2 巧妙性実現の手段群(9)
ここまで、メカニズムの各種の特性についてやや詳しく述べましたが、では、W・T・MACS のなかの他の要素群はどうなっているのでしょうか? 以下、改めてそれぞれの要素群をもう少し詳しく見ていきましょう。
もう一度図 1-14 を見てください。
図 1-14 自動化の要素
(W・T)ワークとツール
前述したようにワーク W は要求元から指定されるもので、ツール T は、ワークとそれに対する仕事の内容次第で専用設計するものと考えていいでしょう。
(M)メカニズム
そのツールを動かすメカニズムは、これも前述の通り、アクチュエータの機械運動を入力としてツールの駆動用の機械運動に変換出力するものです。その変換の内容に「均等変換」と「不均等変換」とがあり、速度特性・力特性など考えるべき多くの内容があることは理解されたと思います。
図 1-14 のメカニズムにある二つのグループの上側が「均等変換」で下側が「不均等変換」のメカニズム群です。
[ A ]アクチュエータの各種と分類
【等速型と可変速型】
次にアクチュエータは、何らかのエネルギを入力として、回転・直進・搖動などの機械運動出力に変換するもので、基本的に「等速型」と「可変速型」とに分類されます。(図 1-14 ではこのような分類表示をしてありません)
「可変速型」というのは、信号の与え方や入力の大きさなどで自動的に速度を変更できるものを言います。
当然、エネルギの種類にはいろいろあります。
空気圧というエネルギを直進の機械運動に変換するアクチュエータが空気圧シリンダで、一般に速度設定は絞り弁で変更できますが、手動設定になっているため等速度型に分類します。
電気というエネルギを入力として回転という機械運動を出力するアクチュエータがモータで、インダクションモータ、リバーシブルモータやシンクロナスモータのように単純に一定速度で回転するだけの「等速型」と、サーボモータやステッピングモータのように入力の与え方で速度を自動可変とする「可変速型」のものとがあります。
また、水流というエネルギを回転という機械運動に変換する山の水車も、風というエネルギを回転という機械運動に変換するオランダの風車も、あるいは火薬の爆発によるエネルギを直進運動に変換するライフル銃もアクチュエータです。
さらに、エネルギとして熱を用いる形状記憶合金の変形復元力も、熱膨張利用によるごく微小寸法の駆動機構もアクチュエータで、アクチュエータの範囲は極めて広いのです。
しかし、通常我々が使うのは、電気系・油空圧系のアクチュエータが殆どでしょう。
ところでメカニズムの解説で出力速度をゼロにしたとき、出力の力は無限大と前述しましたが、可変速アクチュエータではそうはなりません。
メカニズムの場合は入力エネルギが一定なのですが、アクチュエータで速度を落とすということは駆動されるべき負荷が一定であっても、これを駆動するアクチュエータに与えるエネルギを減少していくことなのです。
そして、アクチュエータに与える入力エネルギをゼロにすれば、出力速度はゼロになります。
これでは、速度特性を末端減速にすることはできますが、どう考えても末端増力にはなりません。
【固定ストローク型と力・速度バランス型】
さて、アクチュエータについては「等速型」「可変速型」の分け方のほかに、「固定ストローク型」と「力・速度バランス型」の分け方があります。
「固定ストローク型」は、スタートすると「必ず所定のところまで進む」アクチュエータです。
例えば電磁ソレノイドや油圧シリンダなどは通常十分強いものを使って、少々負荷の変動があっても原則として最終端まで駆動されるような使い方をします。したがって「固定ストローク型」と考えていいでしょう。
空気圧シリンダもほぼ同様な使い方が多く「固定ストローク型」と言えます(負荷が大きいと速度が落ちて終端まで行ききれないことも無いとは言えませんが)。
ステッピングモータの場合は、原理的には図 2-23 に示すように回転子に取付けた永久磁石を、周りに置いた複数の電磁石が、A0-B0-C0-・・・と順番に引っ張るので、1 ステップの駆動量は一定です。これも「固定ストローク型」の典型です。
図 2-23 ステッピングモータの原理図
