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Column

日本機械学会会長の経験を通じて(その2)
アジア圏との国際交流活動

東京大学 金子成彦教授

東京大学 大学院工学系研究科
機械工学専攻 教授 金子成彦
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日本機械学会は、発足の時点にお手本とした英国機械学会や、規格基準や研究を通じて関係の深い米国機械学会以外に、韓国、中国、インドネシアを初めとするアジア圏の機械学会と交流を深めつつあります。会長を務めさせて頂いた間にタイとベトナムを訪問する機会がありました。訪問した季節は日本では涼しさを感じ始める10月下旬でしたが、発展段階は違うものの工業が発展しつつある両国で工学を担う若者から熱気を感じてきました。


■タイ機械学会への参加

久しぶりに訪れたバンコクの玄関は、旧国際空港のドンムアン空港ではなくパリのシャルルドゴール空港を思わせるようなスワンナブーム国際空港に変わっていました。ここで乗り換えて飛行機で1時間20分、タイの北端でミャンマー国境にほど近いチャンライが今回の訪問地でした。北タイの風景はどこか日本の農村の原風景を感じさせるのんびりした雰囲気ですが、道路を走っている車は手入れが行き届いた最近の日本車が多く、現地の人の収入とのバランスを考えると、どうやって購入するのか不思議に思いました。物価が安く人も素朴なこの町には、フランスやドイツあたりから移り住んだリタイヤ組も見かけました。日本語学校もあり、レストランのウェイターの中には日本語ができる若者もいます。空港の待合室の雰囲気からすれば日本人も結構住んでいるような感じです。町の中心街から少し離れた場所にあるDusit Island Resort Hotelが2012年度のタイ機械学会の会場でした。主催者の話では毎回参加者の関心を引くようなリゾートを会場に選んでいるとのことで、次年度はバンコクからそれほど離れていないパタヤビーチが会場に選ばれています。

会議のテーマは「Following His Majesty’s Footsteps: Sustainable Development through Research」で、2012年が国王84才(12年×7巡)の記念すべき年であることから、Sustainabilityがメインテーマに取り上げられていました。

印象的だったのは、開会式後の基調講演で、まず、皇室評議委員の方から「タイの機械・農業工学における現国王の貢献」と題する講演が行われ、タイでは皇室、特に現国王が強く尊敬されていることを再認識しました。また、二つ目の基調講演として、登壇された方は、タイと米国で教育を受け、製糖会社の経営者として成功された方で、タイ国内はもとより中国とオーストラリアで合計21の工場を管理運営されている製糖会社の社長さんでした。この方は講演の中で現状のタイの大学における技術者教育に厳しい意見を述べられましたが、指摘された内容はそのまま日本の大学教育に通じるものであったことに感心しました。

研究発表は3日間で合計、英語一般講演が105件、タイ語の講演と合わせて300を超える発表件数でした。講演室は7室を使い、AEC(エネルギと燃焼)、AME (航空海洋工学)、AMM(応用力学と材料)、BME(バイオ)、CST(計算力学)、DRC(動的系とロボット、制御)、ETM(エネルギ工学)、 TSF(熱流体力学)の8分野に分けられ、各分野でBest Paper Awardが選ばれました。研究発表では、タイの学生の発表する論文の指導に欧米人や日本人があたっているケースもあり、タイの著名大学では外国人客員教授による指導の効果が出始めていると感じました。


チャンライ郊外の風景(ホテルのベランダから)
チャンライ郊外の風景(ホテルのベランダから)

学会の最終日の夜のバンケットは、特設ステージを設けた戸外で開かれました。北タイの特徴的な舞踊やバンコクからプロ歌手を連れてくるなど、入念に準備されたものでしたが、余興としてビールの早飲み競争が組み込まれており、若干アルコール度数の低いビールを5名一組でチームを作って大学対応で飲み比べるイベントは熱気あふれるものでした。

ここチャンライでは、毎年11月の満月の夜に、自然の恵みへの感謝の気持ちと豊かで幸な未来への願いを込めて灯篭を夜空に飛ばす習慣があります。これはスカイランタン(タイ語ではコームロイ)と呼ばれているものです。バンケットの終わりの方では、あちこちで打ち上げが始まりました。こうして幻想的な雰囲気の中でチャンライの夜は更けてゆきました。


スカイランタンの打ち上げに参加した筆者
幻想的なスカイランタン
スカイランタンの
打ち上げに参加した筆者
幻想的なスカイランタン
■ハノイ工科大学訪問

チャンライでのタイ機械学会参加後、ベトナム機械学会と日本機械学会の学会同士の交流協定締結の準備交渉のためハノイ工大を訪問しました。チャンライとハノイ間は直線で結ぶと距離は短いのですが、直行便はないため、一旦バンコクのスワンナブーム国際空港に戻り、ここを経由して1時間半のフライトでハノイのノイバイ空港に到着しました。

この時期、ハノイ湾あたりに季節外れの台風が止まっていて折あしく雨降りで遠くの景色は霞んでいましたが、空港から市内へ向かう高速道路は整備されていて、道路の周辺は建設ラッシュであることは分かりました。最近、日本企業が沢山進出しているようで、日本企業の看板や、日本製のバイクが目立ちました。まだ地下鉄がなく、市内の交通はモーターバイク中心ですが、発展のスピードは極めて早く、今後はインフラの整備が急速に進むものと感じました。


