WEBマガジン SHINKAWA Times

Column

産業と教育の現場から No.2
手料理コンパと工学教育

東京大学 金子成彦教授

東京大学 大学院工学系研究科
機械工学専攻 教授 金子成彦
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忘年会のシーズンである。小生の研究室では、手料理コンパで忘年会を行う。実は、5年位前から、修士1年次の学生を中心に、学生の手料理によるコンパをほぼ月に1回のペースで続けている。元々、家庭菜園での野菜作りを趣味の一つとしている小生は、スーパーマーケットで販売している水っぽい野菜ではない、有機栽培によって育てられた野菜の本当の味を教えたいという思いがある。

家庭菜園で採れた大根家庭菜園で採れた大根

最初は、畑で育った大根を中心としたおでんをメニューにして開始した。小生も、「だし」のとり方を研究し、隠し包丁、面取りなどを学生に教えた。最近では、学生は、キャンパス近くに「おでんだね」専門店を見つけ、脂ぎらない揚げ物や美味しい練り物を探してきてくれるようになった。研究室には、日本人学生に混じって留学生が在籍している。留学生の中には食に対するセンスや家庭で教えてもらったスキルがある人がいる。中国からの留学生は、さすがに餃子の包み方が上手でスピードも速い。スウェーデンからの留学生は、意外と巻き寿司が上手であった。あとからその理由を聞くと、日本文化体験教室で教えてもらったとのこと。

巻き寿司作り巻き寿司作り

手料理コンパを続けていると、予算や参加人数に応じた適切な分量の設定や安価で良質な素材の購入方法に考えが行くようになり、準備や片付けにかける時間配分、役割分担もうまくなってきた。また、普段は大人しいが、意外と人を動かすのがうまい学生がいるという発見もあった。学生に野菜を食べさせたいという意図で始めた手料理コンパが、意外とリーダーシップとフォロワーシップや段取り力の涵養に役立っているように思えてきた。

昨今、研究室では5年程度の期間にわたるプロジェクトに関係した研究テーマが中心となっている。幸運にもプロジェクトの立ち上げに関与することのできた学生は研究計画、実験装置設計、試作、運転といった一連の流れを体験する機会を持つ。しかし、このテーマを引き継いだ学生は、対外発表や論文執筆の機会を得ることはできても、ともすれば完成した装置のオペレーターで終わることが多い。このような学生にとっては、手料理コンパは全体の流れが体験できる貴重な機会となるのではと期待している。


家庭菜園で採れた大根を使った「おでん」
完成した巻き寿司
家庭菜園で採れた大根を使った「おでん」
完成した巻き寿司

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