電気通信大学 大学院情報理工学研究科、情報理工学域 基盤理工学専攻、Ⅲ類(理工系) 准教授

古川 怜

ワシントン大学 ポスドク 2009/06/08-2010/0...もっと見る ワシントン大学 ポスドク 2009/06/08-2010/02/28
電気通信大学 特任助教 2010/05/01-現在

博士(工学) 慶応義塾大学 2009/03

[専門分野]
複合材料・表界面工学 、構造・機能材料、高分子・繊維材料、高分子化学
[研究課題]
光合成細菌の光捕集系モデルを用いた光電子デバイスの提案 ポリマー光デバイス、エネルギー移動、
天然界の光捕集系に倣ったポリマーデバイスの提案と評価を行っている。

アラフォーを若手と呼ぶ希少な業界の一つに学術界がある。このたびコラムのお話をいただき、タイトルに「若手の苦悩」と入れたのには理由がある。ポリマー光ファイバー(以下 POF と略す)は日本が主導権を握る技術の一つであるが、先の読めない情報化時代の変遷の中、偉大なる先人達がブツを市場へ入れるために成した試行錯誤の経緯がある。若手研究者や業界新参者にとって、実用展望を備えた POF 開発を行うためには、このような先人の開発歴を学ぶことは極めて重要となる。

以下に大雑把であるが、POF のこれまでのロードマップを示す。1960 年代後半に最初の POF 製品は米国デュポン社によって開発された。この時は、通信用ではなく、癌を治療するためのレーザー光ライトガイドを目的としていたようである。また、ほぼ同時期に石英系では 20 dB/km の透明性の実現と、光通信に適した性能を持つ半導体レーザーが発表された。ここから、光通信システムの開発が急速化した。

[1] R. G. Brown, Appl. Opt., 6 (7), 1269-1270, 1967.

[2] R. G. Brown and B. N. Derick, Appl. Opt., 7 (8),

1565-1569, 1968.

[3] R. G. Brown and B. N. Derick, Appl. Opt., 8 (2),

437-442, 1969.

[4] F. P. Kapron, et al., 17, 432, 1970.

[5] H. M. Schleiniz, Int. Wire & Cable Symp. 25th,

352, 1977.

[6] 大塚保治, 光学, 10 (105), 1981.

[7] 戒能俊邦,ほか,信学技報, MW81-74, 1981.

[8] 戒能俊邦,ほか,日化第54秋季年会予稿, 2M10, 1981.

[9] T. Kaino, et al, Appl. Opt., 20 (17) 1, 1981.

[10] Y. Koike, et al, Appl. Opt., 20, 1057, 1982.

[11] 戒能俊邦, ほか, 第31回高分子学会年次大会,

1005, 1982.

[12] 戒能俊邦, ほか, 昭57信学総全大, 996, 1982.

[13] 戒能俊邦, Polymer Preprints Japan, 32 (9),

2525, 1983.

[14] 大塚保治, 高分子, 33 (3) 266, 1984.

[15] 前田豊, オプトロニクス, 4, 45, 1984.

[16] 前田豊, オプトロニクス, 5, 57, 1984.

[17] 倉嶋和良, 化学と教育, 55巻,11号,2004.

我が国においては、デュポンが断念したライトガイドとほぼ似た構造であると推測されるものを、1970 年代後半から三菱レイヨン社(現・三菱ケミカル)が独自開発の上、工業化した。現在の ESKA シリーズである。1980 年代前半には、三菱レイヨンをはじめ、電電公社、慶應大学などが POF の開発に参画し、更なる低損失化と広帯域化を成功させた。

 

2000 年代以降、慶應大学は屈折率分布型 POF の材料開発拠点として、大規模な国家プロジェクトをいくつか実施している。この一環として、連携企業などから新たに POF が製品化された。用途としては、屋内などの短中距離光ネットワークが中心であり、導入試験なども実施されている。

次回以降「光合成の波長変換と光ファイバーの出会い」、さらに「『色でわかる』ひずみセンサーを土木現場へ」と題して論ずる。