横河電機株式会社 技術部長

足立 正二

IA プラットフォーム事業本部
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IA プラットフォーム事業本部
新分野開発センター 光ファイバセンシング部

前号では、①光ファイバを用いた温度分布センサはブランクエリアのない絶対確実な温度監視ができるためプラントでの活用が拡大していること、②業界最高クラスの測定距離 50km、高性能・高信頼性かつ低価格を実現した光ファイバ温度分布センサ DTSX3000 のリリースを紹介した。

1.はじめに

DTSX3000 は極めて性能が高いため、長距離・広範囲の火災検知や漏れ検知のような用途だけでなく、以下のような対応が可能である。

  1. 長距離や多段接続されるような敷設でもブランクエリアのない高精度な温度監視が可能
  2. リアルタイムで高精度測定が必要なプロセスで微細な温度分布測定が可能
  3. 制御システムとの連携で高品質、高効率な生産制御ソリューションを提供可能

本号では、この DTSX3000 を長距離・広範囲の火災検知や漏れ検知のような用途だけでなく、高精度な温度分布測定ができることによるプラントでの新しい活用や生産制御への応用を提案する。

2.光ファイバ温度分布センサの新提案

2.1 長距離や多段接続されるような敷設でもブランクエリアのない高精度な温度監視が可能

光ファイバ温度分布センサは、微小な光信号を測定するため、距離が長い場合や接続による光損失増により性能が劣化し、従来製品の DTSX200 では 6km が測定できる最長であった。DTSX3000 は高出力光増幅器、高感度光モジュールの採用により高ダイナミックレンジを確保し、業界最高クラスの 50km までの温度測定を実現した。DTSX3000 は距離が長い場合や、また、接続損失が大きい場合でも高精度に測定できるため、様々な活用が考えられる(図1)。以下にプラントでの活用例を示す。

図1.光ファイバ温度分布センサのプラント活用例

(ⅰ)ベルトコンベアのメンテナンス性向上

石炭搬送用コンベアや製紙工場の紙チップ搬送用コンベア等では、火災発生の事例も多く、光ファイバセンサケーブルを敷設することで全範囲にわたって異常発熱や自然発火を早期に発見できるため、光ファイバ温度分布センサが多く使われている。光ファイバセンサケーブルの敷設はベルトコンベアごとに光コネクタで接続される場合があり、それが多数ある場合は接続損失が大きいため高性能な光ファイバ温度分布センサが必要である。多数の光コネクタ接続が可能になることにより、石炭の飛出し等によるケーブル断線が起きた場合でも部分的に交換が可能でありメンテナンス性を向上することができる。

(ⅱ)電力ケーブルの効率的運用

電力の需要は年々増加しており、送電系統の効率的運用や信頼度向上が求められている。光ファイバセンサケーブルは電磁誘導の影響を受けないため、電力ケーブルの温度分布測定に最適であり、温度を測定することで熱による絶縁劣化での地絡事故など異常を検知することができる。また、導体温度測定によって許容電流がわかるので、時間帯や季節による負荷変動に対して効率的に送電することができる。電力ケーブルのような長距離を、高精度に測れる DTSX3000 を活用し、さらに生産制御システムと組み合わせることでより高効率な運用が可能である。

(ⅲ)パイプライン事故の未然防止

パイプラインからの漏れは物質によって環境や人的被害、爆発や火災など重大事故になるため、漏れを瞬時に検知し場所をピンポイントで特定できる光ファイバ温度分布センサの活用が広まっている。DTSX3000 は温度を高精度に測定できることにより、漏れだけではなく、パイプライン事故を未然に防止することが可能である。例えば、配管の周り全体の温度分布を測定することで、通常に流れているときの温度分布との違いから偏流や異常がわかり、配管の減肉などを未然に防止することができる。また、配管の詰まりも重大事故につながるため、光ファイバセンサケーブルを配管内下部に敷設し堆積物がたまるなどした場合、配管を通るガスや液体と比べ温度の違いを監視することで、詰まりの兆候を検知できる。

