2018/05/09 業界コラム 岡本 浩和 第 2 回 ヘンデルの勇気と実行力 株式会社オーパス・スリー 代表取締役 岡本 浩和 株式会社オーパス・スリー 代表取締役 キャリア...もっと見る 株式会社オーパス・スリー 代表取締役 キャリアコンサルタント 米国CCE, Inc.認定GCDF-Japan キャリア・カウンセラー http://opus-3.net/ 1964年 滋賀県生まれ 1988年 早稲田大学第一文学部哲学科社会学専修卒業 卒業と同時に株式会社NHKプロモーション入社。音楽イベントなどのプロデュース業に携わりながら、一方で人間教育分野にも強い興味を抱くようになる。 1991年 ベンチャー系人材開発、教育会社に転職 以後2007年1月まで16年間にわたり大学生の就職支援、若手社会人のためのリーダーシップ研修、ストレ ス・マネジメント研修、コミュニケーション研修など500回以上のセミナーのファシリテーション業務を通じ、延べ10,000人に及ぶ個人カウンセリング を経験。 2007年 独立とともにOpus3(オーパス・スリー)創業 2009年 株式会社オーパス・スリー設立、代表取締役に就任 法人向けの新人研修やマネージャー研修、独自の組織活性研修などの企画運営&講師として活動す るほか、首都圏の大学にて「キャリアデザイン」の講義を担当。また、個人を対象に「ワークショップZERO(東京&名古屋)」を主宰、日々「人間教育」に 情熱を傾けている。 ワークショップZEROはこちら http://seminar.opus-3.net/ 早わかりクラシック音楽講座はこちら http://classic.opus-3.net/ Blog :岡本浩和の「人間力」発見日記 http://ameblo.jp/opus3/ アレグロ・コン・ブリオ~第6章 http://classic.opus-3.net/blog/ 第 1 回は、バッハの作品をテーマに、大作曲家の創造する傑作は、天賦の才はもちろんのこと、その背後に類稀なる努力があり、その結果の賜物であったことについて書きました。 バッハは長い生涯の中で、職を求めて転地を繰り返しました。しかしながら、国外に出ることは一度もなく、ドイツ国内だけでの活動が中心で、当時としてもローカルな音楽家であったことを付記します。 一方のヘンデル。この人はバッハとは正反対の性格だったのでしょうか、生涯の 3 分の 2 を、当時音楽の中心地であったイギリスはロンドンで過ごし、晩年にはイギリス人として帰化するという選択をしています。その意味で、バッハの作品が内側に向き、峻厳な印象であるのに対し、ヘンデルのそれが外向的で、かつ明朗な印象を常に与えるのは、生き方や性格の違いが見事に刻印されたものなのかもしれません。 ジョージ・フレデリック・ヘンデル ヘンデル晩年のオラトリオで安定的に人気を博したのは「メサイア」、「サウル」、「ユダス・マカベウス」だといわれています。まったく新しい音楽を生み出す傍ら、旧作を再利用することにより驚異的なスピードで作品を世に送り出したヘンデルは、後世の多くの大作曲家が認めるように天才です。バッハと同じく天賦の才があったことは間違いありませんが、それにしてもその仕事量たるや並大抵ではなかったことがわかっています。それこそ気力、体力、そして創造力の結晶が膨大な楽曲として人々の前に現われました。300 年を経た現代、幸運にも私たちはそういう傑作たちをたとえ一部であれ、享受することができるのです。それを至宝といわずして何といいましょうか。 ※参考音源 ・ヘンデル:オラトリオ「メサイア」〜ハレルヤ・コーラス 「メサイア」の中で、否、ヘンデルの作品の中でも特に有名な第 2 部第 44 曲の「ハレルヤ・コーラス」 https://www.youtube.com/watch?v=IUZEtVbJT5c ・ヘンデル:オラトリオ「ユダス・マカベウス」〜第 3 幕「見よ、勇者は帰る」 第 3 幕で、凱旋するユダを民衆が歓喜をもって迎える場面で奏される有名な音楽 https://www.youtube.com/watch?v=8p1BedwyFKY そんなヘンデルでも、人生順風満帆だったわけではありません。どんな人でも良い時もあればそうでないときも当然あります。どれほどの天才でも、やはり環境やニーズやそういうものの浮き沈みに抗うことはできません。彼もバッハ同様、挫折を味わい、都度、踏ん張り、そしてその積み重ねで一定の地位を築き上げた努力の人だったのです。 