金沢大学工学部 理工研究域 機械工学系 教授

米山 猛

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金沢大学の米山です。第3回目の今回は、機械設計や技術についての教育についてお話します。

私の東京大学の恩師である畑村洋太郎先生は、企業における経験も活かして、「実際の設計」と称して、設計のやり方や具体的に使う知識について研究室内で講習されていました。その後、研究室の卒業生も集まって、「実際の設計」を本にしようという話が進み、「実際の設計」シリーズの出版が始まりました。私も当初から現在まで、この活動に参加しています。この活動で面白いのは、最初は寸法公差や、材料、加工法などの具体的な事柄について、その考え方や実際に使う知識をまとめるという作業だったのですが、失敗体験をどうまとめ、伝えるか、設計においてどのように選択・決定を行ったか、設計の企画をどうやるか、設計の経験をどう伝えるか、設計の成功の視点というように、しだいに議論の内容が上位過程の方へ上がっていったことです。それによって、機械の設計だけでなく、すべての設計や企画に共通する考え方ややり方が浮き彫りになってきて、幅が広がりました。このシリーズでは、最近、富士通(株)の藤田和彦氏が、「設計者に必要なソフトウェアの基礎知識」という本を出して、ソフトウェアの設計のやり方も機械設計のやり方も考えの流れが共通であることを示しています。

創造デザイン実習『卓球マシン?!』

私は設計の考え方や知識を大学での教育にも活かそうと思い、「機械設計の基礎知識」(日刊工業新聞社)という入門書を執筆するとともに、それまで図面の作成のみで終わっていた設計教育を、実際に機械加工して製作し、実演するところまで実践する実習へと改めました。その「創造デザイン実習」で学生たちが、自分たちで設計・加工したものを組み立てている写真を図1に示します。この実習に変更してから、学生がとても豊かな発想力をもち、やる気を出していくことを実感しました。また講義の中でも出来るだけ、手作りしてみることが面白いと思い、「機械要素」の講義の中では、インボリュート歯車について理解するための歯車模型を手作りで作るレポート課題を与えています。学生が作った一例を図2に示します。

図1.「創造デザイン実習」で学生が「卓球マシン」を組み立ているところ
図2. 学生が製作したインボリュート歯車模型の例

図3. 講義「技術発展史」で紹介しているベンツの世界初のガソリン自動車(ドイツ博物館)と私が書いた解説図

教育の目指すところ

さらに少し広く、技術を社会的にどう捉えるかということを考えることも大切だと思っています。基本的な考え方は、「技術は人類が築いてきた社会的な財産である」ということです。したがって、技術をメーカーからも、ユーザからも、技術者からも、法律や経済の関係者からも、政策関係者からも、いろいろな立場から、意見を出し合って、育てていくためのやり取りが必要だと思います。このような考えを拙著「デザインテクノロジー」(培風館)の中でも述べました。今回大きな事故を引き起こした原子力発電技術については、このようなやり取りが不足していたと思います。医療技術にしても、インターネットにしてもエネルギー技術についても、技術がますます社会的に重要な役割を果たす中で、技術についての理解を社会が共有し、議論できる世の中を作っていくことが大事だと思っています。