神戸大学 名誉教授

神吉 博

兵庫県加古川市出身
1970年3月 神戸大学大...もっと見る
兵庫県加古川市出身
1970年3月 神戸大学大学院修士課程終了
1970年4月 三菱重工業(株)入社高砂研究所振動騒音研究室にて回転機械振動担当
1977年3月 大阪大学工学博士
1995年7月 神戸大学工学部教授
2009年3月 神戸大学定年退職、神戸大学名誉教授
2008年~2013年 株式会社ジャイロダイナミクス副社長
2009年4月~2014年3月 三菱重工(株)高砂製作所技術アドバイザー
2014年4月~ カンキロータダイナミクスラボ 代表

専門は回転機械の振動、特につりあわせ、各種振動問題解決ジャイロ式波力発電など特許多数
趣味は車、ログハウス、旅行

最近12年乗った家内のコンパクトカーを買い替えようという話が持ち上がり、久しぶりにいろんな車を見る機会があったので、これまで乗ってきた車を思い出しながらいろいろ考えてみた。

1.愛車遍歴

中学3年生の時50ccの免許を取り(そのころは中学卒で配達に携わる人も多かったので早くから免許が取れた)ホンダスーパーカブに乗ってから今まで実に55年間もバイクや車に乗ってきたことになる。

乗った車を並べてみると

<1960年代>

  • ホンダスーパーカブ 50cc
  • ホンダスーパーカブ 65cc
  • ホンダT360 360cc軽トラック
  • ホンダN360 60cc
  • ホンダ1300 1300cc

<1970年代>

  • 三菱ミニカスキッパー 360cc
  • 三菱ランサー 1400cc

<1980年代>

  • 三菱ギャランスーパーエステート 2000cc

<1990年代>

  • 三菱ディアマンテ 2000cc
  • オペルヴィータ 1400cc

<2000年代>

  • ベンツ C280 2800cc
  • 日産マーチ 1400cc

<2010年代>

  • 日産ティアナ 2500cc

それぞれの特徴と感想をまとめると次のようになり、時代背景と自分の歴史を表しているようだ。

  • ホンダスーパーカブ:ホンダのベストセラーバイクでエンジンがOHVからOHCに変わったくらいでほとんど変わらない状態で現在も世界中で使われ愛されている。足代わりには十分でガソリンもいつ入れたか忘れるほど省エネである。
  • ホンダT360:ホンダが初めて作った四輪車で水冷4気筒DOHCエンジンで軽々とと7000rpm回りレーサーエンジン並みであったが車体は重く頑丈であまり速くは走らなかった。ひどい台風があり屋根瓦がたくさん飛んでしまったのでこの車の荷台に新しい瓦を買っていっぱい積んで帰ったことがある。後で計算したら2倍くらい積載オーバーであった。それでもびくともしなかった。
  • ホンダN360:これもホンダが初めて作った軽乗用車で今度は打って変わって軽量な車でエンジンはバイクの2気筒空冷エンジンそのものであった。
    軽くて良く走り若者に人気が高かった。しかし乗用車作りのレベルはまだまだで、イグゾーストパイプは疲労で壊れるし、脱輪するとロアーアームが曲がってしまった。車をを持ち上げようと
    フェンダーを触ったら手が切れた。これは板金の角がプレスのままでアールに仕上げたり曲げたりしていなかったためで、車作りに慣れていなかったことがうかがえた。最近のホンダ車をみると立派になっており隔世の感がある。
  • ホンダ1300:これは本田宗一郎が力を入れた空冷4気筒1300ccエンジンを積んだ本確的な乗用車の1号機で、素晴らしくよく回るエンジンと 丈夫なボディーで日本で初めてのFF車だったと思う。高速走行は素晴らしかったが、渋滞時の走行はエンジンが高速向けのため低速トルクが小さく、クラッチやブレーキはトラック並みに重かったので大変であった。
    この車が本田最後の空冷エンジンとなった。
  • 三菱ミニカスキッパー:上記の車はいずれも兄の所有車であったがこの車が初めての自分の車である。安くて小さくて良く走る車で360cc2サイクルエンジンを使っていた。今ではとても走れないモウモウと煙を吐く車であった。
  • 三菱ランサー:この車は素晴らしく良い車だった。軽快に走りブレーキに性能が非常に良かった。
    小さかった長女を乗せて遠くまで良くドライブに行った。
  • 三菱ギャランエステート:会社の先輩から息子さんが車を買ったので車庫が足りなくなったということで真新しい車を譲ってもらった。
    この車は4ナンバーでまだワゴン車が今のようにポピュラーでない時代であったが便利さは抜群であった。テントを積んで出かけたり、自転車を積んだり良く働いた車である。後ろがぎりぎりまで寄せれるので大きい車の割には乗りやすかった。
  • 三菱ディアマンテ:新車が出たので早速購入した。はじめてのオートマチック車であった。エンジンはV型6気筒で、広さ、乗り心地、静かさ、運転のしやすさ、燃費の良さなど、買った人は皆満足する車であった。これが大メーカーから売り出されていればもっと売れたはずであろう。後継車が売り出されていないのが残念である。
  • オペルヴィータ:阪神大震災の後、安全装備の良いコンパクトカーを探したが 日本車にはエアバックもABSも標準装備のものがなくオプションで付けるとドイツ車よりも高かった。それでもっともコンパクトなオペルヴィータを購入した。左ハンドル車であったが家内は大いに気に入っていた。燃費が悪いのと時々コンピュータに不具合が出るのは困ったが十分役に立った。塗装がきれいで9年使って売る時もワックスをかけたら新車のように綺麗であった。
  • ベンツC280:ドイツ車に興味があり購入した。最後の直列6気筒エンジンでコンピュータ式でない最後のオートマチックトランスミッションでオーバードライブなしであった。エンジン馬力がありトルクが大きいのでほとんどの所でシフトダウンなしでぐんぐん走れる車であった。特に100km/h以上での安定性や走りは格別であった。また燃費も走り方にもよるがかなり良かった。また10年間で故障はゼロでワイパーとタイヤとバッテリーを変えただけであった。手放すのは惜しかったが古くなるとメンテナンスにお金がかかるよと言われ日本車に戻ることにした。
  • 日産マーチ:家内の車としてビータの故障に我慢ができずもっともコンパクトな車として購入した。運転のしやすさは一番で女性向けには非常に便利である。初号機なので燃費はまずまず。
  • 日産ティアナ:ベンツの後コストパーフォーマンスを考えて購入した。
    上位機種と比べ100万円以上安く、実用性能はあまり変わらないという車で日本ではあまり売れてないが中国では圧倒的な人気車である。乗ってみると静かで乗り心地も良く燃費も良くて満足している、ただしスポーツ的に走る車ではない。はじめてCVTの車に乗ったが普通に走るには非常に快適である。エンジンブレーキの絶妙な制御が素晴らしい。

