株式会社カデナクリエイト 代表取締役社長

竹内 三保子

東京生まれ。1983年 明治学院大学経済学部卒業。同年、西武...もっと見る 東京生まれ。1983年 明治学院大学経済学部卒業。同年、西武百貨店入社。紳士服飾部、コンセプトショップ担当、特別顧客チームなどを経て経済評論家の竹内宏に師事。百貨店で学んだ顧客視点をベースに、主に「中小企業」「地域再生」「働く女性」などに関する記事を執筆。その後、編集プロダクション、株式会社カデナクリエイトを設立。 現在は高齢者ビジネスに対する関心が深まり、『介護経営白書』(日本医療企画)等に執筆。共著に『課長・部長のための労務管理問題解決の基本』『図解&事例で学ぶイノベーションの教科書』などがある。

東洋経済オンラインに連載中。

現在、ビジネスものの記事を中心に雑誌や WEB マガジンなどで執筆しています。テーマに沿って取材をしたり、調べたりしながら、だんだん答えに近付いていく作業は楽しいものです。そんな答え探しでみつけた情報の中から思い出深いものをいくつか紹介していきたいと思います。皆さまに役立つ情報があれば幸いです。

二匹目のどじょうを狙った『防衛本』

第一回目は、ミサイル対策の基本。最近、北朝鮮が頻繁に日本方面にミサイルを飛ばしてくるので、このテーマを選ぶことにしました。

 

そもそも、何で、ミサイル対策のことを調べることになったのかと言えば、スイス政府が各家庭に配った民間防衛本の翻訳版『民間防衛―あらゆる危険から身をまもる』が売れに売れていたからです。北朝鮮のミサイル実験をひとつのきっかけに、二匹目のドショウを狙って、いろいろな出版社が一斉に民間防衛本の制作に乗り出しました。私たちも、そうした流れに乗ろうとしたわけです。

ロングセラーのスイス政府の民間防衛。 筆者が購入した段階で33刷でした

まず、大ヒット中の『民間防衛』をざっと読んでみました。平和を守る意義からはじまり、生き残る大切さ、核兵器や生物兵器などから身を守る方法、レジスタンスのやり方まで書いてあります。いつ戦争に突入してもおかしくない緊張感と、何が何でも「祖国を守るのだ」という強い決意が伝わってきました。

それに対して日本はどのくらい防衛のことを考えているのでしょうか。防衛省が防衛関連の資料を出しているのは当たり前なので、それは抜かして探してみることにしました。

まず内閣官房。『武力攻撃やテロなどから身を守るために』というパンフレットを出していました。警報が発令されてから避難までの手順が手際よく解説されています。

最近は、Jアラートについてテレビなどでも盛んに紹介していますが、昨年の段階では、恥ずかしながらJアラートの存在を知らなかったので、こんな仕組みがあるのかと驚いたものです。

出典:国民保護ポータルサイト(http://www. kokuminhogo.go.jp/shiryou/hogo_manual.html) 基本情報から応急処置まで コンパクトにまとめられていて便利

パンフレットの中の項目のひとつ「武力攻撃の類型などに応じた避難などの留意点」では、ゲリラや特殊部隊からの攻撃、弾道ミサイル攻撃、着上陸侵攻などのケースが紹介されていました。さらに、化学剤、生物剤、放射性物質、核兵器、いわゆる CBRN 兵器が使用されたらどうするのかといったことにも触れています。これが防衛省の資料であれば、「専門家はそこまで想定しているのね」とさらりと流してしまいますが、内閣官房の資料となると、不思議なもので現実味を帯びた危機に感じてきます。

 

さらに、平成 16 年の国民保護法に基づいて各都道府県・市町村ともに、国民保護計画を策定するようになりました。万一、攻撃やテロが発生したら、国から都道府県、市町村に避難指示が出ますが、その時、どうするかといったことが書かれているわけです。

よく考えてみれば当たり前なのですが、感覚的には、日本の行政や自治体も攻撃に備えていたことは驚きでした。

 

愕然としたのは、その中身。市町村によって随分とレベルが違うからです。たとえば、狙われやすい施設はどれか、米軍とどう連携するのか、どの道路を使って逃げるのか、安定ヨウ素剤の備蓄はどうなっているのかといったことを具体的に書いている自治体がある一方で、「要請する」「構築する」といった表現ばかりで具体的な対策は書かれていなかったり、部門や企業の役割分担や施設紹介に終始しているところも少なくありませんでした。

 

果たして自分が住む地域はどうなのか…。ぜひ、みなさんも、自宅や職場周辺の国民保護計画をチェックしてみてください。「建物の数」「橋の数」「工場で働く人の人数」など、様々な地域情報も出ているので、自分の住む地域を改めて知るといった観点で楽しむこともできます。

