2012/05/12 業界コラム 米山 猛 日本のものづくりと創造デザイン No.2 アインシュタインが一目置いた! 金沢大学工学部 理工研究域 機械工学系 教授 米山 猛 ...もっと見る 前回からコラムを執筆させていただいている金沢大学の米山です。第2回は、人間・機械に関わる分野のお話をさせていただきます。1996年に私どもの大学で、機械系の学科を二つに改組したのですが、そのうちの一つの学科名を、人間・機械工学科としました。現在はまた大学の大きな再編(理学部と工学部の統合)の中で、機械系は統合し、人間機械コースになりましたが、この「人間」をつけたことで、従来の「機械」という枠だけでなく、医療や福祉、スポーツ工学、さらには人間自身の「強度」や「動き」を対象とする研究に広がりました。 たまたま1993年から、スキー部の学生だった高橋昌也氏が「スキーロボットを作りたい」と希望したことから、スキーロボットの研究が始まりました。実際に自律滑走するロボットまでは、実現していないのですが、スキーをするロボットは一般の方には大変興味を引くようで、BBSの方が取材に来たり、サイエンスや他の雑誌に掲載されたりしました(図1)。スキーロボットの3号機には、新川電機様が扱っていたEYEBOTを使わせていただきました。 スキーロボット、ニセコで滑走図1. 雑誌に掲載されたスキーロボットしかし、スキーロボットを見せても、実際のスキーのインストラクタの方やスキーの選手の方からは、もっと実際に人間がどういう動作をしたらよいのかを示してほしいと要望されましたので、今度はスキー動作の測定を始めました。ターンをするときの足の動作やブーツにかかる荷重の測定などを行いました。新川電機様が扱っているシェイプテープを利用して、元オリンピック選手の平沢岳様のスキーターン動作の測定をさせてもらいました。 そうこうするうちに、スキーメーカーの(株)小賀坂スキー製作所様との共同研究が始まり、ブーツ内の足圧分布の測定やビンディングにおける荷重、滑走中のスキー板のたわみ、スキー滑走面と雪面との間の接触圧力の測定などを行いました。ちょうどスキー板のたわみの測定に力を入れているときに、NHKの「アインシュタインの眼」でニセコのパウダースノーで滑るときのスキーのたわみを測定してみようという話が起こり、ニセコで測定をさせてもらいました。パウダースノーの上では、とてもスキーがよくたわみ、驚きました(図2)。 図2. 学生が製作したインボリュート歯車模型の例脳腫瘍摘出手術マニュピレータの開発現在力を入れているのは、手術マニピュレータの開発です。たまたまマイクロ加工の研究をしていたときに、ただ加工するだけでは面白くないので、マイクロなものを作ってみようと思って、マイクロハンドを作ったのですが、それを脳腫瘍摘出手術のマニピュレータに適用してみようと考えたのがきっかけです。内視鏡の直径3mmの穴の中に挿入して、マニピュレータの先を屈曲させることができて、さらに腫瘍を摘出する際のつまむ力や引き抜く力を検出して、術者の操作レバーにその把持力や引張力(摩擦力)をフィードバックするシステムをめざしています(図3)。 図3. 脳腫瘍摘出への適用を目指した直径3mmの屈曲・回転マニピュレータ 直径3mmのパイプの中にもう一本のパイプを入れ、ワイヤで外パイプを屈曲させ、その中で内パイプを回転させたり、前後移動させなければならないので、その機構をどのように作るか、苦闘しております。またグリップのところにひずみゲージを貼って、把持力と引張力を検出するようにしていますが、これもサイズが小さいので、苦闘しています。実用化までにはまだまだ遠いですが、脳神経外科の先生方の御意見を伺いながら、進めています。 このマニピュレータとともに、脳腫瘍を共焦点顕微鏡で観察する研究も進めています。脳腫瘍を摘出するときに、5-ALA(アミノレブリン酸)というものを飲んでいただくと、代謝反応によって、腫瘍が蛍光を示すことがこの10年位前に発見され、現在この蛍光を見て、腫瘍を判断しながら摘出することが行われています。現在は、手術顕微鏡で見るのですが、倍率が低いため、詳細な判別まではされておりません。共焦点顕微鏡を用いると細胞レベルで蛍光の状況がわかるので、詳細な判別ができるのではないかと考えて始めたものです。手術顕微鏡で、低倍率で見ると(青色の光を照らすと)、腫瘍部は赤く光るのですが、共焦点顕微鏡で高い倍率(この画像の横幅が0.16mm)で見ると図4のように、もやもやと発光しています。実際の手術中で、このような詳細な観察ができないか、研究を進めたいと思っています。 図4. 共焦点顕微鏡でみた脳腫瘍の蛍光画像(横幅0.16mm) 医療技術、特に手術ロボットの分野では、まだまだ日本は遅れていて、これから日本の優れた技術力を活かせる分野だと思っています。 次回は教育に関わるお話をしたいと思います。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 金沢大学工学部 理工研究域 機械工学系 教授 米山 猛さんのその他の記事 2012/06/12 業界コラム 日本のものづくりと創造デザイン No.3 世界初のガソリン自動車と教育 2012/05/12 業界コラム 日本のものづくりと創造デザイン No.2 アインシュタインが一目置いた! 2012/04/10 業界コラム 日本のものづくりと創造デザイン No.1 オリジナル & ハイレベル 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月