都心部に向かう道路の交通状況
都心部に向かう道路の交通状況

ハノイ工科大学(Hanoi University of Science and Technology、 最近になりScienceが名称に追加された)は、理工系大学としてベトナムでトップレベルの教育機関であり、政府や官庁などを含めて多くの理工系人材を輩出している大学です。機械系を中心にハノイ工科大学の現状を聞いたところ、ベトナムは第二次世界大戦の後、東西冷戦時代には大学教員の人材育成がソ連や東ドイツなどを中心になされたこと、現在の政府は大学のレベル向上のため未だ少ない博士号取得者を増やす政策などを進めていることを伺いました。近年はドイツ、フランス、米国、日本などでの学位取得者が増えているものの、留学志望者の数は多く、日本に留学を希望している学生も多いとのことでした。


ハノイ工科大学正門
ハノイ工科大学の建物
ハノイ工科大学正門
ハノイ工科大学の建物

講堂内に置かれたホー・チ・ミンの胸像 講堂内に置かれた
ホー・チ・ミンの胸像


続いて、同大学の副学長と面会しました。副学長の教育上の肩書は准教授であり、タイと同様、大学行政上の地位と教員としての肩書(教授、准教授)に強い関連はないようでしたが、副学長はアジア工科大学で教えていた経験もあり、かなり英語が堪能でした。若手幹部の強いリーダーシップのもと、急ピッチで先進国に追いつこうとしていることを感じました。

ところで、ハノイ工科大学訪問にあたりお世話をしてくれた若手教員から聞いた話は今でも忘れられません。彼は、ベトナムの高校を卒業した後、日本語ができないまま来日して静岡県の茶畑で茶摘みのアルバイトをし、その間に日本語学校に通い日本語をマスターして、次にファーストフード店に勤めて、最後は店長まで昇格したそうです。お金を貯めてからは受験勉強して、東京工業大学の一般入試を受験して合格し、学部、修士を卒業して、ハノイ工科大学の講師に採用されたとのことです。日本に留学した動機を伺ったところ、「おしん」を見て日本にあこがれたとのことでした。このドラマは1983年から1年間にわたって放送されたものですが、「おしん」は勤勉に働いていればいつか報われるという元気を与えてくれるそうです。「おしん」の話は、タイでも学生が日本について語るときに話題にしていました。帰国後、講義時間の終わりの方で「おしん」を知っているかどうか日本の学生に聞いたところ、知っていた学生は130名中1名だけでした。残念ながら「おしん」を見て心に火をつけたのは東南アジアの学生だったようです。

■長州ファイヴ英国上陸150周年

さて、ハノイ工科大学の若手教員のことから思い出したことに長州ファイヴのことがあります。井上聞多(井上馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(伊藤博文)、野村弥吉(井上勝)の長州藩士5名のことは長州五傑または、2006年に製作された映画のタイトルから長州ファイヴと呼ばれています。当時幕府は海外渡航を禁じていましたが、西欧の状況を視察して将来に備えるために、「生きた器械」となることを託されて長州藩から英国に送り出されていたのがこの5名でした。おそらく伊豆下田沖に停泊中の外国船に乗り込んで海外渡航を試みて失敗した吉田松陰の行動が長州の若者の心に火をつけたと思われます。帰国後の長州ファイヴの活躍を見るとき、彼らは使命感一杯で留学時代を過ごしたに違いありません。

今年は長州ファイヴが英国に上陸して丁度150周年の年を迎えています(注1)。今年から数年間は、明治維新150周年を記念する行事が国内で企画(注2)されています。小生も、来週は、山尾庸三の功績と工部大学校についてグラスゴーで講演(注3)することになっています。

■日本の若者気質と海外体験

多様化が進んでいる日本の若者に目を移してみましょう。最近、なかなか日本人学生が海外に出たがらないという話を耳にすることが増えました。小生の研究室周辺の学生を見ていますと、二極化されているように思います。

一つの集団は、平素からアルバイトなどで計画的に資金を貯めて、休暇期間や大学からの派遣の機会を活用して海外に積極的に出かけ、見聞を広め、欧米諸国だけでなく、アジアや中近東諸国まで見て回る学生。もう一つの集団は、国内温泉旅行組です。どうやら大学に入学するまでの競争に疲れてしまった学生はこちらが多いようです。研究室では、前者のグループに入る学生が多くなるように、欧米だけでなく、アジアやエジプトからも留学生を迎えて、日本人学生が海外に関心を持ってくれるよう働きかけています。最近、東大では9月入学の検討が行われてきました。4月から9月の間にギャップイヤーを設けて入学前の学生に様々な体験をしてもらう期間を設けようとしたものです。実現に向けて困難な問題は横たわっているかもしれませんが、学生の心に火をつけるような活動になって欲しいと考えています。


(注1)
・ http://www.uk.emb-japan.go.jp/jp/event/2013/choshu/info.html
・ https://sites.google.com/site/kagakushanetwork/news/the150years anniversaryofuk-japanacademicinteraction
・ http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130703/k10015760181000.html
(注2)
・ http://www.oidemase.or.jp/meijiishin/contents01.html
・ http://www.city.kagoshima.lg.jp/_1010/kanko/imadoki/_44640/_44682.html
(注3)
・ http://www.japandeskscotland.com/activities/japan-matters-lecture/201314-2/yozo-yamao


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過去のコラム一覧
 
その 1 東日本大震災対応
その 2 アジア圏との国際交流活動
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Vol.5 No.7
2013年07月09日号

  • Column
    • 日本機械学会会長の
      経験を通じて(その2)
    • 分かりにくい用語と
      その意味 (1)
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