公益社団法人 日本伝熱学会 会員

園井 健二

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筆者は午前や夕方、散歩道を考え事しながら歩くことが多いのですが、「今、ここ」に気づくマインドフルネスに戻って、草花を見つめます。
散歩道には、「ヒマワリ」が咲いています。場所にも依りますが、ヒマワリは四方に茎を伸ばし、茎には蕾や花があります。夕方頃は、太陽の沈む西の方向に向いている花が多いようです。
広辞苑によれば、 ひまわり【日回り・向日葵】 キク科の一年草。北アメリカ原産。・・・ 太陽を追って花がまわるという俗説があるが、 実際にはほとんど動かない。

★俗説では有りませんでした!

「ヒマワリ」の首振り解明 米チーム 体内時計で成長制御

以下の記事のポイントは、成長と体内時計の相乗効果で、「ヒマワリ」が首振りするということです。また、累計の点灯時間と消灯時間が同じでも、24 時間サイクルが必要なことも分かります。

散歩の際には、時刻と太陽の方向とヒマワリの花の方向を観察しましょう。もちろん、生命は柔軟で、リスク分散もあり、100% 同じ方向を向くわけではありません。

引用文献:日本経済新聞 8月7日朝刊、p30

成長途中のヒマワリが太陽を追って東から西へ首を振る動きの詳細な仕組みを、 米カリフォルニア大の研究チームが実験で解明し、8 月 5 日付の米科学誌サイエンスに 発表した。

昼は太陽光を受けて茎の東側の成長が速いために次第に西を向き、夜は体内時計の働きで 茎の西側の成長が速くなって東向きに戻ることが分かった。 夏至に近づくにつれて夜が短くなり、夜の成長がスピードアップするという。

つぼみの状態のヒマワリの鉢植えを実験室に持ち込み、青色発光ダイオード(LED) の照明を太陽の動きをまねて移動させると、首を振る動きが見られた。 この際、16 時間点灯して 8 時間消灯する 24 時間サイクルから、 20 時間点灯、10 時間消灯する 30 時問サイクルに変えると、 消灯時に西から東へ戻る動きが不安定になった。体内時計が乱れたためと考えられる。 ・・(略)・・

成長し終えて開花期になると、障害物がない開けた場所では首が東を向いたままになる。 ・・(略)・・

「時計遺伝子」発見の歴史

地球上のすべての生物は体内時計をもっていますが、動物と比較し、動くことのできない植物は、太陽の光を効率よく吸収するため、沢山の体内時計の働きで、夜明け前から準備を開始します。

しかも、体内時計は、クォーツでもないのに、温度に左右されないという高い精度があります。その体内時計の仕組みは、時計遺伝子の発見によって明らかになりました。

引用文献:大塚邦明 著「『時計遺伝子』の力をもっと活かす!」※2

時計遺伝子・・(略)・・は、脳の体内時計の中だけではなく、体の至るところで観察されたのです。 血管や心臓あるいは肝臓や腎臓など、ほとんどの末梢組織において、生活活動の約 24 時間の リズムと同じ周期で発現する(これを「日周発現」といいます)遺伝子群の存在が確認されました。 ・・(略)・・今では、人の数十兆の細胞の大部分で、体内時計が回っていると考えられています。

 

米国テキサス大学のジョセフ・タカハシらは、・・(略)・・1997 年にマウスで、第 5 染色体にある 時計遺伝子クロック(Clock)を見いだし、そのクローニング(特定の DNA 配列を持つ遺伝子だけを 分離すること)に成功しました。偶然にもこの発表と同年に、埼玉医科大学の池田正明教授らに よって、もう一つ別の時計遺伝子が見いだされ、ビーマルワン(Bmal1)と命名されています。 ・・(略)・・同年の 1997 年に、目本と米国の 2 つの研究グループが、第 17 染色体にある 時計遺伝子パー(Per)を発見し、そのクローニングに成功しています。 それゆえ 1997 年は、時計遺伝子元年ともいわれます。

