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Column

光ファイバセンシング最新動向について No.2

 

日鐵住金溶接工業株式会社
オプト部長 田畑 和文

(NPO法人 光防災センシング振興協会 理事)

前号では、光ファイバセンシングのシステム概要、従来のセンシングと比較した場合の優位性、歴史的経緯、工業的適用例を紹介した。今号では、適用時の留意点をシステム構成要素の視点から解説すると共に、要素別技術達成レベルを具体的に紹介する。



1.光ファイバセンシングシステムを適用する際の検討すべき課題


光ファイバセンシングシステムの構成4要素を図1に示す。電気的センシングと比較すると新しい技術なので、4要素をうまく纏める必要があり、顧客殿とシステム提供者との詳細な協議が重要である。

光ファイバセンシングシステムの構成4要素
図1. 光ファイバセンシングシステムの構成4要素


以下、主な協議すべき内容を示す。



(1) 光センサについて
  (a) センサ原理の理解
(b) センサ能力の把握(特に検出可能範囲、許容温度適用範囲)
(c) 耐環境性と保護構造の選択(耐水性、耐ガス性)
(d) 被測定物へのセンサの取り付け方法の確認
(e) 標準センサのインライン設置が必要か(セルフチェック用)
(f) 寸法
(g) 測定器や通信用光ファイバへの接続方法の選択(コネクタ、融着)
(h) 導入時価格
(i) 修理時に必要な日数及び新品発注の際の納期


(2) 光測定器について
  (a) 測定原理の理解(温度と歪みへのリニア性)
(b) 測定能力の把握(特に応答性と測定精度、距離分解能の関係)
(c) 測定条件変更の難易度
(d) 校正頻度と内容
(e) 設置環境の確認
(f) 導入時価格とランニング費用
(g) 修理時に必要な日数


(3) 施工について
  (a) 布設ル−トの確認(作業内容及び布設環境の確認)
(b) 布設条件の確認(被測定物への固定方法、許容曲げ径、許容張力、必要張力)
(c) 修理時の作業内容の確認
(d) 布設費用


(4) ソフトについて
  (a) 顧客殿が必要とする情報の確認(任意測定点の測定値経時デ−タ、任意測定点の測定値変化率の経時デ−タ、異常時のデ−タの保存、警報システムの内蔵、警報信号、構造物の変状による構造力学的解析等)
(b) 上位システムとの双方向情報通信(警報信号、異常時のデ−タ)
(c) 測定条件及びスケジュ−ルの変更を、付随しているPCで可能かの確認
(d) ル−プ方式の場合に、1箇所の損傷に対してル−プ両端からの測定が可能か
(e) 温度と歪み間の相互補正が必要か
(f) 汎用ソフトの有無、その内容を確認(カスタマイズドソフトは別途費用となるので、十分に検討する必要がある)
(g) 導入時価格とソフト変更費用

2.光ファイバセンシングシステムの技術達成レベルについて


(1) 光センサについて
工業的適用に際しては、光センサの寿命、施工性、被測定物への固定作業性、繰り返し特性等が重要な課題になる。0.25mmφの光ファイバ素線や0.9mmφの光ファイバ心線のままではこの課題を克服することは極めて困難である。その理由を以下に示す。

  @ 光ファイバ自体は125μmφの石英系ガラスの裸ファイバに、保護用のUV樹脂やナイロン樹脂によりコートしてあるのみで、機械的強度が不足している。
A 光ファイバは水分やガス(特に水素)の影響を受け、伝送損失が急激に増加する欠点がある。
B 裸ファイバと保護用の樹脂に滑りが生じ易く、歪みの繰り返し変化に対応することができない。

  これらの欠点を克服するためには、施工時に光ファイバを保護する何らかの構造が必要であるが、実用上は極めて困難な課題が残ったままになる。弊社では、この対策として「予め、細径・長尺のセミシ−ムレス金属管に光ファイバを挿入している」製品を提供している。(弊社製品:ピコセンサ)その技術的特徴を以下に示す。

