公益社団法人 日本伝熱学会 会員

園井 健二

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実りの秋です。夏の太陽をいっぱい受けて育った被子植物は、子孫を増やすため種子を実らせ、次の季節への備えをします。
本コラム 3 月号では、加熱によって壊れる栄養分(酵素)の摂取について記載しましたが、加熱処理によって初めて消化・吸収が可能になる栄養分も、欠かさず摂りたいものです。

種子に含まれる栄養を摂る方法

植物の種子は、鳥や動物に運んでもらうため、生で食べても、そのまま排泄されてしまいます。

栄養が摂れない理由

  • 消化阻害成分を含んでいる
  • 細胞膜の中にあるため吸収できない
  • 精白することでも栄養が失われている

栄養を摂る方法

  • 精白しない種子を洗って使用
  • 種子は焙煎して消化阻害成分を失活させ、栄養分を強固な細胞膜から抽出
    この時、ミネラルは還元されて、栄養分の効力も強くなります。
  • 酵素は失活しますが、他の方法で補なう

以下、代表的な種子として、玄米、小麦、コーヒーを採り上げます。

玄米

日本の穀物の代表は「米」ですが、栄養素は「胚芽」の部分に集中しています。
筆者もそうですが、精米した白米を主食とし、不足するビタミン類をサプリメントで補っている方が多いと思いますが、全て補える訳ではありませんし、栄養素は協同して働くことから、玄米で摂るのが一番です。

また、玄米は各種栄養素が豊富なだけではなく、「焙煎した玄米」は、がんに効くことが科学的に証明されています。

伊藤悦男 著による「がん患者は玄米を食べなさい」(現代書林)※1 では、著者たちが、1977年、世界で最初に、玄米からガン細胞の糖代謝を阻害し、ガン細胞のみアポトーシス(細胞死)に導く成分RBFを発見。また、同年免疫を活性化してガンを縮小させる作用を持つ成分RBAを発見し、解明した作用機序を、データ付きで詳しく説明しています。

Rice Brain=米ぬかから、RB を接頭詞に「RBA」「RBF」と命名。RBA は、免疫賦活効果。RBF は、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を起こさせる効果。抗がん性成分 RBA、RBF は、がんに有効なだけでなく、正常細胞には全く無害です。
玄米ご飯の一般的な炊き方では、玄米が乾煎りされていませんので、抗がん成分RBA、RBFの溶出の可能性はありません。

伊藤名誉教授の「がんに効く 玄米ご飯の炊き方」に習って、筆者が実践した内容をご紹介します。

材料(3食分)
玄米 ・・・・ 2 カップ
白米 ・・・・ 0.5カップ
水  ・・・・ 0.7リットル (水素水を使用)

① ザルを入れたボールに玄米を入れ、水を注ぎ、ゴミを流します。
② 玄米を、米研ぎしながら流水で洗った後、ザルを上げ水を切ります。
③ ザルを入れたボールに白米を入れ、水を注ぎ、ゴミを流します。
④ 白米を、米研ぎしながら流水で洗った後、ザルを上げ水を切ります。

⑤ 玄米を、濡れたままフライパンに移し、強火で乾煎りします。
目安ですが、玄米の表面温度を120℃以上にします。
⑥ 玄米を乾煎りできた直後、フライパンに水を加えます。
水約400CCは、米の量とフライパンの熱量で変わります。
注意 : 余熱で、水が沸騰状態になります。
⑦ フライパン上のお湯と玄米を、そのまま炊飯器に移します。

⑧ ここに、準備しておいた白米を加えます。
⑨ さらに水を入れて、3合分の水量に調整します。
水温が35℃位になります。
ご飯の柔らかさを、この水量で調整します。
⑩ ここで、スイッチ・オン。
水温が35℃位ですので、誤動作なく炊飯できます。
水温が高すぎる場合は、冷まして下さい。
⑪ 炊飯器の白米モードで、標準の炊飯時間で炊き上がりました。
注) 玄米モードは、特に必要ありません。

この方法は手の込んだように見えますが、思い切って実行してみると、10分以内の乾煎りが加わるだけです。
一晩水に漬ける手間がなく、直ぐに短時間で炊けるので、大変便利でした。