1740 年代に入り、幾分ヘンデル人気に陰りが見え始めました。興行成績も決して良くなかったその時期、ヘンデルは一種博打を打ちました。もちろんそれは、真の自信がないとできない行動だったわけで、それまで相応の実績をすでに挙げていた彼にとって、新規アイディアは朝飯前、当然のことだったことは間違いありません。 1747 年のシーズンから、それまで貴族や大金持ちを相手にした予約制という興行方式を、大胆にも当日券のみによる興行方式にあえて変更、つまり、すべてのリスクを自らが背負うという自主独立の方式に転換したのです。何という勇気でしょうか。しかも、結果的にこれが当たり、以降のシーズンでは興行も順調、莫大な財産を生み出すことにつながっていきました。それは、ひとつには前述 3 つの安定的人気のオラトリオがあったことが大きいのですが、仮にそうだとしても、当時誰も真似できなかった当日券方式にあえて挑戦したことが、プロデューサーとしてのヘンデルの頭脳プレーだったと言えましょう。その先見の明に、私は何を置いても拍手を送りたくなるのです。 ヘンデルのこの類稀な実行力に、19 世紀末から 20 世紀前半にかけて活躍したアメリカの詩人ロバート・リー・フロストの次の言葉を私は思い出します。 「勇気というのは人間の徳の中で最も重要なものである ― 限られた知識と不十分な証拠に基づいて行動するという勇気。我々すべてが有しているのはそれだけなのだ。」 自信があるとはいえ、新たなチャレンジに保証はありません。何よりヘンデルに「勇気」というものがなく、具体的な行動がもしなかったら、彼の傑作は歴史の中に埋もれ、私たちも決して知ることができなかったでしょう。そのことを思うと、彼の実行力に真に感嘆の思いを抱くと同時に感謝の念も起きるのです。 ところで、ヘンデルの作品中、最も有名なオラトリオと言っても過言でない「メサイア」について。これは、内容は宗教的なものなので、キリスト教に縁のない人には敷居の高い作品ですが、どちらかというと教会よりも世俗的舞台のために書かれた音楽は勇壮で、愛らしく、有名な「ハレルヤ・コーラス」などは、誰もが人生で一度は聴いたことのある、よく知られた旋律を持つ傑作です。ちなみに、スコットランドでの「メサイア」初演に関し、1742 年のダブリン・ジャーナル誌では、次のような報告がされています。 「・・・憧れを抱いて群れ集まった聴衆に「メサイア」が与えたこの上ない喜びは言葉では言い尽くせない。高貴で威厳に満ちた感動的な歌詞に付けられた音楽の崇高さと気品と優しさは、ともに相携えて恍惚とした心と耳をとらえ、魅了した・・・」 (1742 年 4 月 17 日付 ダブリン・ジャーナル誌) 〜 作曲家◎人と作品シリーズ ヘンデル(三澤寿喜著)P143 260 余年前のこういう批評を読むにつけ、聴衆を感動の坩堝に巻き込む音楽作品を創造するヘンデルの才能の豊かさに言葉がありません。 「メサイア」を聴いてみましょう。 ※スティーヴン・クレオバリー指揮ブランデンブルク・コンソート https://www.youtube.com/watch?v=yEFwOTTEJbY 冒頭の「シンフォニア」の堂々たる音響と澄み切った音色。テノールのレチタティーヴォからどういうわけか涙がこぼれるほど。さらには、物語に入ってからの極めて充実のコーラス (例えば有名な、第 12 曲「キリストの誕生を喜ぶ歌」、聖誕合唱 “For unto us a Child is born”。 少年合唱の清澄な響きが何とも堪りません)にも思わず感動させられてしまいます。どこをどう切り取っても、初演時のダブリンの聴衆が感じたような「崇高さと気品、そして優しさ」 に満ちるのです。 ヘンデルから私たちが学ぶことは、勇気であり、実行力であり、諦めないことなのだと思います。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社オーパス・スリー 代表取締役 岡本 浩和さんのその他の記事 2018/07/03 業界コラム 第 3 回 アントニオ・ヴィヴァルディ 「心の安寧をどこかに置き忘れてしまった現代人への贈りもの」 2018/05/09 業界コラム 第 2 回 ヘンデルの勇気と実行力 2018/03/06 業界コラム 第 1 回 勤勉なバッハ ― 私はとても勤勉でした。 私のように勤勉だったら、誰だって私のようになれるでしょう 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月