2015/06/09 業界コラム 森本 吉春 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法No.2 全空間テーブル化手法による三次元形状計測 和歌山大学名誉教授 4Dセンサー株式会社(フォーディセンサー) 代表取締役会長 森本 吉春 小松製作所にて油圧機器の開発研究を6年、大阪大学/和歌山大学...もっと見る 小松製作所にて油圧機器の開発研究を6年、大阪大学/和歌山大学で画像計測の研究を30年、工学博士。 和歌山大学教授・理事/副学長、名誉教授。 国際学会での基調講演・招待講演・受賞なども多数。 趣味・特技:発明、写真、登山、スキー、ドライブ 生産ラインにおける自動車部品や電子基板の検査に画像処理が取り入れられ自動化が図られています。しかし、同じ色のキズやヘコミなど二次元画像処理では区別できない欠陥も多く存在します。また、ロボットの目も高速で三次元情報を得られると高度な行動ができ、活動の範囲が増えます。さらに、人物の顔写真による認証などにおいても二次元画像では得られる情報量が少なく、三次元情報を利用すれば認証の精度が大きく向上します。そこで、前回、格子法・モアレ法による変形(変位・ひずみ)の計測法について述べた手法を用いて、三次元形状計測する方法について述べます。とくにキャリブレーションが簡単かつ高精度にできる全空間テーブル化手法について紹介します。 三次元形状計測法光切断法図 1 光切断法の原理説明図前回、三角測量の原理を用いて三次元形状計測をする方法について述べました。このとき説明しませんでしたが、よく使われている三次元形状計測法の一つに図 1 に示す光切断法があります。プロジェクタにより直線上のスリット光を計測したいモノ(構造物や部品)に投影します。これをプロジェクタの横からカメラで撮影すると、形状に応じて格子線がゆがみます。このゆがみを解析すればそのスリット光上の形状がわかることになります。この投影するスリット光を動かすかモノを動かすことによりモノの三次元形状を計測することができます。この方法は原理が簡単なのでよく使われています。しかし、1ラインの形状を解析するのに二次元画像を使用しており、効率が悪く、座標は基本的に画素単位で得られることになり、精度もそれほどよくなりません。 格子投影法図 2 格子投影法の原理説明図これに比べて、図2に示す多くの等間隔の平行線からなる格子を投影する格子投影法を使用すると、1枚の画像で全面の情報を撮影することができます。この格子の明るさ分布を余弦波状であるとみなしてその位相解析を、前回述べました位相シフト法(格子の位置を数回ずらして投影し格子の位相を解析する)で解析すると格子ピッチの 1/100~1/1000 の精度で三次元形状を計測することができます。 モアレトポグラフィ図 3 モアレトポグラフィの光学系この格子投影法の光学系を図3のように配置すると、すなわち、プロジェクタのレンズとカメラのレンズを同じ平面内に置くと、簡単に等高線を撮影することができます。すなわち、レンズ面に平行な基準面に格子を投影します。これをカメラで撮影すると、図4(a)に示すように平行な格子線が撮影されます。モノを置いた場合は、(b)に示すようにその形状に応じて格子線がゆがんで写ります。この平行な格子線画像とゆがんだ格子線画像を重ねると(c)に示すような等高線を表すモアレ縞が現れます。この等高線となる理由を図3を用いて説明します。 図3のオレンジ色の実線はこの格子の明るい線が投影されている光路を、黒い破線は格子の暗い線が投影されている光路を示しています。これをカメラで撮影するとき、カメラの画素ピッチが基準面上で格子のピッチと等しくなるように光学系を調整すると、カメラの各画素には W の高さにあるモノは常に明るく、B の高さにあるモノは常に黒く写ります。これによりモアレ縞が発生していることになり、等高線が同じ明るさで写ることになります。 図4 モアレトポグラフィで撮影される画像 (a) 基準面に投影された格子(基準格子) (b)モノに投影された格子(変形格子) (c)モアレ縞 実際にはカメラの画素間隔はもっと細かく図4(b)に示すようなゆがんだ格子線が写りますが、前回述べたサンプリングモアレ法を用いて、画素を間引いて図4(a)の格子線のピッチとおなじ間隔となるようにサンプリングし、間引かれた画素の輝度を補間すると、図4(c)のような等高線を表すモアレ縞が現れます。このモアレ縞の位相は基準面の格子(基準格子)の位相とモノに投影された格子(変形格子)の位相の差になっています。このように、ゆがんだ格子やモアレ縞の位相を解析すると格子ピッチの 1/100~1/1000 程度の高精度に形状を計測することができるようになります。 全空間テーブル化手法図5 全空間テーブル化手法の原理説明図モアレトポグラフィの光学系を用いると簡単に等高線が得られましたが、市販のプロジェクタやカメラを用いて、どちらもモノの方向に向けると、プロジェクタやカメラの両方のレンズ面を同じ平面にすることが困難になります。