生産ライン上で動くベルトコンベアに乗った部品検査を行うには高速形状計測が必要です。また、構造物の振動計測や、人体の運動解析なども高速で三次元形状を計測する必要があります。今回は、今までに述べてきた格子法・モアレ法を用いて、三次元形状をより高速に計測する方法について述べます。とくに、位相シフトを高速に行うための光源切替位相シフト法について述べます。
1.光源切替位相シフト法
三次元形状を計測する方法として格子投影法を用いる方法を前回説明しました 1)。投影した格子の位相を解析することにより、高精度に形状を計測することができることも示しました。図1は典型的な格子投影法であるモアレトポグラフィの光学系です。格子の位相を変えるために、液晶プロジェクタや DLP プロジェクタを用いて格子のパターンを書き換える方法が最もよく使われています。しかし、この方法では、格子パターンの書き換えによる投影は毎秒 60 回(fps)程度で、これ以上高速で行うのは困難です。産業用では、図2に示すように、ピエゾステージなどを用いて格子を矢印方向に動かして位相シフトを行っています。この場合、移動ステージが高価であり、大きなスペースを占めることになります。

図1 モアレトポグラフィの光学系

図 2 格子を動かすことにより位相シフトを行う従来の方法

ところが、図3に示しますように、複数の光源を用意しておき、固定した格子の前で、光源を切り替えますと、格子の影は動くことになり、位相シフトができます。光源に LED を用いますと非常に高速に切り替えることができ 100万fps でも可能となります。
ただこの場合、図2と異なり、位相シフト量がすべての場所で同じとはなりません。格子のそばでは格子の影は格子とほぼ同じ位置にでき、位相シフト量は格子からの距離が離れるほど大きくなります。したがってすべての場所で同じ位相シフト量となる従来の位相シフト法による位相計算式、例えば90度ずつ位相シフトした輝度値より求める位相計算式)
\(tan\,\phi=-\frac{I_3-I_1}{I_2-I_0}\)
をそのまま適用することができません。そこで前回説明しました全空間テーブル化手法 2)と組み合わせます。全空間テーブル化手法は光学機器が少々誤差を持っていてもその誤差をもつ光学系で得られた位相と座標の関係を予め調べた表を参照することにより、その誤差は自動的にキャンセルされて、正しい三次元座標が得られます。計測する高さをある程度の範囲に限定しておけば従来の位相計算式と全空間テーブル化手法を使って計測することができるようになります。
図4は LED 光源の例の写真を示します。小さな LED チップを直線上に 30 個並べ1ラインの線光源としています。これが中央に縦方向に9ラインあります。図 (a) は高精度計測用、図 (b) は高輝度用です。
図4 LED ライン光源

(a) High-precision LED board

(b) High-power LED board
図5はこの高精度用 LED を用いた光学系の例です。計測精度は標準偏差で 13μm です。
図6は高出力用 LED を用いた光学系での計測例です。230fps でリアルタイム形状計測をしています。


図5 光源切替位相シフト法の光学系
図6 光源切替位相シフト法による高速三次元形状計測(約20秒)
2.光源切替位相シフトシャドーモアレ法
位相シフト法では投影している格子ピッチの 1/100~1/1000 の精度で形状を計測することができます。図3の光源切替位相シフト法では格子とモノ(計測対象物)の間が離れています。格子を投影しても、モノの位置に来た時は格子のピッチは拡大して投影され精度が悪くなります。また、細かな格子を用いても、格子からモノまでの距離が離れていると格子はボケて撮影され、格子が見えなくなります。

そこで、図7に示すように、細かな格子をモノのそばに設置します。こうすることにより、細かな格子をぼかさずにモノに投影でき、精度が向上します。ところがモノのそばに格子があるためカメラには格子の影以外に格子そのものが写ってしまいます。この2つが同時に写るとモアレ縞が撮影されることになります。このモアレ縞の位相解析を行えば高精度に形状が計測できることになります。
ところが位相解析をするためには位相シフトを行う必要があるのですが、シャドーモアレ法の場合格子を格子面内にシフトしてもその影も同じ方向にシフトすることになり、2つの格子の位相差で表現されるモアレ縞の位相は変化しないことになります。すなわち、シャドーモアレ法では格子を移動しても位相シフトができないのです。そこで、従来のシャドーモアレ法では、モノのそばにある格子を上下に移動させてモアレ縞が位相シフトするようにしています。しかしこの場合、格子を精度良く上下方向に動かすための移動装置が高価であることと場所をとることになります。

そこで、格子は固定しておいて光源だけを切り替えますと、格子は動かず、格子の影だけが動くことになり、モアレ縞の位相をシフトすることができ、簡単高速に位相シフトができるようになります。
図8にこの原理に基づいて製作した光源切替位相シフトシャドーモアレカメラの例を示します。この方法は大きな物体の平面度を高速・高精度に計測できるのが特徴です。


図9および図10は光源切替位相シフトシャドーモアレカメラによる計測の例で、図9は電子基板の高さ分布を計測しています。図10は iPhone の平面度計測を行っています。中央部分の平面度がよく、周辺の枠の部分の平面度が悪いことがわかります。この時の、精度は標準偏差で約 3μm です。
4Dセンサー株式会社では、光源切替位相シフトシャドーモアレ法を用いた装置を光源切替位相シフトシャドーモアレカメラとして販売しています。大きな物体の平面度を高速・高精度に計測することができます。
この詳細仕様やデモ動画はホームページ(http://4d-sensor.com/)で見ることができます。
和歌山大学名誉教授 4Dセンサー株式会社(フォーディセンサー) 代表取締役会長 森本 吉春さんのその他の記事
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