防衛大学校 名誉教授

松下 修己

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初めに自己紹介を少し。私は日立製作所でサラリーマン生活を21年近く経験しました。48歳のときに大学に転出、17年間の教職(公務員)生活の後、去年定年になりました。趣味はゴルフで、今回はその話です。

海外の友人に宛てた私のXmasカード(教職時代)は毎年ゴルフネタ(サンプルを添付)でした。年末が近づくと今年のゴルフのスコアをまとめ、数式を駆使したり、学校生活のトピックスと無理矢理に結びつけたり、関西系ですから、とにかく少しオチを入れた話に仕上げるのに苦労しました。当時、米国人家庭教師がついていまして、彼女に「これが今年のXmasカードの原稿です」と渡すと、しばらく黙って目を通した後、くすっと笑い「very good」と言われると安心しました。教師は度々変わりましたが、どなたもユーモア好きで、こうすればもっと面白いと味付けが得意でした。完成品は、とても照れくさくて国内では使えないものでした。

サラリーマンのゴルフ

日立では技術畑に勤めていました。ご多分に洩れず、先輩サラリーマンからゴルフの手ほどきを受け、そのままのめり込んでいきました。小さいときから学校では野球少年で、親父の指導よろしくトラキチ(阪神ファン)で育ち、後年の子育て時代はお父さんソフトボールに熱心でした。このように一貫して唯一の趣味が球技でしたので、「ゴルフくらいは朝飯前・・・」と熱心に自己流で練習に励みました。1、2年してすぐに平均100前後の腕前にはなりました。

それから先は、ゴルフ経験を積み重ねましたが、成績は一進一退、可もなく不可もなく、競技志向のゴルフを目指していましたが、そのうちに懇親ゴルフに変質してしまいました。当初、「5年でシングル」などと豪語していましたが、目標未達でゴルフの奥深さを思い知りました。
この初心者時代がゴルフバブル最盛期(田中内閣のころ?)でした。練習場にはお客が溢れいつも満席状態、コースへの電話も繋がらないことが通常で予約に四苦八苦、かつ数万円の高いプレー費を払い、貴重な休日をゴルフで過ごす月1ゴルファーでした。バブルがはじけた今日とは隔世の感で、当時は全ゴルファーの気が狂っていたのでしょう。

ところで会社では、年に1度、工場を挙げて2コース貸し切りのゴルフコンペが開かれます。社員、業者など関係者も全員参加可能なオープンコンペです。本当にうまい人がいるもので、優勝者はシングルの人たちです。賞レースでは総じて、理論先行の設計技術者などはいつも蚊帳の外、仕事がきついはずの現場の方はなぜか巧いので、毎回感心していました。

自作ISO原案:ゴルフ成績評価法

公務員になってからプレーの機会は減りましたが、成績は少し良くなりました。ゴルフというのは不思議なスポーツで、「技術」よりも「精神」の持ちように可成り左右されます。確かにサラリーマン競争時代のストレスに比べると、私の公務員生活のストレスは皆無に等しいと感じました。その分だけ成績は良くなり、平均90台になりました。
この時代のMyスコアの歴史が図1です。これは2004年度末のXmasカードからの引用です。確かに1993年の転職を境に、データは右下がりになっていることが読み取れます。理系人間の常で、早速データの近似曲線を数学的に求め、シングルになる時を予測し、2005年という答えを導きました。もちろん、今日まで未達成ですが…。

この教職時代には、ISO活動に取り組み磁気軸受部門のワーキンググループ委員長をしていました。ISOでは機械の振動レベルをA/B/C/Dの4クラスに分類し、それは「good/okay/要注意/機械の即停止」に対応しています。世界の友人もISO活動の関係者が主でしたので、ISO規格に倣い、ゴルファーのクラス分け表を同図1右のように提案しました。例えば、ゴルファーの65%がクラスCに属し、「新しいクラブを購入して成績向上を!」ということで、ゴルフギヤーメーカの餌食となる層です。当時の私はクラスBに属し、「自己流では限界ですよ。プロに習え」の25%の層にいました。因に、クラスAのトップ5%層は「ゴルフやり過ぎでしょう。もっと、家族を大切に」、他方のクラスDは「もうゴルフはあきらめて、ほかの趣味をどうぞ」です。

図1. 左:スコアの推移と未来予測 右:自作ISO風ゴルファーの分類

そして、奇跡は起こった

さて、いよいよ本題で、2008年度末のXmasカードに載せたデータが図2です。
当時はHYBRID車の出始めで、私は燃費を実測していましたので、それとゴルフスコアを比較しました。HYBRID車はカタログ値30km/Lに比べ、赤線で示すように実測値は約17.5km/Lあたりに分布する。これが機械の実力で、ほぼ一定である。

他方、青線で示すゴルフスコアには「急変」が7月中旬に実際に起こりました。この急変は、例の工場を挙げてオープンコンペという一大イベント大会でした。この日は何をやっても巧く行くのです。OB方向に向かったボールは樹に当たってコースの方に戻ってきました。パターは打てばとんとんと入るのです。とうとう、最後にはシングル級のスコアで優勝してしまいました。仔細は添付の英文を読んで下さい。

図2. 2008年におけるゴルフとホンダCIVIC燃費の推移

この図2から結論:

「機械は正直、奇跡は起こらない。期待するな。よって、よく考えてしっかり設計せよ。精度よく加工製作せよ」

「人間業には奇跡が起こる。求めよ、さらば与えられん、馬券も然り」

毎年、このような自作小話をXmasに送っていました。あるとき、ウィーン工科大学教授を訪れました。研究棟廊下の掲示板で「最新研究ニュース」を拝見していました。唖然としました、その隣に私のXmasカードが貼ってあったのです。くだんの教授のいたずらで、「毎年、職場では君のカードを楽しみにしているよ」とのことで、本当に赤面しました。

今も、この優勝者の名前は会社の社員食堂のボードに、図3のように、刻まれています。この食堂で食べる定食も、私には格別です。

「日立1勝の次は、海外だ!」 皆さん、知っていますか? USオープンやUKオープンは日本でも予選会に参加できます。勝ち抜けば、石川遼選手と同じコースに立てるのですよ。
友人「戯言では、奇跡は無理ですよ。」 敬白「拝承。ご精読感謝。」

図3. 優勝者ボード@社員食堂とUSオープンの招待待ち