2017/12/05 業界コラム 竹内 三保子 ライター こぼれ話 No.2 『水道局が嘆く井戸水人気』 株式会社カデナクリエイト 代表取締役社長 竹内 三保子 東京生まれ。1983年 明治学院大学経済学部卒業。同年、西武...もっと見る 東京生まれ。1983年 明治学院大学経済学部卒業。同年、西武百貨店入社。紳士服飾部、コンセプトショップ担当、特別顧客チームなどを経て経済評論家の竹内宏に師事。百貨店で学んだ顧客視点をベースに、主に「中小企業」「地域再生」「働く女性」などに関する記事を執筆。その後、編集プロダクション、株式会社カデナクリエイトを設立。 現在は高齢者ビジネスに対する関心が深まり、『介護経営白書』(日本医療企画)等に執筆。共著に『課長・部長のための労務管理問題解決の基本』『図解&事例で学ぶイノベーションの教科書』などがある。 東洋経済オンラインに連載中。 子供の頃、アパートや家の庭に井戸があるという友達が数人いました。水をくみ上げる手押しポンプを押すのが面白く、井戸は子供たちの格好の遊び場になっていましたが、いずれも飲料水として使われている様子はありませんでした。水道があるから、井戸はすでに不要になっていたのでしょう。 このように「水道が普及した地域では、井戸水を使わなくなる。未だに井戸水を使っているのは工業用か、おいしい地下水が自慢という一握りの田舎だけ」……。長い間、そう信じ込んでいましたが、それは大勘違でした。 もしかしたら、私のように勘違いをしている人がいるかもしれないと思い、今回は、『井戸水』を利用した『専用水道人気』をテーマに選びました。 人工透析に使用する水は一回 120 リットル!井戸水を調べるきっかけになったのは医療関連の雑誌でした。当時、その雑誌で、「医療用のユニフォーム」「病院の福利厚生」「医療用の IT」「検査代行」といった医療関連の業界レポートを担当していました。このコーナーで、次は『医療用の水』業界を取り上げようということになったのです。手術の前の手洗い、器具の洗浄、薬剤の調整、人工透析など、医療の現場で使われる様々な「水」をつくっている企業を訊ねる予定でした。 もっとも、医療用関連の水をどんな企業が作っているのかなど知りません。まずは「浄水器」「フィルター」「純水」など水に関係ありそうな言葉と手術や医療器具などを組み合わせて検索しながらヒントを探します。 こうした作業で、「人工透析」に使われる透析用水が数多くひっかかってきました。中でも気になったのは、一回の透析で使われる水の量。なんと 120 リットルにも及ぶそうです。ある総合病院では、1 日に 70 トンもの水を使うと話していました。 仮に地震などの災害で水道が止まったら、どう水を確保するのでしょうか。それとも患者を、水が出る病院に移動させるのでしょうか。災害の観点から透析水について触れている資料もありました。 考えてみれば、水が出なければ手を洗うこともできません。透析に限らず、あらゆる医療行為に水は不可欠。兵庫県が阪神淡路大震災後に医療関係者に実施したアンケートによれば、診療機能を低下させた 1 番の原因は『水道の供給不足』という結果が出たそうです。 東日本大震災の半年後、厚労省は「災害医療等のあり方に関する検討会」の報告書を発表し、その中で「災害拠点病院の水の確保についての考え方」を示しました。 「災害時でも診療を継続するための適切な貯水槽の確保」「優先的な給水協定の締結」、そして「井戸水人気」に結び付く「停電時にも使える井戸設備の整備」が紹介されていたのです。仮に水道の供給が止まったら、井戸水に切り替えて、診療を続けるというわけです。 この報告書は、井戸水を利用した専用水道を設ける医療施設が増加するひとつのきっかけになったそうです。 コストが安い専用水道専用水道には、実は、コストが安いというメリットがあります。病院に限らず、ホテルや商業施設なども専用水道を導入していました。 あるホテルでは、使用する水の 8 割を専用水道に切り替えたことで、年間 8000 万円だった水道料を 3000 万円以上節約できたといいます。 病院は、専用水道をひくことで、災害時に水を確保できるだけではなく、コストも削減できる一石二鳥の効果を期待できるわけです。もちろん専用水道を導入するためには、相当額の投資が必要ですが、6 年程度で回収できたと話す病院もありました。 言い換えれば、それだけのメリットがあるから水源の複数化が可能になるのでしょう。 