2012年7月号のコラム“大学院生の学会発表”において、当研究室の大学院1年生を例に挙げながらプレゼンテーションの難しさについて指摘した。また、その中で図解の重要性、誰にでも一目瞭然な図を作成することはかなり難しい、ことを述べた。今月号では、「物理現象の図解のすすめ」と題して、私が講義で注力している事柄に触れたいと思う。
回路図
電気電子工学科1年生を対象とした“電気電子ゼミナール”は、“ゆとり教育”世代に対応したカリキュラムであり、専門科目への導入的な講義である。
各週を異なる教員が担当しており、私の担当する「レポートにおける図表の作成方法」の中で、「直流電源(電圧 E )に抵抗 R を接続して、E を可変させながら、R に印加される電圧 V と R に流れる電流 I を測定した。回路図を描いてみよう。さらに、表1に示した電圧と電流の実測値に基づいて電流-電圧特性をグラフに描こう。」という課題を“図解の入門編”として出題している。

図1は測定回路の回答例であり、抵抗などの各部品(装置)を描ける学生は40%程度である。しかし、可変直流電源や電流 I および電圧 V を描ける学生は皆無である。「測定回路の中に電流 I と電圧 V およびこれらの方向を矢印で示す事が重要である。なぜならば、電流-電圧特性の縦軸と横軸の I および V と回路図とを対応させて、見る人が分かりやすいようにする必要がある」と強調している。
Maxwellの方程式
電気電子工学科の基幹科目に電気磁気学があり、その中でもMaxwellの方程式は難解で、理解を深めるためには図解が一助となる。4つの方程式からなるMaxwellの方程式のうち、その2つを図解すると図2のようになる。図2(a)は、電流密度Jと磁界の強さHとの関係を示しており、Jの右ねじの方向にHが発生する。また図(b)は、磁束密度Bが時間的に変化すると左ねじの方向に電界の強さEが生ずることを意味している。なお、時間的変化を実線と破線とで表してある。

表皮効果
表皮効果とは、高周波電流が導体を流れると電流密度が導体の表面に近いほど大きく、表面から離れるに従って小さくなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表面に集中するので、導体の交流抵抗は大きくなる。この表皮効果は、Maxwellの方程式に基づいて導出される微分方程式によって解が得られる。しかし、「2.Maxwellの方程式」を用いて図3に示したように物理現象を図解できて、より深く、かつ、直観的な理解ができる。その概要は以下のとおりである。

半径 a m の無限に長い導線(領域1:導電率σ、透磁率μ)が空気中(領域2:σ = 0 S/m、μ = μ0 H/m)に置かれている。まず、導線に直流の電界の強さ E’ を印加すると J = σ E の関係から J が一様に生ずる。次に、周波数 f の正弦波の E’ を印加するとMaxwellの方程式に基づいて、J→H の発生→E の発生、となる。E の r(径)方向成分は打ち消しあうので、E と J の両者ともに z(軸)方向成分だけとなる。導線の表面に近い程、H が大きくなるので E も表面に近いほど大きくなる。導体内部の電界の強さは E’ + E であり、中心では小さく、表面に近いほど大きくなる。したがって、導線の中心では J が小さく表面に近いほど大きくなる、表皮効果が生ずる。
図4は、表皮効果によって生ずる電流密度分布の偏りである。直流(DC)電流を流した場合には、平坦な Ez と Jz 分布となる。しかし、交流電流(AC)を流した場合には導線の表面に近いほど Ez と Jz の両者ともに大きくなり、周波数が高くなるほど表皮効果は顕著となる。

本コラムでは、電気電子工学を例にとって図解の一例を説明した。図解は、直観的な解釈によって理解が一層深まるばかりでなく、問題・課題が生じた際の解決策の探索にも役立つと考えている。
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