横河電機株式会社 技術部長

足立 正二

IA プラットフォーム事業本部
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IA プラットフォーム事業本部
新分野開発センター 光ファイバセンシング部

ビル、橋、高速道路等の社会インフラ、各種プラント、鉄道網、航空機、船舶などに光ファイバを張り巡らせた「光ファイバ神経網」は、これらの健全性診断を可能にし、社会の「安全・安心」と「持続可能」社会の実現に大きく寄与し得る技術として注目されている。

1.はじめに

光ファイバセンサは、防爆性(発火する恐れがない)、耐誘導性に優れ、また、従来のポイントセンサにはできない「ブランクエリアのない絶対確実な監視」が実現できる。日本ではプラントの老朽化が進んでおり、火災検知、漏れ検知、設備診断等の “HSE(Health, Safety and Environment )+ 保全” 系の広域温度分布監視に関するニーズが急拡大している。また、監視エリアの広範囲化・長距離化、さらなる高性能化、経済化のニーズも増えてきており、これらに対応できる製品が求められている。

本号では、光ファイバ温度分布センサの特長と製品概要を紹介し、次号で、プラント分野を中心に適用例について紹介する。

2.光ファイバを用いた温度分布センサ

プラントを最適な状態に保つためには設備の保全が極めて重要である。そのため、各設備には状態を監視するためのセンサが設置され、様々な物理量を測定することによって監視が行われている。
一般に温度の測定には熱電対などの接触式の温度計が用いられるが、これらは特定個所の点測定を行うものであり、広域の温度測定に適用する場合、監視すべき範囲に多数点の温度計を設置する必要がある。そのため監視能力を高めようとした場合、膨大な数のセンサが必要となり非常にコストが高くなってしまい、また、保守・点検上の課題も多い。逆にセンサの点数を減らすと十分な監視能力を得ることが出来なくなる。このような問題点を解決するために、広域温度監視用の低コストでかつ監視機能の高いセンサと監視システムが望まれていた。
光ファイバを利用した温度分布センサは DTS(Distributed Temperature Sensor)と呼ばれ、上記の要求に応え得る技術として導入が進んでいる。センサとなる光ファイバに装置からレーザーパルスを発すると、光ファイバ中のさまざまなところで光が散乱する。この散乱光の中の一つ(後方ラマン散乱光)の散乱強度が光ファイバの温度と相関関係があるため、後方ラマン散乱光の強度を測定することで対象物の場所(位置)ごとの温度が得られる(図1)。これにより、1 本の光ファイバで、「絶対に見逃してはならない」クリティカルな状態監視において「ブランクエリアのない絶対確実な温度監視」が可能になる。

図1.温度分布センサ(DTS)の原理図

3.製品概要および強化機能

当社製品 DTSX200 は短・中距離測定に対応したもので、最長 6km までの温度分布測定が可能であり、以下のような特長を有する。

  1. 生産制御システムとの高い親和性(DCS、PLC や SCADA などによる集中監視システムの構築が容易)
  2. 広い動作温度範囲 : -40 ~ +65℃
  3. 小型・軽量 :従来機比 約 1/4 の体積
  4. 低消費電力 :10W (DTSX200 単体)
  5. 高信頼性(工業計器設計基準に基づく設計・製造)、セキュリティ対応

一方、長距離対応の新製品 DTSX3000 を新たに販売開始した。今回開発した製品は、永年培ってきた光測定技術・光モジュール化技術を駆使し、温度分解能を 20~100 倍(従来比)、測定速度 100 倍以上(従来比)、最長測定距離 50km の世界トップレベルの高性能・高信頼性かつ低価格を実現した。これにより、従来困難であった広範囲、長距離、高精度な温度分布監視システムを経済的に構築できる。DTSX200 と同様な特長以外に DTSX3000 では以下の性能が強化されている。

  1. 世界 No.1* の温度分解能(0.03℃/10km/10 分測定)と監視距離(最長 50km)  (*当社調べ)
  2. 光モジュール化技術等によりシステム価格の低減を実現
  3. 長距離用光ファイバ温度分布センサとしては、世界 No.1* の小型・軽量・低消費電力を実現  (*当社調べ)
  4. 微少な温度変化を検知(制御)するアプリケーションにも有用
  5. 監視距離(10km、16km、30km、50km)に応じた製品ラインナップ
第2図 (a) DTSX200/3000 外観

DTSX200 および DTSX3000 のラインナップにより温度分布センサアプリケーションの全領域に対応できる。当社は制御機器メーカーでは唯一光ファイバ温度分布センサを製品化しており、石油・ガスの上流~中流工程における生産性の向上、プラントにおける “HSE+ 保全” のための温度監視により顧客価値の高いソリューションを提供する。図2に DTSX200/3000 の外観および仕様を、図3に測定例を示す。

第2図 (b) DTSX200/3000 仕様

第3図 (a) DTSX200 測定例

第3図 (b) DTSX3000 測定例

次回は、プラント分野を中心に適用例について紹介する。

注)DTSX は、横河電機株式会社の登録商標である。