一晩水に漬ける理由(筆者注) : 直ぐに炊くと、消化阻害成分(毒)が残ったまま炊き上がるため。

上記理由の説明は、下記文献に詳しく載っています。また、焙煎した玄米粉の効果に関する説明が豊富です。

  • 玄米は穀物の王様
  • 玄米の効用
  • それでも玄米粒食をすすめない理由
    • なんといっても消化がわるすぎる
    • 日本人は玄米を主食にしていなかった!
      玄米が日本に渡来した当初から、消化がわるいので白米にして食べていた。
    • 玄米は炊き方によって天と地の差がある
      種を不老不死にする「アブシジン酸」が酵素阻害剤となり、物質の変質を防ぐ。
      「アブシジン酸」を消失させる方法
      a.12 時間以上の浸水(玄米は20時間以上)
      b.発酵
      c.ロースト(焙煎)
      (中略)
  • 玄米菜食で体調をわるくする!?
    【鶴見式玄米の炊き方】

出典:鶴見隆史 「食養生で病気を防ぐ」※3

小麦

焙煎した小麦胚芽も、焙煎した玄米同様に健康増進効果が見込めます。更に、玄米と併用すると、栄養素が補い合ってバランスが良くなり、効果的です。

小麦胚芽(ロースト)の栄養成分

右写真の食用小麦胚芽(ロースト)は、製造元が小麦胚芽分離法の特許を得て以来、研究を重ねているという製品で、天然の甘みを多量に含んでいます。

栄養成分 (100g当たり)
 熱量  412kcal
 たんぱく質  34.0g
 脂質  32.8g
 食物繊維  8.9g
 ナトリウム  0mg
 カルシウム  40.9mg
 鉄  8.71mg
 リン  1.09g
 カリウム  1.08g
 ビタミンB1  2.36mg
 ビタミンB2  0.72mg
 ビタミンB6  1.17mg
 ビタミンE
(αトコフェロール)
 22mg
 βトコフェロール  9.9mg
 ナイアシン  3.33mg
 パントテン酸  1.26mg
 葉酸  300μg
 ビオチン  20.5μg
 灰分  4.9g
オクタコサノール  0.2mg

 

焙煎されて、糖質は灰分になっていますが、たんぱく質、脂質とビタミン・ミネラル類は多量に含まれています。
焙煎で、ミネラルは還元されてますから、サプリメントに比較し、食べたときに感じる効き方が違います。

製造元の〔召し上り方〕説明では、「お茶、コーヒー、牛乳等を飲みながら胚芽をそのまま召し上がれます。又、胚芽に黒砂糖、ゴマ等を加えてお好みの味付けで召し上がれます。」との記載がありました。

筆者の「小麦胚芽を美味しく食べる方法」のご紹介

小麦胚芽にビタミン E が含まれています。ビタミン E は油溶性ですから、油との組み合わせて摂取するのが最適な方法です。

一緒に摂る油の種類としては、不足しがちなオメガ3の多い油がお勧めです。
(オメガ3: えごま油、アマニ油に多く含まれる不飽和脂肪酸)

右写真は、小麦胚芽に、えごま油を加えた例です。

酸化され易い えごま油ですが、還元塩を加えておくと、酸化防止になります。
また、小麦胚芽はフライパンで軽く炒めておくと、サクサク感が出ます。

小麦胚芽のみを食べると、パサパサして、食べ難いのですが 焙煎された小麦胚芽を、えごま油で捏ねると、香ばしい味が引き立ち、 美味しいクッキーの感じになります。

 混合比
 小麦胚芽  大さじ1杯 20g
 えごま油  小さじ2杯 10g

よくかき混ぜて、しっとりした感じにする。

ココナッツオイルとの組み合わせも可能です。低温では固まりますので、加熱すると良いでしょう。ココナッツオイルは加熱しても酸化しません。

コーヒー豆

コーヒー豆も種子で、さらに焙煎していますから、健康に良い成分(抗がん性成分)も抽出されている可能性が高いと思います。

コーヒーに関しては、日本を含め世界的にさまざまな研究が行われていますので、実際に健康効果があるのか否かを世界中から調査した下記文献をご紹介します。

安中千絵 著「1日3杯のコーヒーが人を健康にする!」(PHP研究所)※4 によると、コーヒーをたくさん飲む人ほど、肝臓がん発症率が低いなど、多数の事例の要約が中立的な立場から網羅的に記載されていますから、大変有用な本です。

本書は、〈 コーヒーはダイエットに効く 〉〈 コーヒーは健康に良い 〉というテーマに沿って書いていますが、中立に情報をお伝えするために、実は、裏テーマとして〈 コーヒーはダイエットに効かない 〉 〈 コーヒーはからだに悪い 〉 という仮説も立て、両面から検討しました。
なるべくコーヒーに関してネガティブな情報を探す努力もしたのですが、結局のところ、コーヒーの健康効果は、圧倒的に〈 良い 〉が優勢だったことに、私自身、改めて驚かされました。
コーヒーは、適量――1日に3杯くらい――を飲む分には、リスクより、効果が上回る健康的な飲み物です。

