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ホーム > WEBマガジン SHINKAWA Times > コラム > 杉田 美保子 > スペインのゆとり、日本のゆとり 「スペインの世界遺産『巡礼の道』」 No.5
掲載日:2016年09月06日

スペインのゆとり、日本のゆとり
スペインの世界遺産「巡礼の道」No.5

 

 

スペイン語通訳・翻訳

インターネットラジオ「El Extrarradio」で
日本文化紹介の番組担当
杉田 美保子
プロフィールはこちら

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Obanos - Estella

前回は、ゆったりだけれど長い長い赦しの峠を登り、巡礼者の記念碑前で記念写真を撮り、やはり長い長い下り道を下り、Obanos の村に到着しました。

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ブエン・カミーノが合言葉の巡礼の旅。歩いている道にまでホタテの模様と「Buen camino」の文字がある

 

 

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窓が小さく、壁は厚い石でできた建物は、暑さにも寒さにも順応する。
窓シェードの無い家は少ない

スペインの猛暑対策として、窓を全て閉め、シェードも降ろし、部屋を真っ暗にしておくという手段があります。石造りの家の場合、その石が厚ければ厚いほど断熱するので、日本とは違い湿度の低いスペイン中部・北部では、熱風さえ入ってこなければ家の内部は涼しいのです。いつものようにお昼前に到着した宿泊所も薄暗く、すれ違う人たちの肌の色もわからない中で挨拶を交わし、ベッドを決めて、それぞれが昼食やシャワーに散っていきます。

スペインのゆとりとして、この「ユニセックス性」が挙げられます。ほとんどの宿泊施設には二段ベッドが大部屋に並べられ、それぞれのベッドの横にロッカーがある場合、ない場合など、スタイルは様々です。ただ、いずれの場合も部屋は男女一緒の相部屋なのです。汗だくで到着し、受付をし、空いているベッドを探し、荷物を置き、それから準備をしてシャワー室へ。または始めに腹ごしらえに。ベッドを決めるときには、近所のベッドには荷物のみがあるのでそれが女性のものか男性のものか、というのはわからない場合が多いのですが、そういうことを全然気にしないのが「巡礼の道」の気楽さです。なお、どうしても「女性だけで」、「男性だけで」、というならば、ワンランク上の宿泊施設(オスタルであったり、ホテルであったり)を利用することをお勧めしますが…。

この「ユニセックス」の楽しいところは、世界中様々なところからやってきた人々と、老若男女こだわることなく、コミュニケーションができることでしょう。食事が終わり、昼寝も終わると、みんなが中庭に集まってきます。やっと気温も下がり始め、すでに同じペースで歩いていて必ず毎日同じ宿泊所で顔を合わす人も出てきたので、自ずと会話も弾みます。ロンセスバリェスから歩き始めてすでに 4 日経ちましたが、いくら足に合った靴を持っていても、ほぼ 100 キロメートル踏破ともなると、足も悲鳴をあげ始めます。私たちと同行の O さんもそろそろ限界のようで、足を引きずりながら歩いています。「日本男児」ということで、涙目にはなっていませんが、かなり痛々しいマメができているようです。そこに登場したのが、到着時に薄暗い部屋でロボットのように歩いていたブラジル人の M.J. さんです。「どうしたの? 足、マメができたの? ちょっと見せてごらん」と言う M.J さんに足を預けた O さんですが、直後に「ぎょっ」とした顔。マメをつぶすための針には、しつけ糸のようなコットンの糸が通してあり、針先はライターとアルコールで二重の消毒、すかさずマメに向かって針を…。

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マメの縁と縁を針で貫通し、糸を通し、その糸をマメの上で結ぶと、無理なく自然に排水されるとのこと。
見た目は痛々しいが、痛くはなかったそうだ

 

 

あまり物事に動じない O さんの奥さま、S さんの口からさえ「えー? やめて〜! だめー!」という声が。それほど、この民間療法は私たち日本人の想像を超えたものだったのです。M.J. さんいわく、「水ぶくれに穴を開け、無理やり水を絞るだけだと、次に歩くときにマメが潰れて、皮が剥がれてしまうんだ。水ぶくれの両端から二つの穴を開け、糸で結んでおくことによって、糸を伝って中の水が少しずつ体外に出て、なおかつ糸によって皮が剥けないようになっているんだ」と。医学的に正しいのか、間違っているのかはさておき、まずは水ぶくれの水を抜く、それも少しずつ、というのが意図のようです。皮に針を刺されても痛くないし、水が体外に出て行くことによって痛みも軽減した O さんの水ぶくれ治療はあっという間に終わり、治療のお礼に S さんが M.J. さんの肩に指圧をする場面もあり、いろいろな国の療法がお披露目された午後でした。

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足裏の傷口が直接地面に当たらないように工夫されたお手当。
足の怪我が一番辛い、巡礼の道

巡礼者のための宿舎というのは、原則一泊しかできないので、「もう 1 日この町で観光を」ということは許されていないのですが、必ず例外があります。それが、「身体の不調」です。南スペイン出身のこの女性、かかとではなく、足の裏の皮が「ベロン」と剥けてしまったようで、どうすることもできず、連泊を余儀なくされています。「足の裏が地面につかなければいいんだろ? じゃ、ついちゃいけない部分の周りを高くしてみよう。これで大丈夫さ」と「修繕」したのがマドリードの男性。荷物は最小限に、という割に、みんなかなり変わったものを持ち歩いているようで、この足裏修繕は靴のスポンジ中敷をハサミで切って、テープで貼り付けた、というもの。