2001 年には約 3700 か所だった専用水道は 2002 年には 6900 か所、2015 年には 8200 か所に増加しています。2001 年から 2002 年にかけて 3000 か所も増えているのは不自然ですが、その理由は水道法の改正にあったようです。それまで専用水道の定義は「居住者 100 人以上」でしたが、2001 年に「1 日最大給水量が 20m3 20m3 を超えるもの」という定義が新たに加わりました。それによって商業施設や病院などが専用水道をつくれるようになったわけです。 また、水をきれいにするフィルターなどの技術が発達したことも、専用水道の普及に拍車をかけています。 いずれにしても、専用水道をいったん導入すれば、水道よりも圧倒的に安いのですから、メインの水源として使われるようになるのは当然でしょう。 収入源に悩む自治体専用水道が普及するということは、自治体からみれば、上得意が次々にいなくなることを意味しています。たとえば、千葉県は、専用水道の影響で、2007 年から 2011 年の 5 年間で約 16 億円、神戸市は 20 件の専用水道ができたことで、2010 年度は 4 億 5000 万円の減収になったと推計しています。 ところで、ホテルや病院などは、専用水道を敷設したからといって、水道の契約をやめるわけではありません。2 割は水道で 8 割は専用水道といった具合に、多くの施設は水道と専用水道を併用しています。つまり自治体にとっては、水の売上は下がるのに、施設の維持管理コストは変わらないということになります。 このまま大口需要家が専用水道をどんどん取り入れれば、どうなるのでしょうか。加えて、少子化によって個人需要も減少の一途をたどるはずです。放っておけば、いつか水道事業は立ち行かなくなるかもしれません。 いくつかの自治体は、落ち込みをカバーするために、様々な手を打ちはきめました。 ポピュラーなのは大口需要家の水道料の値下げ。前橋市、佐賀市、草津市など多くの自治体が実施しています。それによって専用水道への転換を食い止めることを狙っています。専用水道から水道に切り替えた場合、水道料金を安くするといった制度を導入した自治体もあります。 神戸市をはじめ、いくつかの自治体は固定費に目をつけました。水道施設の維持管理のために、専用水道の利用者から一定の固定費を徴収するのです。また、帯広のように専用水道を主として使っている施設は、水道をバックアップとして使っているから「バックアップサービス料」というカタチで対価を徴収している自治体もあります。 もっとも実際にこうした対策をとっている自治体は、まだ少数派でしょう。2018 年から京都市が「水道施設維持負担金制度」をスタートするといった具合に、多くの自治体が手をつけるのはこれからです。現在は、いろいろな地域のやり方を比較検討している段階だといえるでしょう。ユニークなアイデアが飛び出すかもしれません。 さて、肝心の記事の方ですが、すっかり興味が変わってしまったので、結局、テーマも「病院の安全な水の確保に係る業界」に変えてしまいました。 「1 年たったら、思わぬ物質が検出されるようになったのに工事から管理まで頼んだ業者が責任をとってくれなくて困った」「水質を管理している会社に、水質検査まで頼んでいる病院の多さには驚く。これではチェック機能が働かない」「専用水道にアンモニア態窒素が混じっていて、人工透析患者の貧血症状が進行した」……。安全確保がなぜ重要か理解するためには、結果としてずさんな例についての話も沢山伺うことになりました。 もちろん、その気になれば、専用水道はいくらでも質を高くできます。一方、水道水でも自治体によって管理水準に多少のバラツキはあるようです。 それでも、個人的には、「口に入れるのは、水道水の方が、とりあえず無難かも?」と思いましたが、皆さんはいかがでしょうか。 次回は「キャンピングカーブーム」について書く予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社カデナクリエイト 代表取締役社長 竹内 三保子さんのその他の記事 2018/01/10 業界コラム ライター こぼれ話 No.3 『 キャンピングカー・ブーム』 2017/12/05 業界コラム ライター こぼれ話 No.2 『水道局が嘆く井戸水人気』 2017/11/07 業界コラム ライター こぼれ話 No.1 知っておきたい『ミサイル対策の基本』 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月