2011/06/07 業界コラム 松下 修己 貧乏からの脱出 by 「数学」 防衛大学校 名誉教授 松下 修己 (当社技術顧問)...もっと見る (当社技術顧問) なんとなく奇妙なタイトルですが、以前からこのような趣旨の考えをまとめてみたいと思っていました。今回、メルマガへの寄稿の機会を頂き、これを機に改めて考えてみることにしました。 貧乏からの脱出事の発端は、インドの若者を追ったテレビのドキュメンタリー番組です。片田舎で極貧の家庭に育った勉強好きな少年が、家事を手伝いながら勉強を続けていました。特に数学の才能があったようで、番組では数学を勉強する姿が映し出されていました。少年は進学を諦めざるを得ない貧しい家庭環境でしたが、地元の篤志家の援助などを得て進学することができました。この少年は後年、IIT(インド工科大学の略。世界的に有名な工科大学で、インド各地に学舎が点在する。図1参照。)で勉強し、最新の花形産業であるIT関連の会社にプログラマーとして就職します。と、まぁ~ここまではよく見聞する話で、昔の日本でも赤貧の家庭に育った優秀な子供が、お金持ちの家に養子に引き取られ、先方の財力で成長していくというような美談と同じです。 図1. インド各地に学舎が点在するインド工科大学(IIT)このインド青年は、その後が感動的でした。自分が育った田舎に、満足な教室・黒板・文房具もないことに、長い間心を痛めていました。それは本当に牛小屋のような教室でした。彼は、そのような窮状をなんとしても解消したいと決意し、給料を貯めはじめ、数年後に教育施設を作るのです。それは小さな施設ではありましたが、新しい教室が完成し、嬉々として勉強を楽しむ子供たち、子供に囲まれるこの青年の満面の笑みでドキュメンタリーは幕となるのです。インドでは貧困とカースト制度が残存し、このような向学心に富む青年の将来が阻害されえることを想像するに、彼の献身的な生き方に涙腺は緩みました。 高揚感に満ちた講習会話は変わって、1997年、私は米国西海岸のサンノゼで開かれたメカトロニクスに関連する国際会議に出席していました。温暖な気候、海に面し山を背にした地形、風土に恵まれた地での楽しい学会でした。面白いことにゴルフもプログラムに含まれており、パーティでは論文賞の表彰の前座として、学会ゴルフチャンピオンも紹介されました。また、行事の一貫として先端情報産業の見学があり、我々はHP(ヒューレット・パッカード)社などを訪問しました。 その折に、5人の若者グループと話をしました。「どこから来ました?」、「IITです」、「論文を発表したの?」、「いいえ、聴講に来ました」。彼らは、修士課程の1年生で、今後の大学での研究を開始するにあたり、どのようなことが実際の産業界で問題なのかを見いだすために学会に参加したそうです。インドでは数学教育に力を入れており数学の実力は相当高いが、実際にどのようにそれを工業技術として応用するかが解らないし、我々の技術は遅れている。そこが問題だと自己分析してみせた。それゆえ、このような学会に参加して、研究テーマを捜しているのだとのこと。旅費、学会参加費なども自費とのことで、お見事、敬服しました。このような主体的な学生を本国では見聞したこともありません。ついつい比較してしまい、「オイ、オイ、日本は大丈夫か?」という心境でした。 図2. v_Base データベース再度、インドでの話です。新川電機が主催する海外セミナーに講師として2回ほど参加し、ムンバイなどを訪れました。2000年の第1回セミナーは実に印象的でした。テーマは「プラント用回転機械に発生する実際の振動問題とその対策」で、日本機械学会の友人と講師団を編成し講習会を行ないました。受講者は、とても熱心に勉強していましたが「彼らは提供されるランチが目的で、午後はすぐ帰りますよ。」と新川電機の担当者は揶揄していました。 しかし、どっこい午後もしきりにうなずきながら聴講していました。講習の内容は、日本機械学会振動グループの自信作「v_BASE データベース」(実機振動問題のトラブルシューティング事例集。図2参照。)から抽出した事例の紹介です。テキストの題材は現場向きに選別されており、それに若干の数学的かつ力学的素養で味付けをしていますので、アカデミー人より現場経験者にいつも好評です。講習後に、かなりの専門家になった高揚感を与えることを目標にしています。 最後のQAセッションでは、ある人から自分の職場の機械の振動問題に関して悩んでいる旨の説明があり、振動状況データを聞き取りにくい英語で確認していました。ところが、その質問に対し、他の人が応えはじめ、それに対しまた別の人がコメントしはじめ、次々と話は広がり、いろいろな人が立ち上がり、会場は討論の場となりました。多分、英語だと思うのですが講師陣も唖然として見ていました。このように「高揚感」に満ちた大成功の講習会を経験したこともあります。国内の講習会では絶対にお目にかかれない景色でした。 理系教育の力このようないくつかの感激をインドの人から学びました。勉強熱心で、仕事熱心な人たちの一面でしょう。このような生き方を可能にするのは、数学や理系の教育の力とは思いませんか?私にはそのように思えます。人生、しっかり向上心を持って生きようなんて訓話は小生の避けているところです。「向上心」を「数学」に、強引に読み替えてこのような奇妙な表題としました。ご精読感謝。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 防衛大学校 名誉教授 松下 修己さんのその他の記事 2015/04/07 業界コラム 私の ISO 活動の始めと終わり 2011/07/05 業界コラム 人間業には奇跡が起こる? 2011/06/07 業界コラム 貧乏からの脱出 by 「数学」 2011/05/17 業界コラム 「東日本大震災」の経験 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月