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Column

Hot Dry Rock 〜高温岩体地熱発電〜
Enhanced Geothermal Reservoirs

カリフォルニア大学バークレー校 土木・環境工学部 教授 Steven D. Glaser

カリフォルニア大学バークレー校
土木・環境工学部 教授 Steven D. Glaser
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米国・カリフォルニア大学バークレー校で土木・環境工学部の教授を務めております、Steven D. Glaser です。ミュンヘン工科大学のTUV SUD客員教授も務めており、Center for Information Technology Research in the Interest of Societyでは、Intelligent Infrastructureチームのリーダーもしています。新川センサテクノロジとは、これまで10年に亘るお付き合いで、高速ワイヤレスセンサネットワークにおける最先端技術の開発に協力しています。今回は、Enhanced Geothermal Energyについてお話します。

Enhanced Geothermal Reservoirs

世界人口の増加に伴い、とてつもない量、かつてないほどの量のエネルギーが消費されています。同時に、我々は石油や石炭の消費による副産物の問題に直面しています。熱力学から、熱エネルギーは高いところから低いところへ流れ、それによって失われる熱の一部を有効利用できることがわかっています。我々の発電構想には一般的に作動流体、例えば蒸気にする水ですが、その温度を上げる工程およびその熱エネルギーを回転エネルギーへ、更に電気エネルギーへと変換する工程があります。これは我々が石油、ガス、石炭、木材を燃やすとき、原子核融合や原子核分裂を使うときや、ソーラーコレクタを使うときの場合です。これら全ての熱源に共通するのは、高い環境・インフラコストです。

もし、我々がより害の少ない熱エネルギー源を利用できたとしたらどうでしょうか?地球の中心は非常に熱く、地球の表面からこの源に近づくにつれ熱勾配というものがあることがわかっています。(日本におけるこの勾配は10〜80°C/km)この地熱エネルギーは自然にでも工学的にでも取り出すことができます。別府や箱根といった温泉はみなさんご存知でしょう。イエローストーン国立公園にあるオールドフェイスフルといった良く知られている間欠泉もあります。世界には、八丁原のように発電設備を駆動するのに十分な天然の暖かい地下水がある場所がいくつかあります。恐らく最も収益性が高い地熱地帯はカリフォルニア州のソノマカウンティにあるガイザーズでしょう。しかし、そのような熱水地帯は数少なく、ごく稀です。



Enhanced Geothermal System 図.1 地球の深部にある高温岩体の熱を取り出すEnhanced Geothermal Systemの図です。この仕組みでは、冷たい流体が井戸から貯留層へとポンプで送られ、高温岩体を通り、その近くにある別の井戸から出てきます。その一連の過程で熱を抽出します。この仕組みが機能するには、流体が必要な温度までに上昇するための十分な滞留時間と接触部を確保する為、結合された岩の割れ目(フラクチャー)からなる密集したネットワークが必要とされます。そのネットワークには自然にできたものと、水圧破砕による人工のものがあります。

地球にある地熱エネルギーを採掘するもう一つの方法は、自分たちで生産フィールドを作るということです。そのような手を加え強化され、人工的に作り出された地熱システムEGS(別称:Hot Dry Rock)は、少なくとも2つの井戸を必要とします。ひとつが冷たい水をポンプで送り込み、もう一つは過熱した水を汲み上げます。そのような仕組みには非常に多くの困難があり、特に注入井(Injection Well)と生産井(Outlet Well)間での流れの接続性を作り上げること、水を十分加熱するのに必要な長さの滞留時間を作り出すこと、流体が岩層に入り込むことによる損失過多を防ぐことが大きな課題です。しかし、世界にはHot Dry Rockが豊富にあるということ、関連する環境への副次悪影響が最小であることといったEGSのすばらしい展望に賭け、我々はこれらの問題の解決に取り組んでいます。

EGSを使えない要因の一つとして、水が岩石の中を通るときの、特に注入井(Injection Well)の周りでの水粘度の影響があります。深部で熱い岩石の中に水を循環させることにより、自分たちの地熱フィールドを作ることができます。現在この技術は準備段階にあり、効率はあまり良くありません。我々は循環液として水の代わりに超臨界二酸化炭素(Supercritical CO2)を使い、効率を3倍まで引き上げようとしています。

