株式会社美麗書院 代表取締役 書家・美文字講師・書パフォーマー

北原 美麗

書家 1964年和歌山市生まれ
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書家 1964年和歌山市生まれ
子どもの頃から書道を始め、1991年に師範免許を取得。
書道教室で生徒を教える一方、作品を数多く発表し、受賞歴多数。
ライブ活動やワークショップ、筆耕も精力的にこなす。
2015年、モリサワフォントから美麗流「錦麗行書」がリリース。

ミセスQUEEEN2016ファイナリスト。

コラム執筆にあたって

書家の北原 美麗(きたはら びれい)和歌山市在住です。今月から 3 回にわたり執筆させていただくことになりました。どうぞ宜しくお願い致します。

私は幼少期から書を習い師範取得後、2011 年にフリーなってからは大きく分けて 3 つの分野で活動しています。教育・実用書道(筆耕)、アート・デザイン書道、パフォーマンス・LIVE 活動です。現在これらを通じて手書きの良さを全国に発信しています。

デザイン書道と教育書道

教育については、1993 年から書道教室を開き子供達の書写教育に携わっています。

和歌山には天石東村(注 1)(1913-1989)という偉大な先生がいました。私が学生の頃の和歌山の書写の教科書は全て天石東村先生の文字でした。とても美しく優雅で気品があり、そして当時から「字には法則がある」と指導されていました。子供だった私は形についてはわかるものの、文字に理論など考えもしませんでした。

それが今、自分が指導するようになって初めて私の身に付いている考え方は天石先生が言いたかった文字のルールだとわかり、全てに納得しながらそれを自分の中で咀嚼して、日々多くの方に伝授しております。詳細はまたこのコラムで解説したいと思います。

また、私はアート書やデザイン書なども依頼を受けて制作しています。アートについては色々な考え方がありますが、例えば書に対してのデフォルメ(対象・素材の形態を意識的に変形すること)する時にも法則があると思っています。芸術だといって好きなように勢いだけで書くのは間違いです。ここにもちゃんとルールが存在します。

デザイン書に関して言えば、パソコンの中の活字は全てがデザインされた書体です。デザイン上の便宜を考えて作られたものが明朝体やゴシック体であり、書き文字にデザイン処理をして、正方形の枠にぴったり収まるように制作されています。

一方、書写教育の為に手書きに近い活字として子供たちが習う「教科書体」は、小学校学習指導要領で標準とされている文字をもとに作られた書体で、より手書き文字に近い形になっています。この教科書体では、正方形の枠に文字を収めるということよりも、筆使いや点画、ハネハライ、へんとつくりの組み立て方などに重点を置いています。

皆さんは「字体」と「字形」、「書体」と「書風」の言葉の違いを知っているでしょうか?

響きが似ているのでしばしば混同されがちですがそれぞれ意味がちがいます。これらの言葉の意味の違いを知ることも大切だと思います。
◎字体 文字の骨組みのこと。実際には見えない抽象的な概念。
(例) 正字体 旧字体
◎字形 文字が目に見える形に書かれたもの。文字の形。
(例) この字形は整っていて読みやすい
◎書体 文字の表現様式のこと。漢字には篆書、隷書、草書、行書、楷書の 5 つの書体がある。活字にもそのデザインの違いによって、明朝体、ゴシック体、教科書体などの書体がある。
(例) 楷書は一点一画を明瞭に書く書体です
◎書風 書く人の個性や独自の趣のこと。その文字に対して用いる。
(例) 先生の書く書風は力強くて人柄が表れています

手書きと活字

2016 年に株式会社モリサワから新作書体として「錦麗行書 きんれいぎょうしょ」(注 2)がリリースされました。

これはモリサワタイプデザインコンペティションに於いて、私が和文部門で明石賞を受賞し二年間の制作期間を経て制作した、全て手書きの毛筆書体です。

制作過程では 6 センチ角の枠内に使用頻度の高い第一水準漢字 8400 文字を書いていきます。「さんずい」や「しんにょう」など同じ部首の漢字は全て同じ形にし、枠内の出来上がり寸法、行書の崩す程度も一定にする必要がありました。パソコン上で画数ごとに字の分解は出来ません。納品までに書いた文字の数は二万字を超えました。

この書体の特徴は、書家による筆文字の毛筆の雰囲気が残っている点にあります。文字は、手書きのバランスを残したまま、のびのびとデザインされており、画線にはにじみやかすれ、運筆の跡といった手の動きが見られます。

どのような文字の並びであっても不自然にならないよう、丁寧に各文字が調整されており、組む文章が手書きのように見えます。

この錦麗行書というフォントは私流のルールにのっとり、長年培ってきた法則に従って書いたものですが、活字(デザイン書)という事になります。なぜなら上記で述べたとおりパソコンの中の文字は全てデザイン書体と位置付けられているからです。インターネット画面に表示したり、紙面や書籍に印刷したりするために利用できる書体データだからです。手書きなのに活字です。しかしながら、手書きの良さを発進したいと願っていた私は、皮肉にも活字を通して手書きの良さを広める事が出来たのです。

次回は文字の法則についてお話したいと思います。

(注 1)天石東村

(注 2)錦麗行書