2011/05/17 業界コラム 松下 修己 「東日本大震災」の経験 防衛大学校 名誉教授 松下 修己 (当社技術顧問)...もっと見る (当社技術顧問) 当日は、日立製作所日立工場の設計者らとの打合せで、午後から日立工場の来客会議室に入りました。海に面した眺望のきれいな部屋で、建物自体が高台の上にあり、見通しは格別です。太平洋が眼前に広がり、海原の遠く水平線が見えます。会議前にいつも見とれる風景です。 尋常ではない地震会議のテーマは、タービン振動の解析について。ミニカンファレンス風に各所から関係者に参集をお願いしていました。私は茨城県の笠間市から、遠くは神奈川県横須賀市の防衛大学からも参加。途中での出入りもあり、総勢10名くらいで会議がはじまりました。 会議ではタービンに関わる各種の振動応答解析の一例として、地震波に対する応答などを話題にしていました。例によって「耐震設計などは確立した技術」などと豪語しているとき、突如として3月11日14時46分に地震が発生しました。とにかく、大きくて長い尋常ではない地震が始まりました。白板が倒れないように押さえていましたが、耐えられず、頑丈な机の下に皆と隠れました。建物は揺れ、部屋はギシギシとうなりをあげ、 いつもの長さの比ではない(後から3分と聞きましたが)ことに事の重大さを予見しました。漸くたって揺れが少し治まったので、余震が続く中、外に出て指示に従い避難場所へ逃げました。 1ヶ月経った今でも、この原稿を執筆している最中、従来の比ではないほどの大きな余震が続いています。しかし、もうびっくりして外に逃げ出すような住民はいません。慣れって怖いですね。実際の地震波で台を動かして機械の揺れを評価する耐震実験や、振動台に載る体験学習などを経験していましたが、やはり不意に訪れる本物の地震の迫力にはかないませんでした。 初めての避難生活被災した隣家。屋根、塀など半壊。地震発生直後、我々は高台にある避難場所へ避難しました。そこでは観光バスが数台止まっていて、ラジオから大きな音で状況を報じていました。避難の折、眼下に現場の建屋が見えましたが、火の手がなかったのが幸いでした。避難訓練のように点呼や整列が手際よく行われるでもなく、皆で何となく事の推移を見守っていました。この間に困った事は、屋外トイレが無かった事です。 そのうちに「各自気をつけて帰宅」との指示が出て、16時頃にマイカーで会議の仲間を乗せ、帰路につきました。消防隊の解散指示が「的確で力強い声」だったことを覚えています。今でも、日立地区の鉄道や工場は復旧に呻吟しています。地震は宮城沖、福島沖、日立沖の3連発で、目の前の海で起こった地震の凄さを物語っています。 「帰宅指示」が出て、はじめは海岸線沿いに帰る予定でしたが、海の方に津波が見え、山側の方に方向を転じました。まだ少し明るかったのが幸いして海の怖さに気づきましたが、さもなければ、そのまま海沿いに津波の横を走っていたかもしれません。うろ覚えの細かい道などを通り、信号が働かない交差点を越え、迂回しながら橋を渡り、暗いなか日立から水戸方面を目指しました。とにかく「なんで?」というくらい多くの車が右往左往。長い行列に並んだ後に道路が寸断されたことを知り、再び迂回するなど四苦八苦の帰還でした。紆余曲折の運転の後、笠間の自宅に着いたのは深夜1時。この間に苦労したことは、空腹?違います。再び「トイレの問題」でした。 同乗の仲間に「あとは歩いて帰ったら?...」と言ったら、即座に車を取り上げられ彼らの家の方にさっさと走り去りました。この「押収された車」は、そのまま土浦を経由して南下し、翌日の夕刻まで横須賀へ走ったそうです。 自宅の小さな被災。散乱する書斎。帰宅後は、家族・近隣の人との共同避難生活に合流。水道や電気が止まりましたが、水は近所の川にありました。食料は冷蔵庫の中の「日頃から不要な蓄え」が効いて助かりました。テレビなし、ラジオなし、インターネットなし、灯りなし、風呂なし、携帯不通、6時起床19時就寝、世の中と絶縁した簡素な生活でした。本棚から全ての本が落下し、食器棚半壊、仏壇転倒、物置き半壊などなどでしたので、毎日後片付けに明け暮れていました。結構、忙しく充実感はありました。 このとき、娘と孫2人が我が家に居候していて、一人は8ヶ月の赤ん坊でしたのでミルクのための清潔な水の確保が大変でした。町役場で水の配給があり、皆思い思いの容器を持って列に並びました。2Lの配給にバケツを持っている欲張りな人、一升瓶を持つ酒豪らしき人(私など)などがいました。配給水で濯ぐ訳にはいきませんでしたので、少し酒風味のミルクとなりましたが、孫は嬉しく飲んでいました。不自由で非衛生的な生活でしたので、これは危ないとばかりに娘婿が決死の思いで来訪、さっさと横浜の実家の方に引き取り、我々にとっては心配事が一つ減りました。 病院のテレビで知った原発事故実は、3月14日から胃カメラ手術の入院が予定されていました。てっきり東京も被災しているので延期だろうと思い、電話で確認したところ、「こちらは通常業務、予定通り」とのこと。避難生活を一旦休止して、急遽、準備していた手荷物を持って東京へ。病院では水や電気が完備し、入院生活では食事ベッドの提供を受け、避難生活の後でしたので、まるで高級ホテル暮らしの様でした。 福島第1原発から約100Kmの当地しかし、その後のニュースに戦慄しました。病院のテレビで初めて知った福島第1原発の事故の映像を見て愕然としました。機械は整然とした形をしていなくてはならない物です。吹っ飛んだ屋根、ズタズタの鉄骨構造、全てが機械工学面の異常です。その上に放射性物質の漏洩、放射熱反応など化学工学面の異常も加わり、奈落のような様相を呈しています。病院では事故対策の一挙手一投足を映すテレビに釘付けでした。 退院後の一時疎開を終え、今はふるさとの笠間市に帰っています。3月11日の地震にはじまり、津波に未曾有の被災、レベル7の原発事故と連なる一連の異常に怯えています。特に福島第1原発から約100kmの当地では、全世界のメディア同様に、燃料棒・格納容器に対する「止める、冷やす、閉じ込める」方策推移に一喜一憂です。関係者の努力と成功を祈ります。 原子力エネルギーから自然エネルギーへドイツでは原発推進が国民投票で破れ、原子力エネルギーから自然エネルギーに開発の軸足を移しました。そのときの私の質問「WHY?」に対し、機械工学で著名なドイツのGash先生は、「年々技術者のレベルは下がり、原発技術は難しすぎるから、ドイツは撤退した。」と答えた。あの技術国のドイツでも、う~ん...たしかに。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 防衛大学校 名誉教授 松下 修己さんのその他の記事 2015/04/07 業界コラム 私の ISO 活動の始めと終わり 2011/07/05 業界コラム 人間業には奇跡が起こる? 2011/06/07 業界コラム 貧乏からの脱出 by 「数学」 2011/05/17 業界コラム 「東日本大震災」の経験 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月