電気通信大学 大学院情報理工学研究科、情報理工学域 基盤理工学専攻、Ⅲ類(理工系) 准教授

古川 怜

ワシントン大学 ポスドク 2009/06/08-2010/0...もっと見る ワシントン大学 ポスドク 2009/06/08-2010/02/28
電気通信大学 特任助教 2010/05/01-現在

博士(工学) 慶応義塾大学 2009/03

[専門分野]
複合材料・表界面工学 、構造・機能材料、高分子・繊維材料、高分子化学
[研究課題]
光合成細菌の光捕集系モデルを用いた光電子デバイスの提案 ポリマー光デバイス、エネルギー移動、
天然界の光捕集系に倣ったポリマーデバイスの提案と評価を行っている。

前号からだいぶ話が逸れるが、自然界には未だ人々の興味を引きつける見事な仕組みが存在する。その一つに光合成が挙げられる。幸運にも門外漢であった筆者が、光合成の研究と触れ合う機会に恵まれた。光合成を行う細菌から取り出したタンパク質を人工的に並べなおすという作業であったが、その狙いの一つは生体特有の波長変換機能の再現であった[1]。このタンパク質には色素の特異的な配列がいくつか存在し、それぞれが異なる波長を吸収し、さらにその励起エネルギーが色素の配列間を行儀よく伝達して行くという。図にその仕組みの概略を示す。タンパク質の中で、色素が特異的に配列を作っているのがわかる。日照条件の悪い沼などに生息する細菌が、長波長を利用するためにこのような機能を獲得したらしい。

*図は名古屋工業大学の南後/山下/出羽/近藤研より戴きました。

話は前号に戻り、ポリマー光ファイバー(POF)が中短距離情報媒体として開発された歴史があった。通信媒体としての POF の長所は、容易な光接続および曲げやすさなどの取り扱いのしやすさである。とはいえ、現在は伝送距離や耐久性で優れる石英光ファイバーにおいても、ケーブル本体および周辺機器が進歩し、接続や曲げがクリティカルな課題となるシーンは少ない。また、通信そのもので考えると、無線通信が急速に拡大している。このような状況にあって、新参の POF の研究者はどう立ち振る舞うべきかと考える。POF の利点である可とう性や加工性を生かせる新たな利用シーンはあるのだろうか。

そこで、現在当研究室では、POF のひずみセンサーとしての可能性を探索している。応力に対して顕著なひずみが起きることから、高感度が狙え、太いファイバー径は応力を伝えやすく、敷設しやすさにつながる可能性がある。しかし、光ファイバーひずみセンサーには、石英系ですでに確立された BOTDR や FGB などの技術がある。POF ひずみセンサーに関しては、これらの技術に対する住み分けまたは優位性がない限り、開発の意義は薄い。

そこでまず、シンプルな着想としてコストダウンを考えたときに、旧システムから「光源」と「受光部」が省けたならどうだろうかと考える。手軽に思い当たる代用といえば「環境光」と「視認」である。このペアで機能するセンサーを POF で実現できればありがたいものである。ここで、冒頭に述べた光合成細菌の波長変換の仕組みが大いに参考になる。

 

最終回となる次回は「『色でわかる』ひずみセンサーを土木現場へ」と題して論ずる。

 

[1] S. Yajima,et.al., Appl. Phys. Lett., 100 (23) 233701,2012.