2018/11/06 業界コラム 結城 宏信 エンジニアを育てるために 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 情報理工学域 III類(理工系) 准教授 結城 宏信 ■ 経歴 電気通信大学 電気通信学部 助手...もっと見る ■ 経歴 電気通信大学 電気通信学部 助手 1994/04/01-1999/03/31 電気通信大学 電気通信学部 講師 1999/04/01-2003/03/31 電気通信大学 電気通信学部 助教授 2003/04/01-2007/03/31 電気通信大学 電気通信学部 准教授 2007/04/01-2010/03/31 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授 2010/04/01-現在 ■ 学歴 東京都立府中高等学校 普通科 1985/03/11 卒業 電気通信大学 電気通信学部 機械工学科 1989/03/24 卒業 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士前期 1991/03/22 修了 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士後期 1994/03/23 修了 ■ 学位 工学士 電気通信大学 1989/03/24 工学修士 電気通信大学 1991/03/22 博士(工学) 電気通信大学 1994/03/23 ■ 現在の専門分野 機械材料・材料力学 設計工学・機械機能要素・トライボロジー このコラムを読まれている方にとって学生時代はどのくらい前のことになるでしょうか? 高校で受けた授業科目の名称や「一期校/二期校」「共通一次試験」「大学入試センター試験」「AO 入試」など大学受験に関する言葉の何に馴染みがあるかが世代を決める一つの目安になるかもしれません。 これら制度の違いは高等教育の現場である大学に良くも悪くも大きな影響を与えます。 そして学生の様子も時代とともに変わってきています。 ここでは大学における技術教育の現状と筆者の研究室で開発を進めている教育支援システムについてお話させていただきます。 理工系の高等教育現場のいま 現在と 20~30 年前の大学が置かれている状況の違いを概観してみましょう。 まず初めにいえることは入学してくる学生の気質の変化です。 かつては少なくとも理工系であれば大半の学生は自分が何を勉強したいのか大筋ではっきりしていて、内容や程度の差こそあれ自分から(あるいは友人と協力して)行動して学ぶと考えて大きな間違いはありませんでした。 この前提が最近は必ずしも成り立ちません。「就職に困らなそうだから」「先生や親に勧められたから」などだけの理由で理工系に進学し、ものづくりの経験はおろか興味も強くない学生が工学部に在籍していることも不思議ではなくなっています。 また、合格最低レベルに達しさえすれば、それ以上のことを追求しようとはしない姿勢が垣間見えることもままあります。 もちろん以前と同じタイプの学生も一定数は存在していますが、良い意味でのオタクが減り、技術に対するこだわりや粘り強さが見られない学生が増えているように感じます。 このような背景によって、多くの大学でものづくりへの興味を喚起させたりエンジニアとしてのキャリアを考えさせるなどの以前には考えられなかった授業が開講されるようになっています。 一方で最近の大学は「単位の実質化」という面からの強い圧迫を受けています。 単位は学生に求める標準学習時間を表すパラメータともいえ、大学設置基準で 1 単位は授業時間と授業時間外の合計で 45 時間の学修が必要とされています [1] [1] 。 これを厳格に適用する動きが「単位の実質化」です。 本質的には正しい話なのですが標準の在学年数が 4 年であることに違いはないので、授業ごとの予習・復習時間を規定どおり求めるには履修するべき総単位数を従来より減らさなければ物理的な時間に矛盾が生じます。 また、授業回数を確保するために祝日であっても通常どおり授業を行ったり、土曜日に補講を行うこともめずらしくはなくなりました。 エンジニアになるためには様々な「知識の修得」と「技能の習得」が求められ、学ぶべき内容は技術の進歩に伴って確実に増えています。 しかし、前述したような状況では教育内容の出発点を考え直す必要もあり、専門科目を教えることに以前と同じだけの時間を割くことができません。 また、教育を実際に担えるスタッフの数は減る方向にしか動いていないため、教える側のマンパワーにも余裕がなくなっています。 能動的な学習のコンピュータによる支援筆者はコンピュータを上手に利用すれば授業を補う能動的な学習環境を構築し、前述の問題をある程度解消できるであろうと考えています。たとえば、機械設計に関する教育で必ず扱われるものの一つに機構学があります。機構学では機械の動きを幾何学的にモデル化しますが、機械に触れた経験が少ないと数式や図だけでは機構学で扱われる内容をイメージしづらい場合があるでしょう。ビデオなどで動きを見せることも考えられますが、それではどうしても受け身がちになってしまうことは否めません。