WEBマガジン SHINKAWA Times

Column

産業と教育の現場から No.9
留学生の慶事

東京大学 金子成彦教授

東京大学 大学院工学系研究科
機械工学専攻 教授 金子成彦
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■留学生の受け入れ状況

東京大学には、2009年時点では2555名の留学生が在籍している。留学生が入学するためのルートは様々であり、学部レベルでの受け入れは日本国政府と外国政府との間の協定に基づく留学生受け入れ制度が中心で、大学院レベルでは、日本人と同じように入学試験を経て受け入れが決まるケースや海外に在住する学生に対して書類選考で入学が許されるケースがある。(詳しくは、http://www.u-tokyo.ac.jp/res03/i13_j.html



■小生の研究室に在籍した留学生

世界各国からの留学

中国からの留学生の受け入れが圧倒的だが、スイス、スウェーデン、ケニア、韓国からの留学生も在籍したことがある。現在は、中国1名、韓国1名である。記憶に残っているのは、昨年9月末に博士課程を修了した学生である。

彼は、中国で修士課程を終えて、たどたどしい日本語のまま、私費留学生として来日し、当初は金銭的に苦労したが、幾たびかのトライを経て、民間財団の奨学生に選ばれた。努力家で、海外の学会に出かけては質の高い論文を発表して評価を得た。あるときには、学会に参加した聴衆の一人から、指導教員である小職のところに、彼の研究発表を高く評価するメールが突然送られて来て、小生を驚かせてくれた。

■中国国家優秀自費留学生賞受賞

中国大使館の受賞式にて

そんな彼に、中国国家優秀自費留学生賞に選ばれたとの朗報が届いた。この制度は、中国政府が海外で研究活動に励む私費留学生のために設けた奨学金35万円付きの賞で、世界中で学ぶ優秀な中国人留学生を対象に500名(内日本で学ぶ学生は50名)に授与されたものである。授与式は、六本木の中国大使館で行われ、指導教員である小生も招待された。この式典では、中国駐日全権大使から祝辞が述べられ、今後中国政府が力を入れる学術領域が話題に出された。中国政府が伸び盛りの若手をエンカレッジするための立派な支援制度を設けていることに関心させられた。(詳しくは、http://www.china-embassy.or.jp/jpn/lxsjl/t560983.htm

■日本国政府の博士学生表彰制度  

このような国レベルの博士課程学生の顕彰制度は日本では余り聞いたことがない。しかしながら、つい最近、「日本学術振興会 育志賞」という表彰制度がスタートした。その趣旨は以下の通りである。

日本学術振興会は、昨年、天皇陛下の御即位20年に当たり、社会的に厳しい経済環境の中で、勉学や研究に励んでいる若手研究者を支援・奨励するための事業の資として、陛下から御下賜金を賜りました。このような陛下のお気持ちを受けて、本会では、将来、我が国の学術研究の発展に寄与することが期待される優秀な大学院博士課程学生を顕彰することで、その勉学及び研究意欲を高め、若手研究者の養成を図ることを目的として、平成22年度から「日本学術振興会 育志賞」を創設することとしました。授賞総数は毎年度16名程度とし、受賞者には賞状、賞牌及び副賞として学業奨励金110万円を贈呈します。また、受賞者は、希望により翌年度から特別研究員等に採用することとします。その場合、研究奨励金等が支給されます。

このようにごく限られた人数ではあるが、我が国でも博士課程在籍中の学生を対象とした国レベルの顕彰制度が始まったことは良い知らせである。

■留学生の指導を通じて学んだもの

博士課程学生の教育目標は、専門を極めて学術の進展に貢献でき、様々な体験を通じて自分自身のポテンシャルを高め、高見から俯瞰でき、他人とアライアンスを組める人材の育成である。それに加えて、「モティベーション」という名のバトンを次世代に繋ぐことが大変重要である。この重要性を再確認出来たのは彼の指導を通じての経験からである。感謝したい気持ちで一杯である。




中国大使館での授賞式にて
中国大使館での授賞式にて
(左から、受賞したフェン カイ君、程永華中国駐日全権大使、筆者)

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