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信州大学工学部
電気電子工学科 教授 水野 勉
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今月号で最終回となるので、水野・卜研究室を紹介する。当研究室は、水野と卜助教、および大学院博士課程1名、修士課程13名、卒業研究学生6名、計22名のメンバーで研究開発に取り組んでいる。研究内容は大別して、ワイヤレス電力伝送、リニアモータ・電磁アクチュエータ、電磁センサの3テーマからなり、 4つのグループに分かれて研究を進めている。また、技術者・研究者として必要となる科学技術の修得だけではなく、将来研究リーダとして必要とされる「素養」と「躾」の教育も重視しています。このコラムでは、ワイヤレス電力伝送に的を絞って説明します。
“離れた場所にある機器に電力を送りたい。”これを可能にする技術がワイヤレス電力伝送である。図1にワイヤレス電力伝送装置を示してあり、離れた位置にある2つのコイル間で電力を伝送できる。ワイヤレス電力伝送は、リニアモータ、電動シェーバ、携帯電話などにすでに用いられており、電気自動車や携帯機器への実用化が期待されている。
ワイヤレス電力伝送とは機械的な接点を持たずに非接触で電力を送電するシステムであり、電磁誘導方式、マイクロ波方式および電磁界共振結合方式に大別される。電磁界共振結合方式は伝送距離1mにおいて、効率90%、また伝送距離2mでは効率50%と高効率かつ長距離の伝送できる特徴がある。高効率で伝送を行うためにはコイルのQ値の向上、すなわちコイルの抵抗の低減とインダクタンスの増加が必要である。表皮効果(導線の外周に電流が偏る現象)と近接効果(導線が作る磁界によって、近接した導線に渦電流が生ずる現象)によって抵抗が増加する。表皮効果に起因する抵抗の低減効果を有するリッツ線(細い導線を撚った導線)は、 IH調理器やトランスなどに多用されている。電磁界共振結合を用いたワイヤレス電力伝送では、数MHzの周波数での駆動が有望視されており、交流抵抗を低減させるためには、表皮効果に起因する抵抗だけではなく、特に近接効果に起因する抵抗を抑制する必要がある。
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図1.ワイヤレス電力伝送装置 |
(ワイヤレス電力伝送によってランプが点灯するように、学生がデモ品も調整している様子) |
そこで、当研究室では交流抵抗低減のために磁性めっき線(MPW)を検討している。MPWは銅導線(COW)の外周に磁性薄膜をめっきした構造を有しており、近接効果に起因する交流抵抗増加の抑制の効果がある。近接効果に起因する交流抵抗増加の抑制は、銅に比べて透磁率と抵抗率の両者が大きな磁性薄膜内を交流磁界が通過するために、COWと比較して導線内で生ずる渦電流損を低減できることに起因している。MPWを用いることによってよりQ値が向上して高効率で電力伝送することができる。
ワイヤレス電力伝送技術が確立すれば、 家庭から充電コードが消えたり、医療現場や災害現場などに用いるロボットの電池切れがなくなったりと非常に夢のある研究である。大学と企業らが一致団結して、夢のコードレス社会実現に向けて日々研究に励んでいきたいと考えている。
Vol.4 No.11
2012年11月06日号
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