株式会社 アクシオン・ジャパン 代表取締役

櫻井 栄男

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小柴先生のノーベル賞獲得で話題になったように、JAXA など多くの研究機関で、微細な宇宙線をキャッチするための研究が進められています。その中でも注目されているのは、先のコラムでご紹介のあった静岡大学電子工学研究所の青木先生や株式会社 ANSeeN の小池社長様が研究されている CdTe(カドミウムテルライド)半導体で、この素材を用いた検出器はエックス線の吸収率が非常に高く、多くの画像情報をもたらすことができることから医療分野や産業分野で幅広い応用展開が期待されています。

1.はじめに

【図1】デジタルパノラマ装置 PanoACT ART Plus シリーズ

弊社は自社特許である画像処理技術を最大限活用するために CdTe 半導体検出器に着目し長年デジタル技術の研究を進め、歯科用のデジタルパノラマエックス線撮影装置 PanoACT (パノアクト)を開発しました。【図1】本製品は、他社からリリースされている一般製品の特性と全く異なり、CdTe 半導体がもたらす豊富な画像情報をもとに画像の再構成の後に焦点面を自由に変更することが可能であり、日本で初めてパノラマ撮影とデンタル撮影が 1 台で行え、最先端の画像の鮮明さや低被ばく線量を兼ね備えた革新的な装置として歯科業界で話題となっています。

パノラマ画像

2.歯科病院で進むデジタル化

全国に歯科医院は約 7 万箇所あります。コンビニエンスストアが約 4 万箇所くらいですので、どれだけ歯科医院が多いかびっくりされる方も多いのではないかと思います。歯科医院に行きますと、代表的なエックス線撮影装置として、全顎を撮影するパノラマ装置(初診時や半年毎くらいに撮影して、虫歯が何か所くらいあるか、治療がうまく進んでいるか大まかに見るもの)や部分的に歯牙を撮影するデンタル装置(部分的に撮影して、詳細な診断に利用するもの)の 2 台がレントゲン室にあるのですが、みなさんが通われている歯科医院さんではまだフィルムをご使用ではないでしょうか? 実は日本の歯科医院で使用されている装置のデジタル化はまだ 3 割くらいと言われていますが、フィルムは現像が必要ですし、現像温度やロールの管理が悪いと出力される画像はとても診断に耐えられない場合が多く、更にフィルムの管理でスペースが必要だったり、現像廃液処理が必要であったりして、歯科医にとっては悩みの種でした。国の施策である電子カルテ化も相まって近年エックス線装置のデジタル化が急速に進んでいます。

3.頸椎の影響がないパノラマ画像

デジタルで用いるエックス線の検出器には半導体が搭載されていますが、できるだけ吸収効率が高くかつノイズが少ないものが望まれます。その中でも CdTe 検出器はエックス線の吸収効率が非常に高く、パノラマ撮影で用いられる被ばく線量を 1/2 ~ 2/3 に低減してもほぼ同じ画質で映像化できる特性を持っています。また、一般の CCD 検出器のようにエックス線→蛍光→フォトダイオードという仕組みでなく、各画素単位で線量に比例した電気信号に直接変換するためノイズが少なく、各画素のダイナミックレンジは 12 ビットの深さを有しているため、低吸収から高吸収領域まで広いレンジで画像のつぶれが少ないのが特徴です。【図2】の左の画像は今歯科医で撮影、診断されている一般的なパノラマ画像です。全体的に画像にザラツキがありますが、特に真ん中の部分が白くなっています。

これは、どうしても歯を全体的に撮影しようとすると頸椎が映りこんでします影響です。

見て頂けると分かるように、これでは特に前歯の部分の画像がボケて詳細な診断までは難しく、多くの歯科医が画像に対する不満をお持ちです。PanoACT では、従来製品の概念を打ち破り、CdTe 検出器で撮影した膨大なボリュームデータから画像ノイズを除いて見たい部分だけ出力することができるので、【図2】右の画像のように頸椎の影響がなく、骨梁構造が明瞭に描出された鮮明な画像出力ができます。弊社のショールームで画像を先生にお見せするとびっくりされます。

図2左:一般的な装置で撮影したパノラマ画像

図2右:PanoACT で撮影した画像

4.新たな歯科エックス線撮影とその応用

高感度、低ノイズで高速応答の CdTe 検出器と独自の画像処理を備えた PanoACT は低被ばく線量でありながら、ノイズの少ないシャープな画像が得られるだけでなく、断層位置や方向を撮影後に調整(画像再構成)できます。前述の通り、従来のパノラマ撮影は標準歯列面における上下の歯列とそれを支える歯槽骨と顎骨を展開表示することで、大まかに歯科疾患の病態を表示するものですが、一方、歯と周囲組織の詳細を観察するときには、デンタル撮影が必要であり、歯科医院のレントゲン室にはパノラマ装置とデンタル装置 2 台あることが一般的です。PanoACT は、検査対象に適した断層域内の焦点面を選択して画像再構成することができるので、パノラマ撮影装置でありながらデンタル撮影も可能で、日本で初めて 1 台でありながら双方の診療報酬の認可を受けた 1 台 2 役の装置ですので、導入医院さんには、技術面だけでなく、省スペース化や低コスト、増収効果についても喜んで頂いております。デンタル撮影に関しては、歯が最も明瞭に描出されている断面位置を自動的に作成するオートフォーカス機能を備えており、短時間で全顎のデンタル撮影( 10 枚法や 14 枚法)のテンプレートを自動的に作成することができます。【図3】

図3:歯牙の軌道や傾きに合せた全顎のデンタル画像をオートフォーカス機能で自動的に 出力できる機能(図は 14 枚法の例)

5.低被ばく化の実現(患者様への配慮)

図4:PanoACT でパノラマ撮影した場合の被ばく線量

PanoACT で膨大なボリュームデータが画像処理できると言うと、その分被ばく線量も多いのではないかと想像される方も多いと思いますが、CdTe 検出器の高感度と低ノイズの効果でとても低い被ばく線量で撮影できます。実際には PanoACT 1 回の撮影と一般の口内デンタル撮影 1 枚分(3cm × 4cm 程度)の被ばく線量がほぼイコールですので、どれだけ PanoACT の被ばく線量が低いかお判り頂けると思います。【図4】患者さんへの被ばく低減の効果や、口の中にフィルムなどを入れなくてもデンタル撮影ができるので、安全面、衛生面でも優れた装置だと言えます。

以上説明させて頂きました通り、CdTe 検出器を応用したデジタルパノラマ撮影装置 PanoACT は従来製品の常識を打ち破り、技術面(鮮明な画像、オートフォーカス機能)、患者さんへの配慮(低被ばく、衛生面)、運用面(パノラマ、デンタル双方の診療報酬)、省スペース化などを実現した世界初の装置になります。本技術は歯科分野だけでなく、産業用の非破壊検査へも応用でき、今後更なる発展が期待できます。弊社では、今後も画像処理を応用した製品開発に取り組み、社会貢献して参りたいと考えております。