2020/02/04 業界コラム 斉藤 好晴 “多方式・多点観測”にて地震前兆現象を観測すれば地震予知は可能(2) 認定NPO法人 環境防災技術研究所 理事長 斉藤 好晴 S.43.8~H.20.8 NECエンジニアリング勤務...もっと見る S.43.8~H.20.8 NECエンジニアリング勤務 通信衛星用通信機器検査、システム設計に従事 幼少時、伊勢湾台風を経験しており、防災に対する意識が高く、気象衛星ひまわりからの衛星画像受信・処理システム開発を通じて台風進路予測をはじめとして日本の気象観測発展に貢献した。 気象衛星活用地震・津波衛星同報システム開発を通じて地震予知に興味を持った。 現在、業務を通じて培った経験を基に地震前兆電磁気現象観測機器の開発・製造及び観測を主な活動としている。 コラム執筆にあたって 私は多数の犠牲者を出した 1995 年の阪神大震災の後、地震予知ができれば人的被害軽減になるのではとの思いで、個人的に研究を開始しました。 現在、地震予知に関する国の見解は不可能というものですが科学の世界に不可能はないと思います。 学術的地震予知というのは予知の 3 要素(いつ、どこで、規模)を短期的に的確に判断することで、予測に用いた観測方式と地震発生の相関性メカニズムが解明されていなければならないと考えられています。 私は学術的地震予知が可能になるのは、大地震を数多く経験し、メカニズムの仮説を立て、再現性を検証せねばならず、多年にわたる研究が必要かもしれません。 現在では多くの研究者が地震前兆に関する基礎的研究の成果をあげています。私はエンジニアの立場でそれらの成果を基にどう観測するか技術的検討を行い、観測機器を開発し、実際に観測活動を行っています。 その結果、「地震発生に 1 週間から 2 週間程度先行し精度の高い震源予測をする」という実用的な地震予知はできる状況になっています。現在、地震の規模を表す Magnitude(以降 M ) を予測することが一番難しく、M の予測精度向上が一番大きな課題です。 今必要なのは M6 以上の大地震の発生予測と思います。深度が浅くて、直下型であれば大被害をもたらすことになります。公的機関では学術的見地に基づいた地震発生予測情報を発信できませんが、民間ならばできると考え、私は NPO を立ち上げ、“ 多方式・多点観測 ” をすれば “ 実用的防災情報 ” として地震の発生予測が可能となり、予測情報を発信しようと決意いたしました。 大地震発生を見逃さないことが一番重要です。そのため当研究所では空振りを恐れず、積極的に情報発信をしていく考えです。もし何度も空振りに終わった場合はオオカミ少年的と考えるのではなく、見逃しを防ぐため、M の予測精度向上のためとご理解いただき、来なくてよかったとお考えいただければ幸いです。 最終回となる今回は、地震前兆の実例について解説します。 地震前兆の実例1.動物観測 ・台湾チチ地震(M=7.6 1999 年 09 月 21 日)前にミミズが同一方向に逃げ、中国では地震(詳細不明)前にカエルが道路に出てきた。 図-8 台湾チチ地震前のミミズの異常行動 (© NPO e-PISCO) 図-9 中国での地震前のカエルの異常行動 (© NPO e-PISCO) ・千葉県八街観測点にてとらえられたハムスター活動と 2 日半後に起きた地震。 図-10 2019 年 10 月 12 日 千葉県南東沖 M5.7 前のハムスターの異常行動・犬、猫、ニワトリ、乳牛等に関する研究に関しては下記論文をご参照いただきたい。 動物の地震予知に関する研究 https://az.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=5030&file_id=31&file_no=1 麻布大学太田光明他 地震の直前予測へ向けた動物の前兆的行動に関する研究 https://az.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=4096&file_id=20&file_no=2 麻布大学山内寛之 2.植物生体電位観測 図-11 に 2011年 3 月 11 日 東北沖 M9.1 前の千葉県八街観測点での植物生体電位観測データを示します。地震の約 3 か月前から電位が徐々に上昇し、約 1 か月半前にピークに達し、地震発生日に向け減少していく様子が見られます。 図-11 2011 年 3 月 11 日 東北沖 M9.1 前の千葉県八街観測点での植物生体電位観測データ 図-12 に 2003 年 5 月 26 日 宮城県沖 M7.0 前の相模原観測点での植物生体電位観測データを示します。 地震発生約 11 時間前に急激に上昇し、徐々に下降していく様子が見られます。あたかも電子部品のコンデンサーの充電・放電現象に似ています。 図-12 2003 年 5 月 26 日 宮城県沖 M7.0 前の相模原観測点での植物生体電位観測データ3.多周波帯 2 周波同時観測 図-13 に 2012 年 9 月 14 日 千葉県北東部 M5.1 前の厚木観測点での中波帯 2 周波同時観測異常、図-14 に LF 帯 2 周波同時観測異常、図-15 に横浜観測点での中波帯 2 周波同時観測異常、図-16 に相模原観測点での中波帯 2 周波同時観測異常を示します。