇れば発電できないため、変動を抑えるために何らかの蓄電、畜エネルギー技術と併用する必要があります。小職は、Cu(InGa)Se2 と中心とする太陽電池の変換効率を上げていく研究を行っています。しかし、まだまだシステムとしては不完全であり、太陽光発電システムとしての完成度を上げていかなくてはいけないと感じています。ただし、我が国が 86% 依存している化石エネルギーを補完する重要なオプションの一つであると思い、研究を遂行している状況です。