この場合も、三角測量の原理を用いて格子の位相を解析することにより形状を計測することができますが、カメラの各画素位置から、プロジェクタやカメラのレンズ位置およびプロジェクタやカメラが見ているモノの一点の方向をパラメータとして、マトリックス演算をして三次元座標を求めることになります。この計算に時間を要します。また、位相解析により高精度計算ができるようになると、レンズの収差などが計測の誤差を生み出すことになります。この計算を行わずに格子の位相から表を見るだけで三次元座標を求める高速高精度な方法がここで述べる全空間テーブル化手法 1) です。 すなわち、図5に示すようにプロジェクタとカメラが配置されています。プロジェクタから投影された格子の位相が 2nπ となる n が整数のときを黒い実線で表示しています。図には左から位相が 0,2π,4π,6π の4本の線が示されています。この線の間においても位相は連続的に変化していきます。モノの上に投影されたこの格子線をカメラで撮影します。このときカメラの1画素に注目すると、その画素は視線 L の線上のモノを撮影することになります。すなわち、モノの位置が低いほど、撮影した格子の位相が小さくなり、モノの位置が高くなると、撮影した格子の位相も大きくなり、位相 ϕ と高さ z は1:1の対応関係があります。そこで、各画素ごとにこの対応関係を表にして覚えておくと、各画素の投影された格子の位相がわかればその表を見るだけで高さが判ることになります。高さ z だけでなく、x,y 座標も位相と1:1の関係があり、位相がわかれば、その点の三次元座標(x,y,z)が判ることになります。 手順としましては、まず計測したい全空間にプロジェクタで格子を投影します。基準面を上下方向の移動テーブルに載せ、その基準面上に投影された格子を位相シフトさせながらカメラで撮影します。これによりカメラのすべての画素で、基準面上の格子の位相が判ることになります。つぎに、基準面を下から上に一定間隔で移動テーブルを移動させます。それぞれの高さで格子の位相シフトを行い各画素の位相を覚えます。このようにして、各画素ごとに高さと位相の関係を表す表を作ることができます。高さ間隔を粗くとった場合は途中の高さを補間により求めることにより、細かな分解能をもたせることができます。つぎにモノを置いたときに各画素の位相がわかればその表を見るだけで高さ情報が得られることになります。 この方法の良い点は、各画素の位相がわかればマトリックス計算をしなくても表を見るだけで良いので高速に計測できます。また、レンズに収差があっても、格子が少々ゆがんでいても、これらの誤差は表を見ることにより、自動的にキャンセルされます。そのため精度の悪い安価な装置でも、精度が良くなります。また、全周計測を行うためなどカメラやプロジェクタを複数つけても座標系はすべて基準面と移動テーブルにより決まり、同じ座標で表現されるため、簡単に合成ができます。一度表を作ってしまえばカメラとプロジェクタだけを一体としたままどこへ移動させても形状を計測することができます。 この原理に基づいて開発した三次元形状計測装置とその形状計測例を図6に示します。 図6 全空間テーブル化手法を用いた三次元形状計測装置と 計測結果表示例3Dカメラ4Dセンサー株式会社では、全空間テーブル化手法を用いた形状計測装置を3Dカメラとして販売しています。簡単に安価に三次元形状を計測することができます。 この詳細仕様やデモ動画はHPで見ることができます。 次回は格子法・モアレ法を用いた高速度三次元形状計測法である光源切替位相シフト法を紹介します。 文献1) 藤垣元治・森本吉春 「全空間テーブル化手法による格子投影3次元形状計測」 実験力学、Vol.8, No.4,pp.402-408, 2008 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 和歌山大学名誉教授 4Dセンサー株式会社(フォーディセンサー) 代表取締役会長 森本 吉春さんのその他の記事 2015/07/07 業界コラム 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法 No.3光源切替位相シフト法による高速三次元形状計測 2015/06/09 業界コラム 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法No.2 全空間テーブル化手法による三次元形状計測 2015/05/13 業界コラム 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法 No.1サンプリングモアレ法による変位分布・ひずみ分布計測 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月