金沢大学工学部 理工研究域 機械工学系 教授

米山 猛

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コラム執筆の依頼を受けました金沢大学の米山と申します。今回から3回,私の取り組んできた研究や活動について紹介させていただきます。第1回は、ものづくりに関わる研究や活動についてです。私は現在今年6月7日~9日に開催される塑性加工春季講演会の実行委員長をやらせていただいており、またこの3月まで型技術協会の理事をやらせていただいております。

日本は優れたものづくりで高度成長ならびにその後の経済発展を成し遂げてきましたが、昨今は、生産の拠点が海外へシフトし、企業がグローバル化するとともに、ものづくりもグローバル化しております。私がよくお世話になっている射出成形の金型メーカーも、まったくの中小企業ですが、タイやベトナムでの生産立ち上げに出かけるようになりました。グローバルな視点でものづくりを考えなければならない時代に来ているようで、世の中の変化に疎い私どもも、そのような時代の流れを念頭におきながら、研究や教育を考えていかなければならないと思います。

塑性加工と摩擦センサ

私の主な専門は塑性加工の分野です。塑性加工とは、主に金属材料をたたいたり、伸ばしたりして変形させていろいろな形を作る加工で、プレス加工とか、鍛造とか、圧延など、一般に非常によく使われている加工法です。東京大学の畑村洋太郎先生の研究室で博士課程在籍中から始めさせていただいたのが、加工する工具表面にはたらく圧力と摩擦を検出するセンサの研究です。もう研究を始めてから30年も経つのに、なかなか進んでおりませんが、最初は簡単な金属の圧縮(要するに金属をつぶす加工)における接触面の圧力・摩擦測定から始まり、圧延(ロールの間に板をはさんで板を引き伸ばす加工)における測定、押出し(アルミ二ウムのビームなどをところてんのように押し出す加工)における測定へと進み、現在は熱間鍛造(刀を熱いうちに叩くのと同じ)における測定ができるセンサの開発をめざしています。

新しい加工法にしろ、既存の加工法にしろ、材料を金型などの工具で接触させて変形させるのが、塑性加工の基本なので、材料と工具との接触面での圧力や摩擦を検出するセンサの開発は、現象を把握する上で基本的に重要なものだと考えております。このようなセンサを主体にした研究のおかげで、新川電機(株)様とのお付き合いにもいたりました。私の「摩擦センサ」の基本構造を図1に示します。ちょっといかがわしいところもあるかも知れませんが、接触面に摩擦力がはたらくと、その部分の工具表面のたわみに応じて2本のビームの下の薄板が変形するので、その表面のひずみを検出するものです。

図1.摩擦センサの検出原理

革新的な金型製造法

その後、力を入れているのが、金属光造形複合加工法を活用した射出成形金型の高機能化です。金属光造形複合加工法はパナソニック電工(現在はパナソニック)(株)の生産技術研究所の方々が開発された方法で、松浦機械製作所から販売されています。金属の粉を平面に敷き、レーザを照射すると、レーザを当てたところだけが溶けて固まります。その上にさらに金属の粉の層を敷いて、またレーザを当てて固めます。これを繰り返して立体を作ります。ある一定の厚みを造形したところで、その輪郭を切削工具で切削することで、輪郭をきれいに仕上げていきます。こうして表面の仕上がりのよい立体を造形する方法です。

この方法を使って射出成形の金型をつくります。射出成形というのは、プラスチックを溶かして金型にぎゅっと押し込んで固める方法です。世の中のプラスチック製品はほとんどが射出成形で作られます。金型に流しこんだ樹脂を冷却して硬くなったところで、金型を開いて、成形品をとりだします。しかし、樹脂は熱伝導が悪いので、冷却するのに時間がかかります。したがって、金型をいかに効率的に冷却して樹脂の冷却を速く進めるかが大切になります。金属光造形法で金型を作っていくと立体造形の過程で、金型の形状に合わせて、曲がった冷却水路(水を流して冷却する穴)を作り込んだりすることができます。虫が木の中を掘り進んでいったような穴を鉄の中に作り込むことができるのです。そのような冷却水路によって冷却の促進や冷却の均一化を図ることができます。その他にもいろいろな効果を期待することができ、それらの効果を実証する実験を進めています。金属光造形法で製作した金型の断面の例を図2に示します。金型の中に,らせん状の穴があいています。

図2.金属光造形で作成したらせん状水路

量産化へのチャレンジ

最近力を入れているのが、熱可塑性樹脂を含浸させた炭素繊維(CFRP)のプレス成形です。CFRPはボーイング787に見られるように、航空機などの軽量化に本格的に導入されてきましたが、自動車などの量産品に適用するためには、生産時間の短縮が必要です。これまでは、加熱させて固める熱硬化性樹脂を使っていましたが、硬化時間が1時間ぐらいかかるので、この硬化時間を短縮する研究が進んでいて、最近は、硬化時間が5分ぐらいのものが開発されていますが、実際には1分ぐらいで成形できないかというのが、現在の要望です。

そこで、熱硬化性樹脂ではなく、温めれば溶け、冷やせば固まる熱可塑性樹脂でCFRPを作る研究が始められています。あらかじめ熱可塑性樹脂を含浸させたCFRPシートを作成しておいて、これを加熱して、プレス成形するのであれば、これまでの金属板をプレス成形する方法と同じような方法で生産することができると考えられます。炭素繊維を織った布に熱可塑性樹脂を染み込ませた板をつくり、これを加熱してプレス成形してカップを作った例を図3に示します。
これらの研究は多くの企業の方々との協力のもとに行っており、世界の最先端をいく日本のものづくりを維持するために、大学と企業との共同研究は大事であると考えております。

図3.熱可塑性CFRPをプレス成形した成形品

次回は、人間・機械に関わる分野のお話をしたいと思います。