4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3)
世界で活躍するソフトウエアカム
Sin カーブの動作特性を実現するソフトウエアカムシステム(1)
Sin カーブの動作特性を実現するソフトウエアカムシステム(2)
ソフトウエアカムのタイマー動作
ソフトウエアカム曲線の部分使用
※:今月号にて解説
前回後半に紹介した今世界中で大活躍しているソフトウエア・カムシステムはどうなるのでしょうか?
ソフトウエアカムの基本構成は図 4-7A に一例を示すように、ステッピングモータまたはステッピング駆動のサーボモータなどで送りねじなどの均等変換メカニズムを駆動するのが標準的です。
この構成は「一軸のロボット」と言われるものになっています。図 4-7B はそのブロック図を示します。
ステッピングモータの場合はセンサを使わずオープンコントロールにすることが多いのですが、一般的には駆動特性・応答特性などを自由に設定できるサーボモータによる駆動が多く使われています。
図 4-7A ソフトウエアカム・システム
図 4-7B ソフトウエアカム・システムのブロック図
センサは以前も述べた通りサーボモータの回転軸に直結したロータリエンコーダを用いるものがほとんどで、サーボモータの駆動量を常に検出しています。
これを以前の「図 2-50 カム駆動の深穴あけシステム」と同様の構成にしたのが図 4-8 です。
この場合、コンピュータの中には深穴あけ用のカム曲線を実現するソフトウエア・カムが何種類も入っていて、品種番号によって対応するソフトウエアカムを呼び出せばそのまま駆動できるわけで、品種切換えは大変容易です。
図 4-8 ソフトウエアカムによる細いドリルでの深穴あけシステム
はじめに例として述べた図 4-1 のような場合には品種切換え信号一つで即座に次の品種のカム曲線が設定されることは当然です。もちろん品種によってドリルの直径を変えなければならないようなときはドリルの着脱・設定が必要ですが、メカニカルカムの交換を考えるといかに切換えが容易か想像できます。
図 4-1 細いドリルによる深穴開け対応品種の例(再掲載)
つまり多品種生産のための品種切換えを容易にして、生産システムの柔軟性「フレキシビリティ」を持たせたシステムであることは十分理解されるでしょう。
今、図 4-7A のシステムのパルス駆動のサーボモータ(またはステッピングモータ)を \(1\) パルス駆動すると送りねじによってツールが \(0.1mm\) 駆動されると仮定します。言うまでもなく、送りねじは均等変換メカニズムなので、この「\(1\) パルス当たり \(0.1mm\)」という設定はシステムの駆動範囲全体に亘って一定です。
図 4-9 \(1\) パルス当たりのツールの駆動量は常に一定なのでパルスのタイミングで速度が決まる
図 4-9 は図 2-43 のタイミングチャートのドリルが低速で下降する部分と高速で上昇する部分とを取り出してその動作を示したものです。
ここでカム曲線は緑の斜めの線ですが、実駆動はパルス対応なので駆動パルスを \(\varDelta t\) ごとに与えることでツールは \(0.1mm\) ずつ進むことになり、理論上は赤で示した階段のようになります(実際は慣性があるのでかなり曲線に近くなります)。
駆動速度はこのパルスを与える時間間隔で決まるわけで、\(\varDelta t\) を大きくとれば低速駆動となり、\(\varDelta t\) を小さくとれば高速駆動となります。
これらの図で、\(1\) パルス当たりの駆動量 \(\varDelta s\) は常に一定で、我々は \(\varDelta t\) を変更することしかできません。
通常のカム曲線、あるいはタイミングチャートでは、「時間の進み方」はメカニカルカムの回転速度で決まりますが基本的に一定速度で、時間に対応するツールの移動量がいろいろに変化します。図 2-43 のタイミングチャートでも、\(X\) 軸側の時間 \({t}\) は常に一定速度で進み、それに対応する \(Y\) 軸側のストローク \({s}\) がいろいろに変化しているので関数的には \(s\) が \(t\) の関数として表される
となるのは当然です。
しかし図 4-9 ではツールの移動量 \(\varDelta s\) の方が一定で、その移動に要する時間値 \(\varDelta t\) がいろいろ変化していることになります。これは関数的にみると、\(t\) が \(s\) の関数で表される「逆関数」で
となっているのです。
従ってストローク \(s\) の進行に伴って次々と時間値 \(t\) を変化させなければなりません。
実はこの「変化する時間値の一覧表」がソフトウエアカムの実態なのです。
次回は最も単純な例として Sin カーブの動作特性を実現するソフトウエアカムについて解説します。
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- 巧妙性実現の手段群(2)メカニズムの速度特性の活用と加速度/物は加速度で動かされる(その1).....
- 巧妙性実現の手段群(3)メカニズムの速度特性の活用と加速度/物は加速度で動かされる(その2).....
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- 巧妙性実現の手段群(12)制御回路の構成・1 類、2 類、3 類(その2)
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- 巧妙性実現の手段群(15) 巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本(その1)
- 巧妙性実現の手段群(16) 巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本(その2)
- 巧妙性実現の手段群(17) タイミングチャートからメカニカルカムへ
- 巧妙性実現の手段群(18) メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その1)
- 巧妙性実現の手段群(19) メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その2)
- 巧妙性実現の手段群(20) メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その3)
- 巧妙性実現の手段群(21) メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その4)
- 生産性向上の4手法(1) 高速化と併行作業化/動作のスピードアップ・無駄時間の削減
- 生産性向上の4手法(2) 高速化と併行作業化/工程分割(その1)
- 生産性向上の4手法(3) 高速化と併行作業化/工程分割(その2)
- 生産性向上の4手法(4) 高速化と併行作業化/工程分割(その3)
- 生産性向上の4手法(5) 高速化と併行作業化/工程分割(その4)・マルチツーリング
- フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 同一品種のための同一動作・ワーク側の斉一性に頼ったシステム/メカニカルカムの機能の抽象化と再具現化・力と情報の分離
- フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) インフォーメーションカムの導入と活用
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