2022/06/14 業界コラム 濱﨑 利彦 Mixed SignalとDX ( 1 ) 広島工業大学 情報学部 教授 濱﨑 利彦 1984年 東芝総合研究所VLSI研究所を経て、 1991年...もっと見る 1984年 東芝総合研究所VLSI研究所を経て、 1991年より2001年Burr Brown Inc. (本社アリゾナ州)及び2001年より2010年Texas Instruments Inc.(本社テキサス州)の日本法人において、開発本部長、テクノロジーセンター長を歴任。 2004年にTexas Instruments Fellow Award受章。 2010年より鶴学園 広島工業大学情報学部教授、IoT技術研究センター長(2018年設置)としてグローバルな視点から「地元ものづくり」を担うエンジニアの教育と指導に取り組む。 博士(工学)、メイドイン広島IoT協議会顧問、 IEEEシニア会員、電子情報通信学会シニア会員、Audio Engineering Society会員 ミックスドシグナルという言葉をご存じだろうか。ミックスという語感からは一般の方々からは半導体は想像しにくい。何を混載(Mix)させるかというとアナログ信号回路とデジタル信号回路である。従って、この言葉を知っている方はよほど半導体集積回路設計に通じているか、またご自身がそのデザイナー(設計者)であったと推察する。 試みにWikipedia, Mixed Signalで検索すると教科書的に説明があり、参考文献は2001年当時のものである。しかもWikipediaにはこの日本語訳版はない。ということは国内ではほぼ死語で若い方はほとんどご存知ないと思える。筆者自身かつて米国半導体メーカに転職してその後Mixed Signal Designerを自認していたが、1991年の転職直後にはこの言葉はなかった。 この言葉が注目されるようになったのは、それから数年後RF-CMOSが本格化の兆しを見せ始めた頃だ。その頃同時に登場したマルチメディアという言葉がCD-ROMを使ったゲームソフトでPCの応用性が拡がった時期と重なる。CCD画像センサを搭載したデジタルカメラの普及はこの後である。この1990年代、私の主要ビジネスカスタマーであった日本のデジタル情報家電機器の牽引力は圧倒的であり、一方PCではWintel(WindowsとIntel)のひとり勝ちで、あのAppleの屋台骨も崩れかけるところまで追い詰められる状況であった。 しかしこの1990年代の日本は後に「失われた10年」と言われるようになる。DVD、タブレット端末はいち早く市場投入され、技術に限って言えば商品は超先端、製品力も抜群なのに何が失われたのか。 その間、Mixed Signal Designerとしての私自身は米国と日本の間を行き来し、同時に台湾のファンドリー、アセンブリメーカなど数社とビジネスを展開させた。そこで、理解したことは「集積回路の設計は生産技術である」ということ、さらに言うと「性能設計は当たり前、そうでなければDesign-Inすらあり得ない、従ってものづくりの設計の最大使命は生産コストを下げること」。 集積回路の設計は必ず歩留まり計算をする。特に数値性能はすべてトランジスタ性能、容量、抵抗といったコンポーネントの物性バラツキに基づくその回路設計によって決まる。そこではレイアウトも考慮した生産現場からのデータ統計解析は当然のこと、その分散に基づく信号処理アルゴリズムの新規考案までが設計の課題となり、如何にマテリアルコストを下げるかのみではなく、さらにテストも含めてすべて設計要素となる。設計/デザイン力はまさに生産性の向上に他ならない。2000年代に入ってさらに製品の物量が拡大するに従って、この考え方は確信になった。Mixed Signal Designerでなければ、おそらく自身でこの概念にはたどりつけなかったと思う。 1990年代初頭バブル経済の崩壊によって経済的に「失われた10年」が、2000年代初頭の「勘違いIT」バブルがもたらした時代遅れのデジタル化によって「失われた20年」になったとの話もあるが、テクノロジー進化論のみに帰着してはミスリーディングである。デジタルトランスフォーメーション(DX: Digital Transformation)と言う言葉は2004年にはすでにあった注*)。 そこで強調されていることはデジタル技術の拡散は広くかつ急速であり、社会現象の中でその変化を正しく理解していかなくてはならないということである。アナログに特化したグローバルNo.1と言われる私の前職の半導体メーカを引き合いに出すまでもなく、真のデジタル化とはリアル直視と徹底したデータの読み込みと分析である。アナログ(現実世界)を知らなければ適切なデジタル化(クラウド世界)はできない。それには情報そのもののダイナミックレンジを正確にセンシングしデジタル化する力であり、このことはMixed Signal Designerの意識と重なる。 注*)エリック ストルターマン(スウェーデン、ウメオ大学)が発表した論文 “INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE” この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 広島工業大学 情報学部 教授 濱﨑 利彦さんのその他の記事 2022/08/09 業界コラム Mixed SignalとDX ( 2 ) 2022/06/14 業界コラム Mixed SignalとDX ( 1 ) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月