公益社団法人 日本伝熱学会 会員

園井 健二

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大気中で呼吸している私たちは、高山で気圧が低くなる状態より、酸素濃度だけ低くなる酸欠に敏感です。高山では次第に順応できますが、酸欠は死を招きます。では、海で生きている魚の場合は、どうでしょうか?
産卵のため、生まれた川に上る鮭が元気なように、塩分濃度の変化は平気ですが、ミネラルバランスには敏感です。
魚は、塩化ナトリウム 99% に精製された塩水では、海水と同じ塩分濃度3%でも、1 時間 40 分後にすべて死んでしまいます。※1
私たちも、飲食物のミネラルバランスに、もっと関心を持ちたいものです。

舌で分かる! 主要ミネラルのバランスが良い塩

残念ながら、ミネラルバランスを直接測定できる機器が有りません。
食品の成分表と塩分計を頼りに、ミネラルバランスを取ることになりますが、人間の舌の味覚でも、バランスの良し悪しが分かります。

伝統海塩は、まろやかで、ほんのり甘みもあって、おいしいです。
これは塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウムなどの塩類がバランスよく含まれているからです。塩の味は、これらの主要な塩分で決まります。
おいしい塩とはズバリ、この五つの塩類のバランスがいい塩なのです。※2
五つの塩類の味 出典:村上謙顕 「日本人には塩が足りない!」※2

微量ミネラルも重要な役割 ~ 「亜鉛、鉄、銅、マンガン、セレン」の例

糖尿病予備軍になると、栄養療法のサプリメントとして、亜鉛が推奨されます。インシュリンの原料ですが、単独ミネラルの摂取を避け、食事から摂りたいものです。
筆者が、ミネラルについて学んだ書籍※3 から、以下紹介させて頂きます。

亜鉛の驚くべき「はたらき」 出典:笠原友子 「糖尿病は栄養をとれば健康に戻る」※3
血管での出来事とは? 出典:笠原友子 「糖尿病は栄養をとれば健康に戻る」※3

人間が必要とする主なミネラルとその働き

ミネラルの種類とおもな働き

種類 おもな働き 体内の分布
 ナトリウム  細胞の浸透圧の調整

血圧の調整

神経・筋肉細胞の働きに関与

 細胞外液
 カリウム  高血圧予防、むくみ解消

筋肉のエネルギー産生に関与

心臓の働きを保つ

 細胞内液
 カルシウム  骨と歯の形成

血液凝固促進作用

神経を安定させる

 99%が骨組織内

1%が細胞・血液中

 マグネシウム  骨の形成

神経伝達の制御

細胞内のカルシウム濃度の調整

 70%が骨に存在
 リン  骨と歯の形成

エネルギーを蓄える

エネルギー産生に関与

 85%が骨、歯に存在
 ヨウ素  甲状腺ホルモンの原料

基礎代謝のアップ

幼児の発育を促す

 甲状腺ホルモン
 亜鉛  皮膚を守る、骨を丈夫にする

味覚・視覚・聴覚を正常にする

インスリン合成、成長ホルモン産生

 赤血球中に酵素として存在
 鉄  酸素の運搬

粘膜を正常に保つ

エネルギー産生に関与

 70%が赤血球中に存在

残りは貯蔵鉄として蓄えられている

 銅  鉄の吸収

骨の強化

免疫細胞の活性作用

 肝臓・腎臓・脳など
 マンガン  骨の生成を促進

エネルギー産生に関与

抗酸化作用

 肝臓・腎臓・脳など
 セレン  抗酸化作用

甲状腺ホルモンの活性化

精子の働きの活性化

 血液中
 コバルト  ビタミンB12の原料

神経機能の正常化

骨髄の造血作用に関与

 肝臓・腎臓・脾臓

出典:溝口徹 「図解でわかる最新栄養医学 うつは食べ物が原因だった!」より筆者編集>※4

カルシウムとマグネシウムは”兄弟”
カルシウム2に対して マグネシウムは1という割合でとるのがいい、とされていますが、私はこれには疑問を感じています。 なぜならカルシウムとマグネシウムは同じ割合で排泄されるからです。 ・・・・
深刻なのはむしろ、マグネシウム不足のほうです。 ・・・ カルシウムとマグネシウムは「1対1」の割合でとる。それがもっとも的確なバランスといえるでしょう。※4

海水に含まれる元素と、人間の体を構成する主なミネラル成分の比較

主要成分は共通していますが、海水中の微量ミネラル「鉄、亜鉛など」は、予想外に低くなっています。
原因は、鉄、亜鉛などは海底に沈殿しているためで、海水と土壌のミネラル成分を合わせて考える必要が有ります。
海底に生息する貝類や海草類は、ミネラルが豊富でバランスも良い食材です。

海水に含まれる元素と人間の体を構成するミネラル 出典:上田秀夫 「塩を変えれば体は良くなる!?」より筆者編集※5
市販されている「にがり」が含まれている食用塩(例) 出典:上田秀夫 「塩を変えれば体は良くなる!?」より筆者編集※5
市販されている「にがり液」(例) 出典:上田秀夫 「塩を変えれば体は良くなる!?」より筆者編集※5

ミネラルバランスの調整が必要な場合

判断の目安

  • にがり成分を残した食用塩を使用する場合は、バランス調整不要です。
  • 味噌は、塩化ナトリウムを30%余分に排出できるため、バランス調整不要です。※6
  • 副食の野菜類は、カリウムが多いので、食事全体としてバランス調整される方向です。
  • 醤油を使用する場合は、原料塩は塩化ナトリウム99%以上が大半で、塩分も高いですから、塩分濃度とバランス調整をします。

塩分濃度とミネラルバランスの調整方法 ~ 醤油料理の例

  1. 醤油の塩分濃度をラベルで確認し、使用する分量を水で10~15倍に稀釈します。
    下記写真では、14倍に稀釈し、塩分濃度1%にしています。
  2. にがりを加え、塩分濃度を「5~10%」高めます。
    下記写真では、塩分濃度1.1%にしています。
    ※塩分計の最小目盛りは0.1%です。 5%だけ高めたい場合は、塩分濃度を2%にし、にがりを加えて2.1%としてから、水を加えて1%に薄めれば、5%増に調整できます。
  3. その後、必要な塩分濃度に薄めて使用します。

【引用文献】

  1. 上田秀夫 「塩を変えれば体は良くなる!?」(現代書林 2012年)、p13 2007年 韓国国営放送KBS番組の紹介
  2. 村上謙顕(NPO法人 日本食用塩研究会代表理事、海の精株式会社代表取締役)
    「日本人には塩が足りない!」(東洋経済新報社 2009年)、p158
  3. 笠原友子 「糖尿病は栄養をとれば健康に戻る」(経済界 2012年)、p121図 p122図
  4. 溝口徹(新宿溝口クリニック院長) 「図解でわかる最新栄養医学 うつは食べ物が原因だった!」(青春出版社 2011年)、p44-45 の表を筆者編集
  5. 上田秀夫 「塩を変えれば体は良くなる!?」(現代書林 2012年)、p51-52より筆者編集
  6. みそ健康づくり委員会 「高血圧・糖尿病にならない毎日みそ生活」(麻生台出版社 ポポロ2015年3月号別冊)