1999 年には 2 種類の時計遺伝子クライ(Cry)が発見され、それぞれクライワン(Cry1)と クライツー(Cry2)と名づけられました。クライワンとクライツーは互いに拮抗的に働きつつ、 サーカディアンリズムの周期を調節する役割を担っています。

 

時計遺伝子が時を刻む仕組みは・・(略)・・遺伝子からタンパクヘの化学反応の変化を利用 しています。その中心(コア)は 6 個の時計遺伝子です。・・(略)・・基本となる 6 個のほか、 ・・(略)・・すでに 20 種類以上の遺伝子が報告されています。 ・・(略)・・このコアループを中心に、複雑にネットワークを形成し、生体リズムがつくられます。 今では、そのほぼ全貌が明らかにされています。 ・・(略)・・

時計遺伝子の集合は、まるで 3 つの「駅」を中心に数多くの線路が連絡したような ネットワークを形づくっています。朝の駅をまかされたイーボックス(E‐box)。 昼の駅をまかされたディーボックス(D-box)。そして夜の駅を担当するアールアール イー(RRE)。この 3 つの駅が、互いに連絡しあいながら、おおよそ 24 時問の周期で メリハリをつけ、健康な毎日が送れるように体の仕組みを整えているのです。

朝、昼、夜という 3 つの駅に乗り入れる線路は、互いに複雑に連絡を取りあいながら、 時を刻みます。そこから薄明(夜明け)と薄暮れ(夕刻)がつくりだされます。

体と心の健康の鍵は、睡眠時間と体内時計の時刻合わせ

健康維持には多くの方法がありますが、下記 5 項目は大切な生活習慣で、しかも ”無料” です。

  1. 睡眠時間を確保する。
  2. 体内時計の 24 時間周期を乱さない。(起床時刻を一定にする)
  3. 朝、しっかり太陽の光を浴びる。
  4. 朝食はしっかり食べ、腹時計を起床時刻に揃える。
  5. 夜寝るときは、明かりを消し、カーテンを閉じて眠る。
千葉県立「柏の葉公園」内の日本庭園「牧が原園」2016年8月筆者撮影

「質のいい睡眠」で副腎をいたわる

体内時計が正常化されると、ホルモンの分泌周期(サーカディアンリズム)も正常化します。

特に効果が大きいのが、睡眠ホルモンのメラトニンと副腎皮質ホルモンです。副腎皮質ホルモンの内、ストレスホルモンのコルチゾールと抗ストレスホルモンの DHEA が通常は等量作られます。

引用文献:上符正志 著「若くて疲れ知らずの人は副腎が元気!」※3

日中の仕事モード=コルチゾールとすると、夜はカラダを休息モードにもっていき、 いかに速やかに睡眠に入れるかが、副腎疲労改善の鍵となります。そのためには、まず、自宅の寝室やリビングの照明を考えることが重要です。

 オフィスやコンビニの照明はほとんどが蛍光灯。影があまり日立たない蛍光灯は 昼間の光に近い照明です。つまり、おのずと交感神経を刺激します。一方、 オレンジ色の間接照明は影がはっきりと出る夕方の光に近い照明です。 こちらは副交感神経が優位になりやすい光です。

・・・(略)・・・

 ヒトの瞼の皮膚はカラダの中で最も薄いので、目を瞑っていても光が突き抜けて 入ってきます。ですから、日中のような光の刺激を受けない工夫が必要です。 寝室はもちろん、できればリビングも間接照明にすることが、カラダを休息モードにもって いくポイントでしょう。寝室にテレビを置かないということは、もう言うまでもありません。

・・・(略)・・・

 眠る前に 1000 ルクス以上の光を見ないことも大切です。食事のときは 300 ルクス、 読書では 500 ルクス、編み物など細かい作業をするときには 1000 ルクス程度の 照度が適切とされています。パソコンの光やコンビニの照明は 1000 ルクス以上。 その影響下にいれば、必要以上のコルチソールが出てしまいます。 また、パソコン、携帯などの青白い光は、睡眠を促すメラトニンというホルモンの分泌を 抑制してしまうことも分かっています。