ところが少し負荷の慣性が大きくなって、1 ステップ分を動くのに予定より時間がかかったとすると、制御のほうではその間に B0 から C0、C0 から D0 へと通電を切り替えてしまいます。すると永久磁石から見てどんどん遠い方の電磁石が引っ張ろうとしますが、遠いので力は弱く、とても引っ張れません。
したがって、一回でも追従ミスがあると、永久磁石はどこへ行って良いかわからず、「その辺をうろうろ」して、回転できなくなってしまいます。
1 ステップ分だけ遅れてついて来るというわけにはならないのです。
順調に 1 ステップずつ動いていたのが調子が狂ってしまうので、これを「ステッピングモータの脱調」と呼びます。
これに対し、「力・速度バランス型」というアクチュエータがあります。
これはサーボモータをはじめインダクションモータ、直流モータなど、基本的に負荷がかかると速度が落ちるアクチュエータがこれに入ります。
さて今、或るモータが出力 \(P1\) で負荷を駆動し、速度 \(V1\) で回転しているとします。
図 2-24 アクチュエータの出力と速度の関係
ここでクイズです。
このモータが持つべき速度/出力特性は、A、B、C のうちどれでしょうか?
出力が速度に比例する A がよい
出力が常に一定で理想的な B がよい
出力が速度に反比例する C がよい
*解答*
今は \(P1/V1\) で安定して回転していますが、負荷が少し増加して回転速度が少し下がったとします。
A の特性では速度が下がると出力も下がるのでますます速度が下がり、ついに回転できなくなります。
B の特性では負荷の変動に対処できないばかりか、通常の回転速度がどこになるか予測もできません。
C の特性なら速度が下がると出力は増えるので、多少遅い速度ですがそのまま回転し続けます
つまり「力・速度バランス型」のアクチュエータでは、右下がり特性の範囲で安定した駆動ができるのです。インダクションモータなどは通常使用領域では右下がり特性になっていますが、ある範囲までしか対応していません。
サーボモータの場合は本来、速度ゼロから最高速度まで全範囲で右下がり特性になっているはずです(別の例もあるようです)。したがって荷物が重くなれば「少し遅いけれどどうにかついて来る」ということになります。ここがステッピングモータと違うところです。
外部負荷が大きくなってモータが停止してしまった状態では、最大の出力トルクで回転しようと一生懸命頑張っていて、少しでも負荷が軽くなればすぐに回りだす、というのがサーボモータ自身の特性のはずです。ところが、最近では、停止してしまうと殆どの場合、専用コントローラが「エラー」として電源を落としてしまいます。
もちろんその方が安全ではありますが、ちょっと特殊な使い方をしようと思うと不便なこともあるようです。
次回は、コントローラとインターフェイスについて説明します。
「生産性向上とメカトロニクス技術講座」バックナンバー
- 本講座の目次
- 生産設備の構成要素(1)工場はすべて作業ユニットの集合.....
- 生産設備の構成要素(2)作業ユニットは W・T・MACS から成り立つ.....
- 生産設備の構成要素(3)フィードバック信号をどこから取ったか.....
- 巧妙性実現の手段群(1)メカニズムの速度特性の活用と加速度/直進テーブルの往復動作実験.....
- 巧妙性実現の手段群(2)メカニズムの速度特性の活用と加速度/物は加速度で動かされる(その1).....
- 巧妙性実現の手段群(3)メカニズムの速度特性の活用と加速度/物は加速度で動かされる(その2).....
- 巧妙性実現の手段群(4)メカニズムの速度特性の活用と加速度/加速度特性の改善と効果
- 巧妙性実現の手段群(5)円と直線の組合せが面白い第1世代・ヒンジとスライドのシステム/自動化システムの 80% は.....
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- 巧妙性実現の手段群(8)円と直線の組合せが面白い第1世代・ヒンジとスライドのシステム/メカニズムによる力特性の活用法
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