またみんなと合流するために、二日ほど休養し、バスで追いかけるか、今回は諦めて家に戻るか、など、中庭でいろいろなアイディアが出てくるのも楽しいものです。

さて、5 回も続いている連載ですが、まだ一度もお料理に関してお話ししていませんので、ここで巡礼メニューの定番 をご紹介します。

1 日 20km ほど歩くと、かなりの体力を消耗するものですが、その分しっかりと食べます。「こんなに食べちゃって良いのかい?」というほどの量が出てきます。お昼からガッツリと食べ、しっかりとワインを飲んで、次の日に備えるのです。この巡礼の日替わり定食メニューには、前菜とメイン、デザート、飲み物(ワインや水、ビールなどお好みのもの)、パンとコーヒーがついて、だいたい 10 ユーロ(1150 円/H28.8.20 現在)です。現在は円高で日本から行くとなると割安ですが、現地で生活する身となると、案外高い、というのが印象でした。ただ、疲れて到着してからスーパーで買い出しをしてお昼を作る、というのは体力的にもキツイですし、宿泊所によってはキッチンが使えない場合があるので、致し方無いものです。

 

この日のメニューは、白マメのポタージュが前菜、牛肉のエストファードがメインでした。前菜は、注文した人数分のポタージュが大鉢で出てきて、それぞれ好きなだけ取り分けて食べる、というスタイルです。メインはこの写真で一人分。テーブルの中央において、家族四人で食べても良さそうな量です。スペイン風肉じゃがという感じですが、お肉は薄切りではなく、かたまりで出てきて、もちろんお醤油もみりんも使わず、オリーブオイルとスパイスのみとなります。これ以外の選択肢として、グリーンサラダがあったり、グラタンがあったり、パスタがあったり、という巡礼者用の定食。巡礼者は 1 日しか同じ町に滞在しないので、レストランからすると毎日同じものを用意すれば巡礼者が変わっていく、ということで、日替わりになるのはレストランのメニューではなく、巡礼者の顔ぶれなのかもしれませんね。

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白マメのポタージュ。鉢に人数分が入れてあり、それぞれ好きなだけ食べれば良い、という形式。
ドカンとかたまりの牛肉の入った煮込み料理エストファード。見た目には日本の肉じゃが

スペインからのお友達を度々アテンドしますが、レストランに入るなりおしぼりとお水が出てくることにびっくりされます。「まだお水は頼んでいないけれど、これは料金がかかるの?」と尋ねられることもしばしば。「いいえ、これはサービスだから、もれなく付いてくるのよ」にびっくり。「日本はお水が豊富なので、水道のお水でも美味しいの。特に金沢は」とお国自慢をしてしまうほど。また、「どうして氷が入っているんだ?」とも尋ねられます。確かに、スペインでミネラルウォーターを頼むときには「冷たいものか、常温のものか」という選択肢はあっても、グラスに氷が入ってくることはありません。この辺りが、それぞれの国のおもてなしの心と習慣ということなのでしょう。

 

ここで日本からスペインに行くとどういうことが起こるのでしょうか? 実は、スペインで定食を頼むと、価格に含まれるのはお水、ビール、ハウスワインということになります。レストランで供されるお水はミネラルウォーター、ビールは小瓶詰めなので、お代わりをすると別料金を取られることがあります。ただし、ハウスワインに関しては、樽で大量購入するワインを瓶やピッチャーに取り分けてテーブルに出すため、「もうちょっと」と空瓶をかざすと、もう一本出てきます。以前、お酒を飲まれない方お二人と共にスペインを旅行したことがありますが、「私たちお酒は飲まないので割り勘は困ります」と言われました。こちらはハウスワインをおかわり、おかわり、でしたので、とんでもない料金を請求されるのだろう、と思われたようです。最後にお勘定を二つにしてもらったら、アルコールを飲まれなかった彼らの料金の方が高く、ワイン代は定食料金に含まれ、ミネラルウォーターは別料金を取られていたため、目を白黒されていたのを思い出します。そうです。ワインはミネラルウォーターより安いのです!

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これは定食用ではなく、ワインリストで注文する。
名前がPeregrino、つまり巡礼者、ということで、頼んでみた

ワインはいくら飲んでも定食料金に含まれる*…。

いつの日か、日本にもこんなスペイン風のゆとりが上陸するのでしょうか?

 

今日は Obanos と Estella(この間約 26km)の宿泊所で行われた、傷んだ足の民間療法をご紹介いたしました。なかなかワイルドです。治療にあたっては、巡礼者の中に医療関係者もいて、消毒、傷薬、絆創膏、などが提供していただけましたので、ご安心ください。では、来月もまたお付き合いいただければ、と思います。

 

¡Buen camino!

(ブエン・カミーノ、「良い巡礼の旅を!」の意)

 

 

(注*:ここでいうワインの位置付けは、庶民向けの定食屋でのテーブルワインの価格設定です。全てのレストランが「ワインお代わり自由」というわけではありませんので、ご注文の前に必ずご確認をお願いいたします。)

【プロフィール】

杉田 美保子

スペイン・バルセロナでの滞在27年を経て、2015年に実家のある金沢市に移住。日本三名園の一つ、兼六園で観光ガイドをするかたわら、地域の方々にスペインの魅力を語り、「故郷」バルセロナとのつながりも大切に、翻訳通訳だけでなく、ステレオタイプに縛られない、多方面での活動を模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験DELEのC1(上級)所持。

コラムに関するご意見、お問い合わせ:sectimes@shinkawa.co.jp