そこで筆者の研究室では歯車や軸、モータなどの機械要素をコンピュータの画面上でブロックのように組み合わせて任意の機械のモデルを構築し、その動きをアニメーション表示するシステムの開発を進めています [2,3] [2,3] 。 システムの実行画面を図 1 に示します。 一般の 3 次元 CAD システムとは異なり、設計の本質にかかわるパラメータだけを入力するインタフェースにしています。 図 2 は独立したビータ(プロペラで代用)を 2 本もつ電動ハンドミキサの機構モデルを構築していった様子で、表示倍率や視点の方向を適宜変更しながら順次適当な機械要素をマウスのドラッグ・アンド・ドロップ操作によって配置し機構を構築します。 このとき、動力伝達方向の変換に平歯車対を用いようとしても歯車どうしが結合せず、平歯車対とかさ歯車対の違いが仮想体験を通して理解できるようにもなっています。 図 1 三次元機構構築シミュレーションシステム(a) ステップ 1 (b) ステップ 2 (c) ステップ 3 (d) ステップ 4 (e) ステップ 5 (f) ステップ 6 (g) ステップ 7 (h) ステップ 8 図 2 機構構築の様子 機械系エンジニアにとっては図面が正しく読み書きできる能力も必須です。立体を投影図で表現したり投影図から立体を想像できるようになるには、様々な形状の立体について自分の頭で考えて描いた投影図を指導者に見せ、適切な講評を受けて修正するという試行錯誤を繰り返すことが有効でしょう。 筆者の研究室では指導者が行う講評の一部をコンピュータで代替する製図学習支援システムの開発を進めています [4,5,6] [4,5,6] 。 手書きの投影図をイメージスキャナやスマートフォンでディジタル画像化したものを入力すると、システムはそこに表現されている情報にできる限り忠実にサーフェスモデルを生成して表示します。つまり、投影図に不備があれば誤りの内容を反映した不自然な立体が表示されるので、正解を見たり指導者の指摘を受けなくても、注意深く立体を観察することで投影図中の誤りの有無や箇所を調べられるというものです。たとえば、図 3(a) はかくれ線が一部欠落している投影図で正面図の赤丸で囲った部分に存在すべきかくれ線が描かれていません。 システムはこの投影図から図 3(b) の立体を生成して提示するので、ユーザは中央の直方体が内部のない状態になっていることから投影図の誤りに気が付き、さらに面が張られていない部分に注目し投影図のどの箇所に問題があるのかを考えて修正するという手順で学習を進められます。 (a) 入力した投影図 (b) 生成された立体 図 3 投影図の誤りを反映した立体の生成 おわりに理工系の大学教育が置かれている現状と、そこに生じている問題を解消することを目指して開発を進めている教育支援システムを紹介しました。 機械と身近に接する環境があり、指導者と学習者の双方に心と時間のゆとりがあれば、このようなシステムは無用のものといえるでしょう。 現代はエンジニアを育てるのに良い時代になったのか悪い時代になったのか、どちらだと思われますか? 次回は、筆者が学生時代から手掛けているアコースティック・エミッション(AE)法についてお話させていただきます。 【参考文献】 [1] 大学設置基準, 昭和31年10月22日文部省令第28号(最終改正:平成27年3月30日文部科学省令第13号). [2] 結城 宏信, 岩石 さやか, 石川 紗樹: “マウスによる要素配置と条件指定を導入した教育支援用機構構築シミュレーションシステムの開発”, 講演会 技術と社会の関連を巡って:過去から未来を訪ねる 講演論文集,No.15-53, pp.23-24, (2015). [3] 結城 宏信, 菊池 風太: “三次元機構構築シミュレーションシステムにおける機械要素配置機能の操作性の向上”, 日本機械学会2016年度年次大会講演論文集, No.16-1, S2020101, (2016). [4] 結城 宏信, 山崎 陽介: “手書き製図に対応した第三角法の学習支援システムの開発”, 日本機械学会2015年度年次大会講演論文集, No.15-1, S2020204, (2015). [5] 黒沢 晃平, 結城 宏信: “スマートフォンを用いた製図学習支援システムの開発(手書きした投影図からの立体生成)”, 講演会 技術と社会の関連を巡って:過去から未来を訪ねる 講演論文集, No.17-52, 134,(2017). [6] 黒沢 晃平, 結城 宏信: “二面図もしくは三面図で表した投影図と立体の関係を学ぶための製図教育支援システムの開発”, 日本機械学会2018年度年次大会講演論文集, No.18-1, J2010102, (2018). この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 情報理工学域 III類(理工系) 准教授 結城 宏信さんのその他の記事 2019/01/09 業界コラム ものが出す声に耳を傾ける 2018/11/06 業界コラム エンジニアを育てるために 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月