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Column

創造のなぎさに遊ぶ No.3
たまごが割れたら、ブレイクスルー!

東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻 教授 生田 幸士

東京大学大学院 情報理工学系研究科
システム情報学専攻 教授 生田 幸士
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たまごで鍛えろ

たまごは食べなくても栄養になる。それも頭脳を鍛えることができると書くと、読者を混乱させるかもしれない。しかし、本当のことである。


あっさり種明かしをしよう。限定されたサイズのボール紙(現在はB5サイズ)と、ボンドだけを使い、生たまごを30mの高さから落しても割れない工夫をする「たまご落とし」コンテストが今回のテーマである。

動画はこちらから▼
たまごで鍛えろ!

筆者が20年近く大学で実施している授業の一こまである。約20年前、九州工業大学情報工学部機械機システム工学科の助教授をしていた時に始めたもの。その後筆者の転任に伴い、名古屋大学、東京大学だけでなく、NHK「課外授業・ようこそ先輩」で大阪の母校の小学6年生や、フィールズ賞数学者の広中平祐先生主催の「数理の翼セミナー」では全国から来た理系高校生にもトライしてもらっている。


成功するのか?

結果は、小学生は大学生の10%前後を大幅に上回る25%が成功。これまで見たこともない新しいアイデアもあった。小学生の柔軟な思考と高い作製能力に驚愕した。まだ小学校での実施回数は少ないので、一般化は危険だが、小学生の全作品が持つ豊かな発想と個性的デザイン、さらに、頼んでもないのに勝手にぺたぺたと塗った作品の彩色を見て、彼らの発想は無味乾燥な作品群を作る大学生を遥かに超えていることは明白であった。

数理の翼セミナーの高校生も20%が成功。昨夏、炎天下島根県益田市で実施したスーパーサイエンス高校の場合は30%を超えていた。


他方、大学での成功率は年々下がっている。昨年度の名古屋大学機械系では従来の12%から8%まで下落。さらに作品群にも工夫が少ない。これには驚いた。コンテスト直後、参加学生達と原因を分析した。

「今年はどうして、出来が悪いのかな?」
  「先生、だって僕ら、ゆとり教育真っ只中の世代やから!」

「・・・・・」


たまご落としの意義

このたまご落としコンテストを見た研究者の中から受ける典型的な質問は下記である。


「たまご落としをすると、学生の創造力は増強されるか?」

「創造力の改善度を評価せよ。できれば定量的に示せ」

「小学生でもできる課題を、大学生や大学院でやる意味は?」


これらの質問の創造性の無さには目をつぶるとして、たまご落としをすれば即座に創造力が増すことはない。成否の理由を深く考え、「イマジネーション」(想像力)が重要であることを「気づかせる」ことができる。これだけである。研究や仕事におき、イマジネーションを発揮しつくして解決策を編み出す「深い思考と観察のくせ」をつけることが、最大のねらいなのである。


イマジネーションがすべて

筆者の夢は、工学者の立場で医療に改革をもたらすことである。改革の起爆剤として「新原理と新発想」にこだわった医用ロボティクスとバイオマイクロマシンを研究してきた。幸い金属工学と生物工学の2つの学科を卒業し、ロボット工学で博士を取得したこともあり、この未踏学際分野を産みの苦しみどころか、ルンルン気分で歩いてきた。


マイクロマシンは肉眼で見ることも、触ることもできない。筆者のマイクロマシンが扱う対象は、柔軟でデリケートな臓器や、細胞、DNA、蛋白である。高度なイマジネーションがなければ研究ができないだけでなく、医学者の嘲笑を買う陳腐な機械を具現化することになる。


日本に新産業を待望するなら、ベンチャーや企業への予算手当てよりも、教育システムへの予算配分が鍵になる。中でも、生徒学生の自主的な取り組みが必要な「創造性教育」の構築が急務である。一方的に教える「教育」から、教師と学生が共に学び育つ「共育」の時代に戻すことが目下の目的である。

腐ったたまごも、脳には効くのである。



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過去のコラム一覧
 
No.1 小さな機械で大きな夢を
No.2 パリでの日本再考
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Vol.4 No.4
2012年04月10日号

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