2.最後の車選び

前述のように家内の車が古くなったので新しいコンパクトな車を探そうということでいろいろ検討中である。選ぶ条件としての家内の希望は

  • コンパクトで乗りやすいこと
  • 見た目がきれいでかっこよく軽自動車とは違うこと
  • 経済性が優れていること(最初は高くても燃料費や維持費が少ないこと)

10年使うと考えると最後になるかもしれないのでかなり良く考える必要がある。

これまで乗ってきた車はいずれも堅実に選んだものばかりであまり我儘を入れていなかったように思う。最後の車くらい変わったものでも良いかなとも思うが後で考察を述べるようにやはりエンジニアを抜けきれないようだ。
今候補に挙がっているものを列挙すると次のようになる。

  • ルノールーテシア:ルノーのコンパクトカーでかなり良くできている。
    デザインとカラーが素晴らしく久しぶりに見つけた美人のようである。
    買ってみたい気もするがサイズが少し大きく、値段も高く、燃費もあまり良くないので考えてしまう。
  • フォルクスワーゲンアップ:コンパクトに徹した車で実用上一番良いかもしれない。しかし値段の割には装備や内装が軽並なのは気になる。
  • 日産ノート:広さ、安全装備、燃費、値段いずれも申し分ないが、少しサイズが大いいのと優等生すぎて面白くないのがどうしても気に入らない。
  • 日産リーフ:素晴らしい電気自動車だが心配性の人に228kmしか走れないのは問題。サイズも少し大きすぎる。コンパクトでもっと長距離走れる電気自動車ならほしい。
  • マツダデミオディーゼル:デザイン、燃費、装備ともに満足いく。特にディーゼルエンジンは機械工学を専攻する者にとって興味がある。熱効率の良さがガソリンハイブリッドの実力を越えるかもしれない。といっても家内にこれは理解できないとは思うが。

以上いろいろ悩むところである。近じか結論が出るであろう。

3.最近の車と日本のエンジニアリング動向

これまでの議論で気になるところであるが最近の日本の車は次のような傾向が著しいのではないかと思う。各社とも大いに努力しているのはよく理解できるが、ユーザーとしてまたエンジニアとして考えると心配にもなる。

  • 規格の中で精いっぱい広く使いやすい
  • 燃費が良い(特にハイブリッド車は)
  • 信頼性が高く故障しない

これだけ考えると良いことずくめであるが、自動車が皆四角い箱になってしまって良いのだろうか。車はもっと楽しく美しいものでないといけないのではないかと考えてしまう。

以前スエーデンから来た先生に軽四輪車のことをなぜあんな危なそうな車を平気で作るのかと言われたことがある。規格数値が問題だと思うが日本人はこれを変えようとせず合わせようとするのでこんなことになっているのだと思う。最近の軽四輪車の性能は素晴らしいが、規格の幅があと100mmでも大きければもう少し素晴らしい車になると思う。エンジンも最適燃費は1000ccくらいになるのではないかと考えられる。

規格を守ったり、利用して商売にするのはいいが日本中が軽四輪車と発泡酒であふれていては楽しくないのではと感じる。発泡酒をビールにこだわるドイツ人はどう見ているのだろうか。

前回の田中先生の教育の話にもあるがこんな中で育った若者が世界に勝てる新製品を生み出せるだろうか心配になる。これまででも車についての大事な開発はほとんどが欧米でなされておりこれらを量産化して仕上げるのには確かに日本も貢献しているがオリジナリティーは少ない。代表的な貢献をまとめると次のようになるであろう。

[日本の貢献]

  • 高信頼性化
  • 低コスト化
  • 便利化―横開きドア
  • カーナビ
  • ハイブリッドカー
  • 燃料電池車

[欧米の貢献]

  • 安全性:エアバック、ABS,安定化制御各種
  • オートマチックトランスミッション
  • CVT
  • 先進エンジン(小型エンジン+ターボチャージャー)
  • 前輪駆動車
  • 四輪輪駆動車
  • ニューデザイン、ニューカラー

主要なものは欧米がほとんどである。

もっと新しい開発がほしい
新しい開発ができる人材や組織企業風土の育成が望まれる。
これは車に限らずほとんどの工業製品に共通の課題である。

以上雑多なことを書かせていただいた。暇つぶしに読んでいただければ幸いである。