認定NPO法人 環境防災技術研究所 理事長

斉藤 好晴

S.43.8~H.20.8 NECエンジニアリング勤務...もっと見る S.43.8~H.20.8 NECエンジニアリング勤務
通信衛星用通信機器検査、システム設計に従事

幼少時、伊勢湾台風を経験しており、防災に対する意識が高く、気象衛星ひまわりからの衛星画像受信・処理システム開発を通じて台風進路予測をはじめとして日本の気象観測発展に貢献した。
気象衛星活用地震・津波衛星同報システム開発を通じて地震予知に興味を持った。
現在、業務を通じて培った経験を基に地震前兆電磁気現象観測機器の開発・製造及び観測を主な活動としている。

コラム執筆にあたって

私は多数の犠牲者を出した 1995 年の阪神大震災の後、地震予知ができれば人的被害軽減になるのではとの思いで、個人的に研究を開始しました。
現在、地震予知に関する国の見解は不可能というものですが科学の世界に不可能はないと思います。
学術的地震予知というのは予知の 3 要素(いつ、どこで、規模)を短期的に的確に判断することで、予測に用いた観測方式と地震発生の相関性メカニズムが解明されていなければならないと考えられています。
私は学術的地震予知が可能になるのは、大地震を数多く経験し、メカニズムの仮説を立て、再現性を検証せねばならず、多年にわたる研究が必要かもしれません。
現在では多くの研究者が地震前兆に関する基礎的研究の成果をあげています。私はエンジニアの立場でそれらの成果を基にどう観測するか技術的検討を行い、観測機器を開発し、実際に観測活動を行っています。
その結果、「地震発生に 1 週間から 2 週間程度先行し精度の高い震源予測をする」という実用的な地震予知はできる状況になっています。現在、地震の規模を表す Magnitude(以降 M ) を予測することが一番難しく、M の予測精度向上が一番大きな課題です。

今必要なのは M6 以上の大地震の発生予測と思います。深度が浅くて、直下型であれば大被害をもたらすことになります。公的機関では学術的見地に基づいた地震発生予測情報を発信できませんが、民間ならばできると考え、私は NPO を立ち上げ、“ 多方式・多点観測 ” をすれば “ 実用的防災情報 ” として地震の発生予測が可能となり、予測情報を発信しようと決意いたしました。

大地震発生を見逃さないことが一番重要です。そのため当研究所では空振りを恐れず、積極的に情報発信をしていく考えです。もし何度も空振りに終わった場合はオオカミ少年的と考えるのではなく、見逃しを防ぐため、M の予測精度向上のためとご理解いただき、来なくてよかったとお考えいただければ幸いです。

本コラムでは、2 回にわたり地震発生予測が可能な観測方式と地震前兆の実例について解説します。
第 1 回目となる今回は、地震発生予測が可能な地震前兆観測方式について解説します。

地震発生予測が可能な地震前兆観測方式

  1. 動物観測
    動物は本能的に地震前兆を感ずる能力があり、大地震の前にナマズが暴れたり、鳥が大騒ぎをしたり、ネズミが大群となってどこかに逃げるといった事がよく昔から言われています。
  2. 人体異常観測
    人も地震前にめまい、耳鳴り、偏頭痛、吐き気等体調に変化をきたすということが本能として残っている人がいます。
  3. 植物生体電位観測
    オジギソウなどは人が手を触れると葉を閉じたり、台風、地震の前にしおれたりする現象が見られます。同様に樹木も地震前兆を感じている現象が見られます。
  4. 各種電磁気現象観測
    上記前兆観測の主な発生要因は電磁気現象にあると考えられます。
  5. 地震予知を可能にする方法
    以上述べた観測を “ 多方式・多点観測 ” により地震予知は可能になると考えます。

具体的な地震前兆観測方式

図-1 植物生体電位観測 電極取付の様子

植物生体電位観測(当研究所で実施)

樹木に取り付けた電極とアース間の電位を測定します。地震前数か月前から数時間前に大きな異常が観測されることがあります。

図-2 2 周波同時観測の周波数スペクトラム

多周波帯 2 周波同時観測(当研究所で実施)

オリジナルのこの方式は広島市立大学の吉田彰顕教授が VHF 帯において近接の 2 周波にて地震性直接放射波の平均値を測定する観測法を提唱者しましたが、当研究所は LF、MF、VHF、UHF 帯で平均値に加え Impulsive なノイズも観測するよう改善しました。
地震性電磁波はある程度の帯域幅があり、2 周波にて同時に異常を観測すれば地震性、片方のみだと何かの信号で、非地震性と判断します。

図-3 対馬 → 犬吠埼間の VLF パス

AM 放送波活用電離層擾乱観測(当研究所で実施)

地震前に地殻の中でラドンなどが発生し、電離層に乱れを生じさせることが分かっており、電離層の乱れを観測することにより地震前兆を知ろうという方式です。
オリジナルのこの方式は図-3、図-4 に示すように、電気通信大学の早川正士教授が VLF 帯において国内外の標準電波等を活用し 1995 年の阪神淡路地震の直前の現象より発見しましたが、当研究所は遠距離の MF 帯 AM 放送波が夜間のみ受信できるという現象を活用するよう改善しました。

AM 放送波を活用するメリットは以下の通りです。

(1)AM 放送波は電離層で 1 回の反射波しか受信できない

(2)地上波は届かないため電離層反射波との合成波が発生しない

(3)故に震源の特定がしやすい

(4)観測機器が非常に低コストである

図-4 地震直前の電離層反射波の位相変動

図-5 に VLF 波および MF 帯電磁波の電離層反射状況を示します。MF 帯放送波は昼間は D 層により吸収され遠方には届きません。夜間は D 層が消滅し E 層により反射され遠方に届きます。

図-5 VLF 波および MF 帯電磁波の電離層反射状況

図-6 に MF 帯放送波受信電界生データを示します。早朝受信が終了し、夕方受信を開始します。この受信終了と開始時刻を Terminator Time(TT)と呼びます。毎日の TT の変動の標準偏差をグラフ化し、σ=±2 以上を異常と判断します。異常例は後述(2020 年 1 月号)します。

図-6 MF 帯放送波受信電界生データ
図-7 低コスト大気イオン濃度観測装置

大気イオン濃度(主に NPO 法人 e-PISCO で実施)

オリジナルのこの方式は岡山理科大学の弘原海清教授が開発し、現在は神奈川工科大学の矢田直之准教授が引き継がれています。当研究所は米国製のイオン濃度計測ユニットを改造し、コスト低減を図りました。

潮位偏差(EQTIDE で実施)

全国には公共機関が管理する験潮所が 187 ヶ所ありその測定データは気象庁に一元的に収集されてグラフ化されており、潮位の変化を見て地震発生を予測します。

FM 放送波見通し内(群馬大学で実施)

FM 放送波直接が届く地点で電界強度を観測し、異常があった時地震発生予測をする方式です。

次回(2020 年 2 月号)は地震前兆の実例について解説します。

(認定NPO法人 環境防災技術研究所入会案内: http://www.jepcoc.jp/member/Admission_guide.html)