2.2 リアルタイムで高精度測定が必要なプロセスで微細な温度分布測定が可能

DTSX3000 は、光ファイバ温度分布センサ専用に開発した高度デジタル信号処理の採用により、高精度で高速な温度測定を実現した。DTSX3000 は、10km 未満では温度分解能が非常に高いため(図2)、プラント生産設備の運転監視など高性能アプリケーションとして活用できる。一方、従来製品の DTSX200 は、高精度が不要な火災検知や漏れ検知などのアプリケーションに廉価版として活用できる。

図2.DTSX3000 の性能例

プロセス産業では触媒槽や乾燥炉など温度を均一化することが品質、生産性で重要であり、高精度で高速な温度測定が必要である。これまでは、温度ムラがないよう熱電対などのポイントセンサを多数使い温度分布の監視が行われている。より高品質、高効率なプロセスのためには、微細な温度分布監視を行うための数多くのポイントセンサが必要であり、コストも膨大で非常に複雑なシステムとなるが、光ファイバ温度分布センサを採用すればシンプルかつ経済的に実現することができる。以下にリアルタイムで高精度測定が可能な DTSX3000 のプラントでの活用例を示す。

(ⅰ)乾燥炉の温度監視

図3は、フィルム乾燥炉の温度監視例である。フィルムや紙の乾燥工程では温度を細かく均一化することが品質、生産性で重要であり、光ファイバ温度分布センサは、炉内温度ムラを監視し、熱風の調整に活用することができる。

図3.フィルム乾燥炉の温度監視例

(ⅱ)LNGプラントの運転効率向上

天然ガスを -160℃ 以下まで冷却し液化する工程では、熱交換器の圧縮機やそれを駆動するためのガスタービンを動かすため膨大なエネルギーが必要である。効率よく安全に運転を行うためには、高精度で微細な温度分布測定が必要である。光ファイバ温度分布センサは、極低温測定では原理的に光のレベルが小さくなるため精度が下がるが、DTSX3000 を適用することで、十分な精度を確保することができる。

(ⅲ)冷蔵倉庫の温度管理

庫内の温度を一定にする必要がある大規模冷凍・冷蔵倉庫の場合、荷物や棚の移動により庫内の温度が均一にならない場合があり、精密かつ詳細な温度分布が監視できる光ファイバ温度分布センサは有力なツールになる。同時に部分的な温度異常も容易に検知できる。

(ⅳ)空調システムの省エネルギー

近年のデータセンタの需要拡大によるサーバの増設やサーバに対する高負荷に伴い、電源設備や空調設備も大型化し消費電力が増大している。一本の光ファイバをサーバラックやサーバ室に敷設し、熱だまりやラック内の温度分布情報を空調設備にフィードバックさせ緻密に温度制御を行うことで、過剰冷却を防止し空調用電力を削減することができる。

2.3 制御システムとの連携で高品質、高効率な生産制御ソリューションを提供可能

当社の光ファイバ温度分布センサは、DCS (Distributed Control System) や SCADA (Supervisory Control And Data Acquisition) などの生産制御システムとの通信機能を備えているので、統合管理・監視が容易に構築できる。図4に当社の DCS と連携したシステム構成例を示す。
SCADA との連携においては、当社が提供する FAST/TOOLS に光ファイバ温度分布センサ専用の機能を開発し、ファイル転送による温度データ転送を実現している。これにより FAST/TOOLS の多様なアプリケーションでの活用ができる。また、ネットワーク生産システム STARDOM や PLC FA-M3 V を用いた中小規模監視システムを構築することもできる。
DTSX3000 はリアルタイムで高精度な温度監視ができるため、オンライン制御により、高品質、高効率な生産制御システムを提供できる。

図4.システム構成例

3.まとめ

光ファイバ温度分布センサはプラントへの適応性、従来方式ポイントセンサと比較したユーザメリットが非常に高く、広範囲、長距離、フレキシブル、高速で測定抜けのない絶対確実な温度監視システムをシンプルかつ経済的に構築できる。 高精度な温度分布測定を実現したことで、さらにプラントでの新しい活用が広がり、広く HSE (Health, Safety and Environment)+保全ソリューション、生産制御ソリューションを提供していきたい。

注)DTSX、CENTUM VP、FAST/TOOLS、STARDOM、FA-M3 V は横河電機株式会社の商標または登録商標である。