ミサイルに搭載されているのは何かを考える

「弾道ミサイル」に搭載できるのは、「核兵器」だけだと思っている人は少なくないかもしれません。実際には、前述した大量破壊兵器『 CBRN 兵器』すべてを搭載できるそうです。

ちなみに自衛隊に問い合わせたところ放射性物質(R)については、理論的にはミサイルに搭載は可能ですが、技術的にはかなり難しいとのことでした。

 

大量破壊兵器とは、下手をすれば、その国が滅びてしまうほど大勢の人を無差別に殺傷してしまう兵器のことです。かつては、大量破壊兵器は NBC 兵器と呼ばれていたそうです。N は Nuclear(核兵器)、B は Biogical(生物兵器=細菌やウィルスなど)、C は Chemical(化学兵器=毒ガスなど)。当時は国対国の戦争で使用するといったイメージでしたが、実際は、NBC が使用されるのは戦争だけではありません。テロリズムに加えて、事故や自然災害などでも甚大な被害をもたらすこともあります。また、工業用、医療用などに使われている放射性物資(R)も、仮に悪意がある人間が持ち出せば大量破壊兵器として使えます。

 

そこで、オウム真理教のサリン事件、米国炭疽菌郵送事件などをきっかけに、戦争だけではなく、テロや事故や自然災害、また放射性物質も含んだ広い概念として CBRN という言葉が使われるようになってきたそうです。もちろん CBRN 兵器はいずれも使ってはだめです。化学兵器禁止条約、生物兵器禁止条約をはじめ、使用を制限する条約もあります。

 

だからといって、ミサイルが飛来した時に、おかしなものは搭載されていないと考える人はいないでしょう。内閣府のパンフレットによれば、Jアラート等でミサイルが飛んで来るのが分かった時に、仮に屋内にいたとすれば、搭載されているものが何にせよ、まずガムテープなどで窓の隙間を目張りするのが有効だそうです。

 

『ガムテープで防げるの?』とは思いましたが、それだけでも放射性物質、細菌やウィルス、毒ガスなどの侵入をかなり緩和できるようです。あわせて、できるだけ有害な空気を吸い込まないように、口や鼻などをハンカチで覆い、皮膚の露出を避けるために上着などを頭からかぶります。

 

外にいた場合は、密閉性の高い建物に飛び込み、口や鼻などをハンカチで覆います。

核兵器が搭載されていた場合は、コンクリートの建物にいたかどうかが生死を分ける可能性も。コンクリートは高温の熱線を遮るからです。適当な建物がなければ、あきらめずに側溝などでもいいので隠れるのがベター。爆発によって閃光や火球が発生した場合には、絶対に見てはいけません。失明するおそれがあるからです。

 

いずれにしても、ミサイルが飛んで来たら準備できる時間はわずか 10 分程度。今年 2 回も鳴ったJアラートで、多くの人が時間の短さは体感済みでしょう。無意識にどこまで準備ができるかが生存率アップのポイントです。

大切なのは整理整頓?

さて、ミサイル着弾後、助かったからやれやれではありません。人が大勢倒れていれば毒ガスが使われた可能性があるので、風上に逃げる方がいいでしょう。毒ガスの場合は、空気より重いもの、軽いもの両方ありますが、重いものの方が多いということは頭に入れておきたいものです。その上で周辺を見て、頭を高くするべきか、低くするべきかを決めます。

家についたら、まずは着ていた衣服はビニールなどに包んで廃棄。化学兵器、生物兵器、放射性物質などで汚染されている可能性があるからです。皮膚の汚染も考えられるので、きれいに洗います。

 

さらに飲み水、食料など気を付けることが満載。

また、生物兵器が使用された場合は、ウィルスや細菌を媒介する蚊やハエなどが発生しないようにゴミなどこまめに片づけることも重要です。なんだかしつけ教室みたいになってきましたが、整理・整頓・清潔などは、実は防衛的にも重要なのだとわかりました。

 

ところで、内閣府のパンフレットでは、CBRN 兵器への対処法はたった 3 ページしかありません。核爆発の圧力波ひとつに 2 ぺージも割いて説明しているスイスの民間防衛とは対照的。いいかえれば、平和憲法に守られている日本では、そこまで心配する必要はないということでしょう。

弊社で取材・執筆を担当したムック。 二兎追うどころか、かなり欲張りな内容になりました

それよりも怖いのは、放火魔やストーカーをはじめとした日常の危機。2020 年東京オリンピックのテロ対策が気になる人もいるでしょう。ということで、余談ですが、私たちの防衛本は、「CBRN 兵器対策」に「テロへの対処法」「日常生活の防犯」「防犯グッズ」などを加えた総合的な自己防衛をテーマにしたものになりました。

 

次回は、「水道局がなげく井戸水人気?」について紹介する予定です。