信州大学名誉教授 電気学会フェロー

山田 一

博士国際協同研究所 所長...もっと見る 博士国際協同研究所 所長

1970年代、日本にはまだセンサという用語はなかった。当時、センサは温度計や圧力計という具合に「計」を使っていた。

センサの今昔

戸隠連峰を遠景に信州大学 工学部を望む。

1975年頃から、トランスジューサ(transducer)という用語が国際的に登場してきた。そして1980年代にはようやくセンサ(sensor)の使用が全面的に開始された。

周知のように、センサは、物理量(変位、温度、電流など)や化学量(pH、酸素濃度、臭気など)を電気量(電流、電圧、周波数)に変換する器(うつわ)のことである。センサがあって、人間は初めて科学技術を推し進めることができる。無資源国のわが国は、原材料をあまり使わずに、比較的高い付加価値をもつセンサや計測器の開発は、日本が世界で生き残れる数少ない貴重な選択肢となる。

スマートグリッド

2000年代に入ると、突如表記の用語が出現してきた。

Smart gridを直訳すると、「賢い電力網」ということになる。この用語は、従来からある水力発電所、火力発電所や原子力発電所からの電力に新しく登場してきた太陽光発電や風力発電の諸電力を結合融合化させることを言っている。これらの電力を統合化させて小口の電力使用者、たとえば電気自動車などに使いやすくさせるものである。これは、電力の地産地消でもあろう。

この分野でも実に多彩多様のセンサが使われている。たとえば、風力発電で使われている大型翼の羽の角度を風力に応じてセンサを活用して適切な角度に変更するものである。この際、もちろんIT技術も多角的に併用されている。

エネルギー・ハーベステイング

最近、この用語が一人歩き始めている。

Energy harvestingを直訳すると、「エネルギーの収穫」である。これは室内にある照明、エアコンの風力や外部からの振動から発するμWからmW程度の微小電力をまるで「落穂ひろい」のように集めて、有効に再利用しようということを意味している。そこで、日本では「環境発電」とも意訳されることもある。

これを実現するために、センサノード(sensor node)という高効率、小電力消費の小型化された器が求められ、圧電素子を応用したもの等の一部も実用化されている。 この「落穂ひろい」の技術は、つましい生活 → 地球にやさしいという哲学の構築に役立っている。 このように技術は、それぞれの分野に適したセンサの開発と深く関わっている。

長野・オリンピック道路 (環境や景観に配慮し 電柱等が地下に埋設)

新川電機は、電力の安定提供のためのエンジニアリングをはじめ、各種自動化・高効率化のためのシステム作りを行っている。新川電機の一翼を担っているのが新川センサテクノロジである。同社は、渦電流形変位センサを開発して、それを中心に各種の状態監視システムの構築に全力をあげている。

ここに、日本の新しい未来を見る思いがある。