図-17 に各観測点と震源の位置関係を示します。LF 帯、MF 帯および 3 観測点で同期した異常が観測されました。 図-13 2012 年 9 月 14 日 千葉県北東部 M5.1 前の厚木観測点での中波帯 2 周波同時観測異常図-14 2012 年 9月 14 日 千葉県北東部 M5.1 前の厚木観測点での LF 帯 2 周波同時観測異常図-15 2012 年 9 月 14 日 千葉県北東部 M5.1 前の横浜観測点での中波帯 2 周波同時観測異常図-16 2012 年 9 月 14 日 千葉県北東部 M5.1 前の相模原観測点での中波帯 2 周波同時観測異常図-17 観測点と震源の位置関係4.AM 放送波活用電離層擾乱観測 図-18 に 2019 年 6 月 18 日 山形県沖 M6.8 前の茨城県鉾田観測点での AM 放送波活用電離層擾乱観測異常を、図-19 に札幌-震源-鉾田観測点の位置関係を示します。地震発生 12 日前から 3 日前まで普段の TT(Terminator Time)から大きくずれた様子が分かります。 図-18 2019 年 6 月 18 日 山形県沖 M6.8 前の茨城県鉾田観測点での AM 放送波活用電離層擾乱観測異常図-19 札幌-震源-鉾田観測点位置関係5.大気イオン濃度 図-20 に 2014 年 11 月 22 日 長野県 M6.8 前の金沢観測点、図-21 に松本観測点での大気イオン濃度観測異常、図-22 に震源-金沢、松本観測点位置関係を示します。地震発生から 11 日前に大きな異常を観測し、徐々に下降する異常が見られます。 図-20 2014 年 11 月 22 日 長野県 M6.8 前の金沢観測点での大気イオン濃度観測異常図-21 2014 年 11 月 22 日 長野県 M6.8 前の松本観測点での大気イオン濃度観測異常図-22 震源-金沢、松本観測点位置関係6.潮位偏差 図-23 日本語 2011 年 3 月 11 日 東北沖 M9.1 前の小名浜験潮所での長期、図-24 に短期潮位偏差異常を示します。偏差が約半年前から徐々に上昇し、約 3 か月前にピークに達し、地震発生直前にかけ徐々に下降していくのが見えます。更に地震発生直前2時間前から急激に上昇しています。図-25 に震源-小名浜験潮所位置関係を示します。 図-23 2011 年 3 月 11 日 東北沖 M9.1 前の小名浜験潮所での長期潮位偏差異常図-24 2011 年 3 月 11 日 東北沖 M9.1 前の小名浜験潮所での短期潮位偏差異常図-25 震源-小名浜験潮所位置関係図-26 震源-佐渡島験潮所位置関係 図-27 に 2007 年 7 月 16 日 新潟県沖 M6.8 前の佐渡島験潮所での潮位偏差異常を、図-28 に潮位偏差異常拡大図を、図-26 に震源-佐渡島験潮所位置関係を示します。この地震の場合は直前 2 日前から異常が検知されました。 図-27 2007 年 7 月 16 日 新潟県沖 M6.8 前の佐渡島験潮所での潮位偏差異常図-28 2007 年 7 月 16 日 新潟県沖 M6.8 前の佐渡島験潮所での潮位偏差異常拡大図 図-29 に 2014 年 3 月 14 日 伊予灘 M6.2 前の松山験潮所での潮位偏差異常を、図-30 に震源-松山験潮所位置関係を示します。この時は地震直前 3 日前から異常が現れました。 図-29 2014 年 3 月 14 日 伊予灘 M6.2 前の松山験潮所での潮位偏差異常図-30 震源-松山験潮所位置関係おわりに 以上述べましたように “ 多方式・多点観測 ” によれば地震発生予測は可能になったといえます。 過去の当研究所による地震予測実験の結果は下記よりご覧いただけます。 http://www.jsedip.jp/sandra_forecast_free.php 2007 年 06 月 ~ 2019 年 09 月までに毎週 2 回予測を実施し、総計 2,020 回に達しました。地震発生予測の 3 要素 “ いつ ”、“ どこで ”、“ 規模 ” のすべてが的中した的中率は 52%、地震発生予測の 3 要素のうち 2 つが的中した準的中率は 40%、予測した地震が発生しなかった空振り率は 5%、何の予測もなくマグニチュード 6 以上の地震が発生した見逃し率は 1% でした。 現在当法人は皆様からの浄財のみで運営しております。 ぜひご支援いただければ幸いです。(入会案内: http://www.jepcoc.jp/member/Admission_guide.html) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 認定NPO法人 環境防災技術研究所 理事長 斉藤 好晴さんのその他の記事 2020/02/04 業界コラム “多方式・多点観測”にて地震前兆現象を観測すれば地震予知は可能(2) 2019/12/13 業界コラム “ 多方式・多点観測 ” にて地震前兆現象を観測すれば地震予知は可能(1) 関連情報 コラム 2019.12.13 コラム “ 多方式・多点観測 ” にて地震前兆現象を観測すれば地震予知は可能(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月