前回からコラムを執筆させていただいている金沢大学の米山です。第2回は、人間・機械に関わる分野のお話をさせていただきます。1996年に私どもの大学で、機械系の学科を二つに改組したのですが、そのうちの一つの学科名を、人間・機械工学科としました。現在はまた大学の大きな再編(理学部と工学部の統合)の中で、機械系は統合し、人間機械コースになりましたが、この「人間」をつけたことで、従来の「機械」という枠だけでなく、医療や福祉、スポーツ工学、さらには人間自身の「強度」や「動き」を対象とする研究に広がりました。
たまたま1993年から、スキー部の学生だった高橋昌也氏が「スキーロボットを作りたい」と希望したことから、スキーロボットの研究が始まりました。実際に自律滑走するロボットまでは、実現していないのですが、スキーをするロボットは一般の方には大変興味を引くようで、BBSの方が取材に来たり、サイエンスや他の雑誌に掲載されたりしました(図1)。スキーロボットの3号機には、新川電機様が扱っていたEYEBOTを使わせていただきました。
スキーロボット、ニセコで滑走

しかし、スキーロボットを見せても、実際のスキーのインストラクタの方やスキーの選手の方からは、もっと実際に人間がどういう動作をしたらよいのかを示してほしいと要望されましたので、今度はスキー動作の測定を始めました。ターンをするときの足の動作やブーツにかかる荷重の測定などを行いました。新川電機様が扱っているシェイプテープを利用して、元オリンピック選手の平沢岳様のスキーターン動作の測定をさせてもらいました。
そうこうするうちに、スキーメーカーの(株)小賀坂スキー製作所様との共同研究が始まり、ブーツ内の足圧分布の測定やビンディングにおける荷重、滑走中のスキー板のたわみ、スキー滑走面と雪面との間の接触圧力の測定などを行いました。ちょうどスキー板のたわみの測定に力を入れているときに、NHKの「アインシュタインの眼」でニセコのパウダースノーで滑るときのスキーのたわみを測定してみようという話が起こり、ニセコで測定をさせてもらいました。パウダースノーの上では、とてもスキーがよくたわみ、驚きました(図2)。

脳腫瘍摘出手術マニュピレータの開発
現在力を入れているのは、手術マニピュレータの開発です。たまたまマイクロ加工の研究をしていたときに、ただ加工するだけでは面白くないので、マイクロなものを作ってみようと思って、マイクロハンドを作ったのですが、それを脳腫瘍摘出手術のマニピュレータに適用してみようと考えたのがきっかけです。内視鏡の直径3mmの穴の中に挿入して、マニピュレータの先を屈曲させることができて、さらに腫瘍を摘出する際のつまむ力や引き抜く力を検出して、術者の操作レバーにその把持力や引張力(摩擦力)をフィードバックするシステムをめざしています(図3)。

直径3mmのパイプの中にもう一本のパイプを入れ、ワイヤで外パイプを屈曲させ、その中で内パイプを回転させたり、前後移動させなければならないので、その機構をどのように作るか、苦闘しております。またグリップのところにひずみゲージを貼って、把持力と引張力を検出するようにしていますが、これもサイズが小さいので、苦闘しています。実用化までにはまだまだ遠いですが、脳神経外科の先生方の御意見を伺いながら、進めています。
このマニピュレータとともに、脳腫瘍を共焦点顕微鏡で観察する研究も進めています。脳腫瘍を摘出するときに、5-ALA(アミノレブリン酸)というものを飲んでいただくと、代謝反応によって、腫瘍が蛍光を示すことがこの10年位前に発見され、現在この蛍光を見て、腫瘍を判断しながら摘出することが行われています。現在は、手術顕微鏡で見るのですが、倍率が低いため、詳細な判別まではされておりません。共焦点顕微鏡を用いると細胞レベルで蛍光の状況がわかるので、詳細な判別ができるのではないかと考えて始めたものです。手術顕微鏡で、低倍率で見ると(青色の光を照らすと)、腫瘍部は赤く光るのですが、共焦点顕微鏡で高い倍率(この画像の横幅が0.16mm)で見ると図4のように、もやもやと発光しています。実際の手術中で、このような詳細な観察ができないか、研究を進めたいと思っています。

医療技術、特に手術ロボットの分野では、まだまだ日本は遅れていて、これから日本の優れた技術力を活かせる分野だと思っています。
次回は教育に関わるお話をしたいと思います。
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