ペーパーフィルター使用の勧め

◇淹れ方
コーヒーにはジテルペン類という血中のコレストロール値や中性脂肪を上昇させる物質が入っています。これは健康には好ましくない成分なのですが、ペーパーフィルターを使ってコーヒーを淹れることで、ほとんど除去することができます。

出典:安中千絵「1日3杯のコーヒーが人を健康にする!」※4

筆者の「コーヒーを美味しく淹れる方法」のご紹介

コーヒーは良く飲みますが、コーヒー通というほど、道具には拘りません。

酸化したコーヒーは、不味いことが分かりますし健康にも悪いので飲みません。 還元力のあるコーヒーが、美味しいコーヒーの条件です。

30 年程前のことですが、新潟県の胎内川ほとりのホテルで飲んだコーヒーが 生涯で、断トツで美味しかったという記憶が残っています。一般の珈琲店用の豆でしょうから、「水の違い」だと感じました。 緑豊かな山の湧水で淹れるコーヒーは美味しいものです。

【筆者のコーヒーの淹れ方】

コーヒーカップ 1 杯分ずつ作ります。

コーヒーカップは、溢れさせないため、量の見えるガラス製が便利です。 ネルフィルターの形に合ったものを選びます。ぴったりする方が良い。

  • 水は、水素水を使います。水素水で淹れると、同じコーヒー豆でも、柔らかな味覚になります。
  • 沸騰させると水素が抜けてしまいますから、70℃ 前後まで温めます。
  • コーヒーカップとネルフィルターに、お湯を注いでから捨てます。
  • ネルフィルターの中に、円錐形のペーパーフィルターを入れます。
  • 挽いたコーヒー豆を入れます。
  • お湯を注ぎ、1 分ほど浸したままで、コーヒーを抽出します。
  • 抽出時間はお好みで調整します。
  • ネルフィルターを引き上げて完成です。
  • 雑味がなく透明でスッキリした味になります。

【引用文献および参考文献】

伊藤 悦男「がん患者は玄米を食べなさい 」(現代書林 2009年3月)、p62-65,p110-113
— 著者紹介 —
琉球大学名誉教授医学博士
60年、鳥取大学医学部卒業
72年琉球大学教授に就任
長年、がん細胞に対する食物の作用機序について研究。
退官後は介護老人保健施設「おおざと信和苑」で施設長。
地域医療に貢献。

伊藤 悦男/知念 美智子「カンタン薬膳みその作り方 」(現代書林 2005年6月)
知念 美智子
— 著者紹介 —
食育研究家
75年長女が喘息をもって生まれてきたことで「食育」に取り組む。
81年から手作り味噌を作り始め、試行錯誤の末、「麹立て」を失敗せずにできる方法を考案。
03 年 伊藤博士との出会いにより、自身が考案した手作り味噌に抗がん効果があることを知り、もっと世のお母さんたちに広く知ってもらおうと一念発起、伊藤博士とともに本書の出版を決意する。
今までに開催した薬膳みその講習会に参加したお母さんは約7万人。現在も週に4回以上の講習会を行い普及に努めている。
08年 文部科学大臣表彰 創意工夫功労者賞 受賞
09年 「味噌とその製造方法」で特許を取得。

鶴見 隆史「食養生で病気を防ぐ 」(評言社 2013年9月)、p25-49
— 著者紹介 —
鶴見クリニック院長
NPO法人鶴見酵素栄養学協会理事長
金沢医科大学医学部卒
浜松医科大学にて研修勤務
東洋医学、鍼灸、筋診断法、食養生などを研究
西洋医学と東洋医学を融合させた医療を実践
米ヒューストンでディッキー・ヒューラ博士などから酵素栄養学を学ぶ。
食養生や酵素栄養学に関する著書多数。

安中千絵 「1 日 3 杯のコーヒーが人を健康にする!」(PHP研究所 2014年6月)、p32,p187
— 著者紹介—
学習院大学法学部卒業。女子栄養大学栄養学部卒業。
東京都立大学大学院修士課程修了。都市科学修士。管理栄養士。
JSA認定ワインアドバイサー。
株式会社タニタなどを経て独立。
現在、企業の食・健康事業のコンサルティングや、メディアの栄養情報の監修・情報提供、執筆、講演等を中心に活動中。
コーヒーの消費量世界トップクラスのスウェーデンに住んでから、コーヒーファンになり、1日3杯のコーヒーを欠かさず飲んでいる。
著書に、『やせたい人は今夜もビールを飲みなさい』(PHP研究所)がある。