  @ 高強度材料である金属を使用し、充分な機械的強度を有している。
A セミシ−ムレス金属管を使用し、外気へのシ−ル性を確保している。
B 歪みセンサにカシメ技術を適用し、裸ファイバと金属管の滑りを防止している。
C 腐食性ガス等に対する耐環境性を考慮し数種類の金属材質を選択できる。


構造例を図2に示す。


ピコセンサ構造例
図2. ピコセンサ構造例
(2) 光測定器について
光測定器の測定条件によって、分解能、応答性、測定範囲及び適用距離は相互性があり変化するが、光ファイバセンシングの適用例における各項目の最良値の例を表1に示す。


表1. 適用例における各項目の最良値例
測定項目
測定器
測定方式
分解能
応答性
測定範囲
適用距離
耐熱性
温度
ROTDR
線分布
±0.5℃
数秒〜数十秒
-196〜500℃
最大10km程度
500℃
FBG
線多点
±0.1℃
瞬時
-196〜500℃
数kmで100点/ch
500℃
歪み
BOTDR
線分布
±100με
数分〜数十分
-0.2〜1.5%
最大数十km程度
150℃
FBG
線多点
±1με
瞬時
-0.2〜1.5%
数kmで100点/ch
500℃


(3) 施工について
様々な工業分野で適用が進捗している。その内、プラントエンジニアリング部門で本格的な適用が開始されている数例を以下に示す。


(a) 高温岩体発電 (b) プラスチック廃棄物燃焼炉
図3は高温岩体に意図的に水を注入し、蒸気として回収してタ−ビンを回転させる。いわゆる人工地熱発電である。ボイラ−としての機能を果たす回収井内の温度分布を測定する。 図4はプラスチックを熱分解させて有用な熱分解ガスを取り出す炉で、耐火レンガの損耗度を監視するために、炉外壁の温度を分布的に測定する。
高温岩体発電 プラスチック廃棄物燃焼炉
図.3 高温岩体発電
図.4 プラスチック廃棄物燃焼炉
   
(c) コンベアライン (d) LNGタンク
図5は鉱石や木材チップ等の大型コンベアラインのコンベア近傍の温度や橋脚の歪みを分布的に測定し、操業の安全を確保する。 図6はLNGタンク内及び関連配管の温度を分布的に測定し、操業の安全度を向上させる。
コンベアライン LNGタンク
図.5 コンベアライン
図.6 LNGタンク


(4) ソフトウェアについて
弊社が提供している「ODS2005」は、測定器制御、自動測定、データ解析、警報判定などの基本機能がある光ファイバセンシング用の汎用ソフトウェアで詳細は別の機会とする。


以上4要素をシステムインテグレイトすることが重要であり、今後も参入企業に求められる。

3.まとめ


光ファイバセンシングは新しい技術であり、従来のモニタリングシステムに対して画期的な改革を提供する可能性を秘めています。コスト的にも導入可能な低価格化が進行中であり、顧客殿にとっても一慮すべき技術となっています。メ−カにとっても、この分野に挑戦することは魅力的な新規分野に進出することになります。弊社も光ファイバセンシングにおけるシステムインテグレイタとして活動中であり、微力ながら、皆様の要望に応え得る経験と知識が有るやもしれません。ご遠慮なく、連絡頂ければ幸甚です。なお、光ファイバセンシングの将来性に興味を持った人、会社が集まり、NPO法人として光防災センシング振興協会を設立しております。是非とも、協会に参加頂きたくお願い申し上げます。協会では「光ファイバセンシング入門」のガイドブックを企画中です。発行の際は是非ともご購入頂きたく重ねてお願い致します。

最後に、このような拙文の発表の機会を与えて下さった新川電機株式会社殿に、光ファイバセンシングに対する連帯の意味を込めて感謝申し上げます。

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