2015/07/07 業界コラム 森本 吉春 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法 No.3光源切替位相シフト法による高速三次元形状計測 和歌山大学名誉教授 4Dセンサー株式会社(フォーディセンサー) 代表取締役会長 森本 吉春 小松製作所にて油圧機器の開発研究を6年、大阪大学/和歌山大学...もっと見る 小松製作所にて油圧機器の開発研究を6年、大阪大学/和歌山大学で画像計測の研究を30年、工学博士。 和歌山大学教授・理事/副学長、名誉教授。 国際学会での基調講演・招待講演・受賞なども多数。 趣味・特技:発明、写真、登山、スキー、ドライブ 生産ライン上で動くベルトコンベアに乗った部品検査を行うには高速形状計測が必要です。また、構造物の振動計測や、人体の運動解析なども高速で三次元形状を計測する必要があります。今回は、今までに述べてきた格子法・モアレ法を用いて、三次元形状をより高速に計測する方法について述べます。とくに、位相シフトを高速に行うための光源切替位相シフト法について述べます。 1.光源切替位相シフト法三次元形状を計測する方法として格子投影法を用いる方法を前回説明しました 1)。投影した格子の位相を解析することにより、高精度に形状を計測することができることも示しました。図1は典型的な格子投影法であるモアレトポグラフィの光学系です。格子の位相を変えるために、液晶プロジェクタやDLPプロジェクタを用いて格子のパターンを書き換える方法が最もよく使われています。しかし、この方法では、格子パターンの書き換えによる投影は毎秒60回(fps)程度で、これ以上高速で行うのは困難です。産業用では、図2に示すように、ピエゾステージなどを用いて格子を矢印方向に動かして位相シフトを行っています。この場合、移動ステージが高価であり、大きなスペースを占めることになります。 図1 モアレトポグラフィの光学系 図2 格子を動かすことにより位相シフトを行う従来の方法 図3 複数の光源を切り替えることによる 位相シフト法(光源切替位相シフト法)ところが、図3に示しますように、複数の光源を用意しておき、固定した格子の前で、光源を切り替えますと、格子の影は動くことになり、位相シフトができます。光源にLEDを用いますと非常に高速に切り替えることができ100万fpsでも可能となります。 ただこの場合、図2と異なり、位相シフト量がすべての場所で同じとはなりません。格子のそばでは格子の影は格子とほぼ同じ位置にでき、位相シフト量は格子からの距離が離れるほど大きくなります。したがってすべての場所で同じ位相シフト量となる従来の位相シフト法による位相計算式、例えば90度ずつ位相シフトした輝度値より求める位相計算式) \(tan\,\phi=-\frac{I_3-I_1}{I_2-I_0}\) をそのまま適用することができません。そこで前回説明しました全空間テーブル化手法 2)と組み合わせます。全空間テーブル化手法は光学機器が少々誤差を持っていてもその誤差をもつ光学系で得られた位相と座標の関係を予め調べた表を参照することにより、その誤差は自動的にキャンセルされて、正しい三次元座標が得られます。計測する高さをある程度の範囲に限定しておけば従来の位相計算式と全空間テーブル化手法を使って計測することができるようになります。 図4はLED光源の例の写真を示します。小さなLEDチップを直線上に30個並べ1ラインの線光源としています。これが中央に縦方向に9ラインあります。図 (a) は高精度計測用、図 (b) は高輝度用です。 図4 LEDライン光源(a) High-precision LED board (b) High-power LED board 図5はこの高精度用LEDを用いた光学系の例です。計測精度は標準偏差で13μmです。 図6は高出力用LEDを用いた光学系での計測例です。230fpsでリアルタイム形状計測をしています。 図5 光源切替位相シフト法の光学系 https://www.shinkawa.co.jp/wp-content/uploads/2020/09/vol007_no07_col05_09.mp4図6 光源切替位相シフト法による高速三次元形状計測(約20秒)2.光源切替位相シフトシャドーモアレ法位相シフト法では投影している格子ピッチの1/100~1/1000の精度で形状を計測することができます。図3の光源切替位相シフト法では格子とモノ(計測対象物)の間が離れています。格子を投影しても、モノの位置に来た時は格子のピッチは拡大して投影され精度が悪くなります。また、細かな格子を用いても、格子からモノまでの距離が離れていると格子はボケて撮影され、格子が見えなくなります。 図7 光源切替位相シフト シャド-モアレ法の光学系そこで、図7に示すように、細かな格子をモノのそばに設置します。こうすることにより、細かな格子をぼかさずにモノに投影でき、精度が向上します。ところがモノのそばに格子があるためカメラには格子の影以外に格子そのものが写ってしまいます。この2つが同時に写るとモアレ縞が撮影されることになります。このモアレ縞の位相解析を行えば高精度に形状が計測できることになります。 ところが位相解析をするためには位相シフトを行う必要があるのですが、シャドーモアレ法の場合格子を格子面内にシフトしてもその影も同じ方向にシフトすることになり、2つの格子の位相差で表現されるモアレ縞の位相は変化しないことになります。すなわち、シャドーモアレ法では格子を移動しても位相シフトができないのです。そこで、従来のシャドーモアレ法では、モノのそばにある格子を上下に移動させてモアレ縞が位相シフトするようにしています。しかしこの場合、格子を精度良く上下方向に動かすための移動装置が高価であることと場所をとることになります。 図8 光源切替位相シフトシャドー モアレカメラそこで、格子は固定しておいて光源だけを切り替えますと、格子は動かず、格子の影だけが動くことになり、モアレ縞の位相をシフトすることができ、簡単高速に位相シフトができるようになります。 図8にこの原理に基づいて製作した光源切替位相シフトシャドーモアレカメラの例を示します。この方法は大きな物体の平面度を高速・高精度に計測できるのが特徴です。 図9 電子基板の三次元形状の計測例図10 iPhoneの平面度の計測例図9および図10は光源切替位相シフトシャドーモアレカメラによる計測の例で、図9は電子基板の高さ分布を計測しています。図10はiPhoneの平面度計測を行っています。中央部分の平面度がよく、周辺の枠の部分の平面度が悪いことがわかります。この時の、精度は標準偏差で約3μmです。 4Dセンサー株式会社では、光源切替位相シフトシャドーモアレ法を用いた装置を光源切替位相シフトシャドーモアレカメラとして販売しています。大きな物体の平面度を高速・高精度に計測することができます。 この詳細仕様やデモ動画はHPで見ることができます。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 和歌山大学名誉教授 4Dセンサー株式会社(フォーディセンサー) 代表取締役会長 森本 吉春さんのその他の記事 2015/07/07 業界コラム 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法 No.3光源切替位相シフト法による高速三次元形状計測 2015/06/09 業界コラム 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法No.2 全空間テーブル化手法による三次元形状計測 2015/05/13 業界コラム 構造物の形状や変形を調べる格子法・モアレ法 No.1サンプリングモアレ法による変位分布・ひずみ分布計測 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月