 寝る前のメールのチェック、ネットサーフィン、深夜のコンビ二通いなどは睡眠を妨げ、 副腎を苛めていることに他ならないのです。

 朝、起きるときにも工夫が必要です。毎朝、目覚まし時計の音で起きているという人は 少なくないと思いますが、これはおすすめできません。寝ているときは、深夜から コルチソールの量は徐々に増えていますが、それでもまだコルチソールは低い状態です。 脈拍も遅く、体温も低く、血圧も低い、半醒半眠状態です。

 そこからいきなり目覚ましの音で叩き起こされた瞬間、血圧、血糖値、コルチゾールが 一気に跳ね上がります。朝、心筋梗塞で倒れるケースが多いというのは、このショック 状態が原因のひとつでもあるのです。

 最もカラダに負担をかけない起き方は、光の刺激で起床すること。朝陽が登って空が だんだん白んで明るくなる。その光情報が網膜から脳に入って覚醒するのが理想的です。

「睡眠時間の量」も確保する

現代の都会は、夜も照明で明るく便利で、寝るのも惜しむ空気がありますが、私たちの心と体が必要とする睡眠時間の量は、「文明化以前」と変わっていません。

心の「うつ」の原因で、見逃され易い「睡眠時間」のエビデンスを以下 2 件ご紹介します。

引用文献:井原裕 著「うつの常識、じつは非常識」※4

◎7 時間睡眠は疾患によらない健康法の基本

 

私は、『生活習慣病としてのうつ病』という小著を出して以来、日本中から講演に呼ばれるようになりました。北は北海道から、南は九州・沖繩まで。一般市民向けの講演もあれば、医師向けもあり、それも精神科医向けだけでなく、一般開業医向けもあります。

 

それどころか、糖尿病の専門医とか、ペインクリニックの医師とか、眼科医の会、小児科医の会、整形外科医の会からお呼びがかかったことすらあります。

これは、本書で何度も申し上げたようにように、生活習慣を整えることが「うつ病」だけでなく糖尿病、慢性疼痛、視力障害などにも妥当する、有力な改善方法だからです。

今日、「睡眠と糖尿病」「睡眠とメタボリック症候群」「睡眠と死亡率」などさまざまな鎖域で疫学研究が行われており、それらはすべて「睡眠時間は 7~8 時間が健康リスクを最小化する。それより長くても短くても健康リスクは上がる」という結論があるからです。昨今の疫学は、常に本書の主張を支持する結果を出してくれているのです。

引用文献:「中高生 8 時間半睡眠が心の健康によい」東大など研究(NHK 2016年7月30日)

中学生や高校生は、睡眠をおよそ 8 時間半しっかりととった場合、心の健康状態が最もよくなり、逆に 5 時間半未満と短いとうつの症状が表れやすくなることが、東京大学などの研究で分かり ました。

心療内科の医師で健康教育学が専門の東京大学の佐々木司教授などのグループは、中学生と高校生合わせて 1 万 8000 人余りを対象にアンケート調査を行い、ふだんの睡眠時間ごとに、落ち込んだり意欲が湧かなかったりといった、うつの症状を感じている人の割合を調べました。

その結果、男子では、睡眠が 5 時間半未満の場合、うつの症状を感じている人が半数以上と最も多くなったのに対し、8 時間半から 9 時間半の場合、およそ 2 割と最も少なくなりました。女子では、睡眠が 5 時間半未満の場合、うつの症状を感じている人が 7 割以上と最も多くなったのに対し、7 時間半から 8 時間半の場合、およそ半数と最も少なくなりました。

