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ホーム > WEBマガジン SHINKAWA Times > コラム > 金子 成彦 > 産業の教育と現場からNo.5 PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう!
掲載日:2010年04月06日

産業の教育と現場から No.5
PBL教育を通じて日本のガラパゴス化を阻止しよう!

東京大学 大学院工学系研究科 機械工学専攻 教授  金子 成彦

 

 

 

 

 

東京大学  大学院工学系研究科
機械工学専攻  教授  金子 成彦
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ガラバゴス化する日本

  最近、日本がガラパゴス諸島のようになってしまうのではという懸念が生まれている。ガラパゴス諸島は、南米エクアドルの西方沖合い約900キロにある火山性の島々で、ガラパゴスイグアナ、ガラパゴスゾウガメなど独自に進化した生物が生息することで有名である。南米大陸からガラパゴス諸島に向かって海流が流れているため、一旦流れ着いた動物はなかなか大陸には戻れない。独自に進化した生物は外からの攻撃に弱く、厳重な自然保護によって絶滅を免れている。このような状況に良く似た様相が今の日本の産業、教育、ライフスタイルなど随所に散見される。

吉川尚宏氏(ガラパゴス化する日本:講談社現代新書)によると、日本のガラパゴス化とは、

1)日本製品のガラパゴス化 (日本企業の作るものやサービスが海外で通用しないこと)
2)日本という国のガラパゴス化 (日本が孤立し、国全体が鎖国状態となるリスクをはらむこと)
3)日本人学生のガラパゴス化 (最近の若者がおとなしくなっていて、海外に出たがらないこと)
の三つを指すようである。

博士課程の現状

  直近の東大工学部の調査によれば、理科I類入学者で博士課程まで進む学生の割合が4%にまで下がったことが報告されている。博士課程の充足率が低い状況については、大きく分けて二つの意見がある。一つは、博士課程の定員がそもそも多すぎて減らすべきであるという意見、もう一つは、定員は減らさずに、博士課程での教育のスタイルを論文執筆や研究中心の従来の活動だけでなく、留学生や専門の異なる学生との交流、企業との交流を通じた活動も加えて、国際化する社会のニーズに応えられる教育プログラムを取り入れることによって博士課程をより魅力的にすべきとの意見である。
  目下、博士課程学生の教育プログラム作成に深く関与している小生は、このところ自問自答することが多くなった。

  「日本における博士課程学生の役割と学生が備えるべき資質は何だろう?」

  普段から博士課程修了者と接する機会は多いが、彼らに共通する資質は、学問に対する関心の持ち方と深い理解および自分の研究哲学つまり研究企画や方針に独自性を持っていることである。最近では、研究者は研究成果や外部発信の回数といった分かりやすい指標のみで評価されることが多いが、独自性を形成し維持するためには、外からは見えにくい部分、身体特性でいうところの体幹が重要である。従って、博士課程では、パフォーマンスにつながるアウターマッスルだけでなく、体幹を支えるインナーマッスルを鍛える教育プログラムも必要であると小生は考える。インナーマッスルを鍛える教育プログラムの一つが、以下に紹介するPBL教育プログラムである。

PBL教育プログラム

  このような背景の下、東大機械系ではGCOEに所属するRA博士課程学生を対象に専攻横断型PBL教育を実施している。PBL(Project Based Learning)とは、問題設定解決型学習プログラムと呼ばれる教育プログラムで、企業から提供して頂いたテーマ(その多くは中長期的な課題解決のためのアイデア出しが多い)に対して、違う専攻に所属する5~7名の学生でチームを構成して取り組むものである。一つのチームには、企業側からのプロジェクトマネージャー、大学側の責任者となる担当教員と学生と企業とをつなぐ役目をするファシリテーター(その多くはポスドク学生)が付いていてプロジェクトの進捗状況の把握にあたる。
  PBL教育プログラムは、カナダのマックマスター大学の医学部で開始され、その後、北欧や米国の工学系大学に広まり、最近になって日本に伝わった。「8大学工学部長懇談会(注:8大学とは、旧帝大+東工大のこと)」で話題となり、平成8年より、懇談会のもとに「工学教育プログラム検討委員会」が設置され、創成型科目(デザイン型科目)の重要性が指摘された。国内の機械系の大学ではこの流れを受けて、学部や修士学生を対象に実施されていることが多い。当研究室でも過去に学部・修士を対象に試行し成果をあげてきた。 

優秀賞に輝いたPBL新川電機チーム

卒論発表会や修論発表会が終了した3月上旬に、専攻横断型PBLの発表会が学内で行われた。今年度は全部で7チームのエントリーがあった。その中には、新川電機からテーマをご提供頂いたチームが含まれていた。このチームは、プロジェクトマネージャー(新川センサテクノロジ:青木さん)、ファシリテーター(ポスドク)、担当教員(金子)、プロジェクトリーダー(日本人学生)、メンバー(日本人学生3名、留学生2名)で構成され、「無線センサーへのエネルギーハーベストシステムの適用」をテーマとして活動を行った。学生は、無線センサーの消費電力の検討、現実的な環境エネルギー源の選定について検討を重ね、センサー設置地点周辺の熱を利用したエネルギーハーベストシステムを熱電変換素子を使って構築し、可能性を示してくれた。審査の結果、このテーマは、7テーマ中2番目の評価(優秀賞)を得ることができた。(関係者のご協力に感謝致します。)

日本のガラパゴス化阻止に向けて

  さて、ガラパゴス諸島は、ダーウィンが進化論を着想した航海で立ち寄った島としても知られている。外部との交流を絶って独自の発展を遂げると、島に残されたガラパゴスゾウガメのようになり、日本の技術は「パラダイス鎖国」の道を辿る可能性があるが、サルがヒトに進化を遂げたように別の進化の道を見つけることができれば、新たなフロンティアの開拓に向かうことが可能になる。日本の将来を担う学生に、新たな進化を目指す方向に必要な資質を付けるための教育プログラムを企業と大学が協力して作ることは極めて重要であると考えている。今後もご支援をお願いする次第である。


パラダイス鎖国か、さらなる進化をめざすか 

(注)“ガラパゴス化”という言葉がはじめて登場したのは、北俊一氏による、「携帯電話産業の国際競争力強化への道筋(ケータイ大国日本が創造する世界羨望のICT生態系)」、知的資産創造、2006年11月号、P.48。“パラダイス鎖国”は、海部美知氏による「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本(アスキー新書 54) (新書)」に登場する。
コラムに関するご意見、お問い合わせ:sectimes@shinkawa.co.jp