2019/01/09 業界コラム 結城 宏信 ものが出す声に耳を傾ける 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 情報理工学域 III類(理工系) 准教授 結城 宏信 ■ 経歴 電気通信大学 電気通信学部 助手...もっと見る ■ 経歴 電気通信大学 電気通信学部 助手 1994/04/01-1999/03/31 電気通信大学 電気通信学部 講師 1999/04/01-2003/03/31 電気通信大学 電気通信学部 助教授 2003/04/01-2007/03/31 電気通信大学 電気通信学部 准教授 2007/04/01-2010/03/31 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授 2010/04/01-現在 ■ 学歴 東京都立府中高等学校 普通科 1985/03/11 卒業 電気通信大学 電気通信学部 機械工学科 1989/03/24 卒業 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士前期 1991/03/22 修了 電気通信大学大学院 電気通信学研究科 機械制御工学専攻 博士後期 1994/03/23 修了 ■ 学位 工学士 電気通信大学 1989/03/24 工学修士 電気通信大学 1991/03/22 博士(工学) 電気通信大学 1994/03/23 ■ 現在の専門分野 機械材料・材料力学 設計工学・機械機能要素・トライボロジー ものを壊した経験が一度もないという人は恐らくいないでしょう。手が滑って皿を落としてしまったことはありませんか? 「あっ!」と思ったとほぼ同時に「ガチャーン!」という音がして皿が割れる光景は日常茶飯事とはいわないまでも珍しいことではないと思います。このようにものが壊れるときには音が出ます。皿が割れる音は人間の耳ではっきりと聞こえますが、材料中に小さなき裂が発生したり成長するときなどには人間には聞こえない周波数が非常に高い微弱な音が弾性波として材料内を伝播します。この弾性波を計測して様々な情報を得る技術が今回お話させていただくアコースティック・エミッション(AE)法です。 アコースティック・エミッション(AE)とは?図 1 アコースティック・エミッション固体に起こった何らかの急激な変化に伴って弾性波が発生する現象をアコースティック・エミッション(AE)といいます(図 1)。この弾性波(AE 波)は一般に超音波領域のものなので、対象に AE センサを取り付けて計測します。では、AE を計測すると何がわかるのでしょうか? AE の発生はものに何か変化が起こったことを意味しますので、AE 発生の有無をモニタリングすることで機械や構造物の状態を監視できます。よく知られている非破壊検査法の多くは対象がどのような状態にあるかを調べるものですが、AE 法は対象にどのようなことが起こっているかを知るために使えるのです。また、AE 波の波形を解析すれば原因となった事象の動的な情報が手に入ります。どの程度の頻度で、どの程度の規模の、どの程度の速さの変化が起こったかがわかります。複数のセンサを取り付けていれば、それぞれのセンサが AE を検知した時刻から AE が発生した場所を特定することもできます。AE 法はものが出す声に耳を傾け、その生きた情報を引き出す技術ともいえるでしょう。 日本の AE の研究や技術は世界の中でトップレベルに位置しています。一般社団法人日本非破壊検査協会では AE に関する国内会議と国際会議をそれぞれ隔年で開催しており、AE 法を手掛ける主立った研究者・技術者が勢ぞろいして AE の基礎から応用まで最新の成果報告と活発な議論を行っています。 昨年 11 月には 24 回目を数える国際会議(24th International Acoustic Emission Symposium,IAES-24)が北海道の札幌市教育文化会館で開かれました。ともすると日本で開かれる国際会議は参加者のほとんどが日本人だったりしますが、この会議には毎回海外からも多くの参加者が集まります。また、参加者の専門分野が機械系、土木系、材料系、電気系と多岐にわたっていることも他ではあまり見られない AE の会議の特徴です。今回の国際会議も 100 名近くの参加者の 3 割強が海外からで、表 1 に示すセッションが三日間にわたり繰り広げられました。各種材料における AE の特性、様々な機械やインフラ設備の健全性評価、新しいセンサや装置、AI を活用した信号処理など時代の最先端をゆく興味深い発表が詰まっていました。 表 1 第 24 回国際アコースティック・エミッション・シンポジウムのセッション 第一日目 第二日目 第三日目 Concrete I Sensor Concrete II Structures & Diagnostics Composite I Metal I Composite II Structures Masonry Diagnostics (Civil Engineering) Cements Manufacturing Ceramics, Composite & Rope Diagnostics (Mechanical Engineering) Diagnostics (Miscellaneous I) Diagnostics (Miscellaneous II) Signal Processing Metal II こんなものにも AE、こんなところでも AE手書き製図の濃淡評価大学の授業で手書き製図を行わせるとき最近はシャープペンシルを使いますが、図面中の線の濃淡について教員と学生のあいだで主観的な議論が起こりがちです。シャープペンシルで線を描くとは芯を摩耗させ紙に転写することですから、線の濃淡は磨耗すなわち破壊の大小に起因した結果といえます。破壊の大小の評価となれば AE 法の出番です。筆者の研究室では AE に注目した線の濃淡評価を試みています [1,2] [1,2] 。 