2016/06/07 業界コラム 増本 健 未来材料開拓の視点 No.2 東北大学名誉教授 公益財団法人 電磁材料研究所 相談役・グランドフェロー 増本 健 1932年生まれ。東北大学大学院工学研究科金属工学専攻修了。...もっと見る 1932年生まれ。東北大学大学院工学研究科金属工学専攻修了。東北大学金属材料研究所教授、同所長等を歴任。 退官後、財団法人電気磁気材料研究所所長、同理事長を勤め、現在は公益財団法人電磁材料研究所相談役・グランドフェロー、東北大学名誉教授。 アモルファス金属研究の第一人者で、準結晶、ナノ結晶などの研究にも従事。 20世紀は “物質文明” の時代であった。優れた機能を持つ新しい材料が次々と出現し、我々の生活を潤して来たことは言うまでもないことである。とくに20世紀前半に発明された特殊鋼、高分子、半導体、セラミックスなどの多様な材料の出現は、18世紀の産業革命以来発展して来たそれまでの鉄中心の重工業から社会と密着した精密・軽工業へと拡大させ、これによって個人の生活は豊かになり、消費社会へと移行させる結果となった。例えば、現在の自動車は、約百種類の材料の数千個の部品の集合体として製造され、人や物を運ぶ単なる運搬機械から安全で便利な生活空間のある機械へと変貌している。また、最近の電子機器製品では種々の材料が集積され、単機能から複合機能を持った高性能機械へと急速な進化を遂げ、情報通信やロボットなどの発展を支えている。 図 1 新素材開拓におけるパラダイム変換この様な目覚ましい物質文明の恩恵は、このままの勢いで21世紀後半まで続くのであろうか。この問い掛けに対してはやや否定的である。今後も物質文明の恩恵を受けるためには、省資源の観点から、物質の有効利用とリサイクル技術が重要な課題になってくる。また、環境や人体への有害物質の規制が一層厳しくなるのは間違いない。 従って、21世紀の材料研究は、これらの回避できない課題を十分に配慮した上で、高分子、セラミックス、半導体などの多様な材料を目的・用途に応じた最適な組み合わせ(システム化)とすること、すなわち “適材適所” が重要な課題になってくるとともに、高性能あるいは多機能を有する新しい材料の開発が強く求められる。 そこでは、材料開発に従事する研究者には新たな視点が求められよう。例えば、稀少元素や有害元素を含まない、しかもリサイクルが容易な材料の開発、ゼロエミッションを考慮した材料設計・プロセスの開発、適材適所の総合的判断による製品開発などである。 図 1 は、これからの材料開発者の視点の拡がりを図示したものであり、研究者は単に新しい材料の発明・発見のみでなく、開発した材料の人、社会、地球への波及効果と価値についても十分に考慮した広い視点での研究開発を進めることが大切であろう。 それでは、21世紀の材料の開発研究者はどのように研究を進めれば良いのであろうか。21世紀においては、前述のように、資源の枯渇、地球環境の汚染などの多くの課題の解決なくして人類社会の繁栄はあり得ない。これらの諸問題を解決するには、資源有効利用、クリーンエネルギー確保、環境保全などの技術の発展が鍵となることは言うまでもない。とくに、今まで “資源は無限である” と言う観点で材料開発が行われてきたが、21世紀では “資源は有限である” と言う観点のもとで、材料を効率的かつ有効に利用することを第一に考えなければならない。すなわち、物質がもつ機能を最大限に発揮させるような物性研究と、それを材料として最も有効に利用する技術の開発が重要になる。 図 2 次世代材料開発の方向 図 2 は年代による材料開発の方向と次世代材料開発の方向を示している。 20世紀に追究してきた材料開発の視点は、“より多く、より安く” が中心であり、主として材料の組織や組成の制御による機能向上が図られ、より強く、より小さく、より敏感でより器用な材料を開発してきた。そして、21世紀に入ると、さらに、より長持ち、より精密、より多様な機能に加えて、より生体的、知能的な機能性が求められつつある。このように、材料の機能への要求が益々高度化するに従って、材料開発を開発する手段も、構造制御、原子・分子制御からイオン、スピン、ホノン、エレクトロンなどの量子制御へと移行しつつある。 材料を構成する元素は 100 余種類しかなく、地球上に存在する元素量も限られている。しかし、その元素の組み合わせやこれら元素からなる構造は、もし人為的に自由に原子・分子を操ることが可能になれば無限にある。今後、新しい機能を実現させる物質設計法の確立と原子・分子操作法の開発から、機能性の源である量子制御へと進歩するであろう。そのアプローチの一つが “生体が持つ機能” の実現であろう。 今後も、新しい機能をもつ材料が多く発見され、21世紀の豊かな社会を支える重要な役割を果たすことを期待したい。それまでは地球上に存在する有限な資源を使い切らないで欲しいものである。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東北大学名誉教授 公益財団法人 電磁材料研究所 相談役・グランドフェロー 増本 健さんのその他の記事 2016/09/06 業界コラム 脳機能から見た教育とセレンディピティ No.4 2016/08/02 業界コラム 集団の中の個性 No.3 2016/06/07 業界コラム 未来材料開拓の視点 No.2 2016/05/11 業界コラム 私が歩んだ学者への道 No.1 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月