こうしたデータから、中学生や高校生は、睡眠をおよそ 8 時間半しっかりととった場合、心の健康状態が最もよくなり、逆に 5 時間半未満と短いとうつの症状が表れやすくなることが分かったということです。

佐々木教授は「精神的な病気の人の多くは 10 代のときに発症している。中学生、高校生の頃に心の健康状態を良好に保つことは非常に重要で、そのためにも十分な睡眠をとってほしい」と話しています。

引用文献および参考文献※1 は参考文献

NHKサイエンスZERO取材班+上田泰己[編者]「時計遺伝子の正体」※1(NHK出版 2011年2月)
— 編者紹介 —

上田泰己(うえだ ひろき)

1975年生まれ。

独立行政法人理化学研究所・発生再生科学総合研究センター・システムバイオロジー研究プロジェクトリーダー。

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。

専門はシステム生物学、合成生物学。

大塚邦明「『時計遺伝子』の力をもっと活かす!」(小学館 2013年2月)、p37~40
— 著者紹介 —

大塚邦明(おおつか くにあき)

1948年愛媛県生まれ、九州大学医学部卒。

同大学温泉治療学研究所助手、 高知医科大学老年病学教室助手を経て、 98年より東京女子医科大学 東医療センター内科教授。

2007年には時間生物学世界大会を主催。

2008年より同センター病院長。

医学博士。時間医学・老年医学が専門で、時間医学と フィールド医学の融合を研究。

日本時間生物学会会長、日本自律神経学会会長を歴任。

著書に『100歳を可能にする時間医学』(NTT出版)、 『体内時計の謎に迫る』(技術評論社)、 『「もっと時計を見る」と健康になる』(マキノ出版)他。

本書のうち、

第5章生体リズムを整える睡眠

第6章生体りズムの乱れを直す食事

の2章は、東京女子医科大学東医療センター内科講師の大塚由美惠氏執筆。

大塚由美惠(おおつか・ゆみえ)

2000年、明治学院大学社会学部社会福祉学科卒。

2004年、早稲田大学アジア太平洋研究科国際関係学修士。

英国留学、ビルマ・タイ難民実態調査を経て、2001年より ヒマラヤ連山の高所ラダック、北海道、高知県のフィールド医学調査を行う。

2011年より、東京女子医科大学・東医療センター内科講師(非常勤)。

  1. 上符正志「若くて疲れ知らずの人は副腎が元気!」(マガジンハウス 2013年8月)、p140~142

— 著者紹介 —

上符正志(うわぶ まさし)

 

銀座上符メディカルクリニック院長

1960年、山口県下関市生まれ。

九州大学工学部在学中、医師が社会で果たすべき役割に めざめ転身。卒業後、横浜市民病院外科、 産業医科大学医学部に入学。

北里大学医学部救命救急センター、益子病院内科などで 治療に携わりながらも、病気の早期発見・早期治療の方法に 限界を感じていた。

そんななかでアンチエイジング医学と出会い、 発症を未然に防ぐ患者本位の医療の可能性を見いだす。

米ニューヨークのザ・サレーノ・センターで行われている 最先端治療プログラムを習得し日本に導入。

2010年に銀座上符メディカルクリニックを開院した。

米国抗加齢医学会専門医、日本抗加齢医学会専門医、 日本抗加齢医学評議員。

  1. 井原裕「うつの常識、じつは非常識」(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2016年7月)、p141~142

— 著者紹介 —

井原裕(いはら ひろし)

 

1962年鎌倉生まれ。

獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授。

東北大学(医)卒。

自治医科大学大学院、ケンブリッジ大学大学院終了。

順天堂大学准教授を経て、2008年から現職。

日本の大学病院で唯一の「薬に頼らない精神科」を主宰。

専門は、うつ病、発達障害、プラダー・ウィリー症候群等。

精神科臨床一般のみならず、産業精神保健、刑事精神鑑定等にも対応。

著書に『生活習慣病としてのうつ病』(弘文堂)、『うつの8割に薬は無意味』(朝日新書)など。