超臨界流体というのは、液体とガスの間の特性を持つ状態のことをいいます。ガスとして放出されても表面張力を全く示しません。段階図を図2で示しています。Tcは臨界温度、Pcは臨界圧力を表します。超臨界二酸化炭素(Supercritical CO2)は非常に低い粘度と高い浮力を持っているため、ポンプで送るエネルギーを、水を使って実現できる量と比べ大幅に削減することができます。加えて、超臨界流体は熱抽出率が高く、貯留層の岩石の融解はほとんどないようなものです。


CO2(二酸化炭素)の段階図

図.2 CO2(二酸化炭素)の段階図です。CO2は超臨界領域で流体とガスの間の特性を持ちます。この領域では、圧力の少しの上昇で、密度が大幅に高くなります。現在、臨界CO2はオゾン層に極めて有害である従来の塩素系溶剤の代替として布のドライクリーニングにも使われています。更にはスパイスから香りを、コーヒーからカフェインを抽出するのにも使われています。CO2の持つ浮力により地表へ向かって上昇するにつれ、超臨界二酸化炭素(Supercritical CO2)の温度と圧力は低下し液体の状態へと変化、岩石の間隙水へとけ込みます。CO2の一部はカルサイトへと結晶化し、事実上貯留層の超臨界部分の蓋を形成します。

CO2循環流体の使用は事実上の炭素隔離

どんな地熱循環の仕組みでも、ポンプで流体を送る際、岩石の割れ止まりや、結合されていない間隙、その他一般的な不完全部分があるため少なからず地層の中に流体を逃してしまいます。理想的な貯留層とは、流体が岩体に触れる時間を最大限利用できるよう、結合した岩石の割れ目が密度の高いネットワークを形成しているものです。CO2を作動流体として使う利点のひとつは、前述のような地層での損失が良いほうに作用するということです。なぜなら、炭素隔離は温室ガス排出に対する部分的な解決法になりつつあるからです。この構想ではCO2は発電所の煙突から回収され、圧縮されてポンプで地下に送られ、永遠にそこにとどまります。設置されたEGS容量1000MWに対し、循環中に失われる流体および地下に蓄えられる流体の量は1秒間にCO2 1トンと推定されます。この割合は、石炭燃料発電の3000MWから排出されるCO2に相当します。



CO2が自然状態の地下水を通り、どう上っていくのか
図.3 CO2が自然状態の地下水を通り、どう上っていくのかを示しています。液体のCO2は融解し、余剰CO2はカルサイトを形成し、循環システムの更なる損失を防ぎます。

研究室での実験

カリフォルニア大学の私の研究室は、CO2を熱伝導流体として使ったEnhanced Geothermal Systemsの運用実現の可能性を探るべく、試験的な取り組みを始めています。我々が何から始めるべきかをコンピューターモデルが示している一方で、超臨界二酸化炭素(Supercritical CO2)の熱搬送容量や、それが飽和状態の岩石や砂層にどう作用するか、自然状態の間隙かん水の相互影響、過熱/冷却サイクル一巡の状態変化などを測定する徹底的な実験というものは行われていません。我々の実験では、これらの懸案事項について積極的に取り組んでいきます。目標は次のとおりです。(図4.実験説明図参照)



CO2の熱移動および流体フロー特性における理論モデルからの予測を検証する。
数学モデルに組み込むデータを取得する。
無水CO2(Dry Anhydrous CO2)の断続的循環によりどう浸透媒体である砂や岩石から水を取り除けるかを検討する。
CO2を使ったEGSの活性化、開発および運用におけるあらゆる局面の分析、最適化、拡大を可能にする数学モデルを作る。
CO2を使ったEGSのフィールドテストに適している地質条件および適さない地質条件を特定する。


実験説明図
図.4 実験説明図


試験運転条件
最高温度
200℃
最高圧力
400 bar
最高流量
400 ml/min
最小測定圧力低下量
6.5 μbar

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