図 2 は濃さが異なる線を描いたときに発生する AE を計測した例で、線の濃さによって振幅の大きさなどに違いがあることがわかります。この波形から抽出したパラメータを用いて濃淡の良否を定量的に評価するシステムの実現を目指しています。 (a) 濃い線 (b) 薄い線 (c) 濃淡のある線 図 2 シャープペンシルで線を描いたときの AE 信号 光ファイバ AE センサAE センサは圧電セラミックスを検出素子にしたものが広く用いられていますが、引火の危険性がある環境や水中で使うには特殊な工夫が必要です。光ファイバセンサはそのような環境での AE 計測に有効なものと期待されています。図 3 はマッハ・ツェンダ干渉計型と呼ばれるセンサの構成で、測定物理量に追従して伸縮するセンシングファイバと静止状態にあるリファレンスファイバの中を伝わる二つの光を干渉させることで微小な変化を検出します。筆者の研究室では円柱形状のセンシングブロックの側面にセンシングファイバを接着し、リファレンスファイバを緩衝材を介してセンシングブロックに固定した図 4 (a) に示すようなセンサを試作しました [3] [ 3] 。センシングブロックの底面で捉えた AE 波がセンシングブロックを伝わりセンシングファイバを伸縮させます。一方、緩衝材の存在によってリファレンスファイバへの AE 波の到達は遅れるため、検出波形の最初の部分に注目するのであればリファレンスファイバは静止状態とみなせ、マッハ・ツェンダ干渉計型センサが実現できます。また、二重円筒構造を用意して円筒からU字状にセンシングファイバを引き出し、内部の円筒にリファレンスファイバを巻き付けた図 4 (b) に示すような水中計測用のセンサも提案しています [4] [4] 。 図 3 マッハ・ツェンダ干渉計型光ファイバセンサ(a) 一般計測用 (b) 水中計測用 図 4 マッハ・ツェンダ干渉計型光ファイバ AE センサ 図 5 はファブリ・ペロー干渉計型と呼ばれるセンサの構成で、ハーフミラーで反射した光とハーフミラーを透過しフルミラーで反射した光を干渉させるためリファレンスファイバが必要ありません。筆者の研究室では特定の波長の光だけを反射するファイバ・ブラッグ・グレーティング(FBG)を使ったファブリ・ペロー干渉計型光ファイバ AE センサの開発を進めています [5,6] [5 , 6] 。図 6 のように光ファイバの先端に反射率が異なる FBG を二つ並べてそれぞれハーフミラーとフルミラーとして機能させたもの(FP-FBG ファイバ)を二つの半円柱形ブロックで挟むことで、図 7 に示すようなセンサが作製できます。このセンサは図 4 (a) のものに比べて取り扱い性に優れていることがおわかりいただけると思います。 図 5 ファブリ・ペロー干渉計型光ファイバセンサ図 6 FP-FBG ファイバ 図 7 FP-FBG AE センサ おわりにAE の概要と筆者が手掛けている研究を幾つかご紹介しました。AE 法は計測機器やパラメータの選び方を間違えると意味のある情報が何も得られないため、残念なことに敷居を高く感じたり使えない手法だと誤解される方が時々おられます。しかし、正しい理解のもとに使用すればそれほど難しいものではなく、他の方法には代えられない力を発揮します。ものが出す声に耳を傾けることによって拓かれる世界へ足を踏み入れてみませんか? 【参考文献】 [1] Hironobu Yuki and Yuki Honjo: “Evaluation of the Tone of Lines in Manual Drafting with a Pencil by Acoustic Emission Measurement”, Proceedings of the International Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics 2015, p.92, (2015). [2] 結城 宏信, 川嶋 勇輝: “手書き製図で描かれる線の濃淡の AE 信号による定量的評価”, 日本機械学会2017 年度年次大会講演論文集, No.17-1, S2020105, (2017). [3] 結城 宏信, 甲斐 崇: “可搬性を考慮したマッハ・ツェンダ干渉計型光ファイバ AE センサの構造と特性評価”, 非破壊検査, Vol.61, No.9, pp.488–494, (2012). [4] 木村 大樹, 結城 宏信: “水中用干渉計型光ファイバ AE センサの周波数特性評価”, 日本機械学会M&M2012 材料力学カンファレンス CD-ROM 論文集, No.12-5, OS2006, (2012). [5] 結城 宏信, 多田 和希: “FBG で構築したファブリ・ペロー干渉計の光ファイバ AE センサへの適用” 第 21 回アコースティック・エミッション総合コンファレンス論文集, pp.109–112, (2017). [6] Hironobu Yuki and Yushi Tsukamoto: “Sensing Stability of the Fabry-Perot Interferometer Type Optical Fiber AE Sensor with Fiber Bragg Gratings”, Progress in Acoustic Emission XIX, Proceedings of the 24th International Acoustic Emission Symposium, pp.29–32, (2018). この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 情報理工学域 III類(理工系) 准教授 結城 宏信さんのその他の記事 2019/01/09 業界コラム ものが出す声に耳を傾ける 2018/11/06 業界コラム エンジニアを育てるために 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月