2016/08/02 業界コラム 増本 健 集団の中の個性 No.3 東北大学名誉教授 公益財団法人 電磁材料研究所 相談役・グランドフェロー 増本 健 1932年生まれ。東北大学大学院工学研究科金属工学専攻修了。...もっと見る 1932年生まれ。東北大学大学院工学研究科金属工学専攻修了。東北大学金属材料研究所教授、同所長等を歴任。 退官後、財団法人電気磁気材料研究所所長、同理事長を勤め、現在は公益財団法人電磁材料研究所相談役・グランドフェロー、東北大学名誉教授。 アモルファス金属研究の第一人者で、準結晶、ナノ結晶などの研究にも従事。 動物の生活行動を観察すると、常に多くの仲間が集まって行動する動物と、個々に独立して行動する動物とがある。例えば、海洋に生きる鰯、秋刀魚、いか等の魚や大陸に生きる縞馬、インパラ、水牛等の獣は常に集団で行動するが、一方鮫、蛸、亀やライオン、熊等は集団では行動しない。このような動物の行動は、永い年月の間に、個体独自の本能として身に付けた習性であろう。一般に、この集団行動は、弱肉強食と言う自然の掟の中で、身を外敵から守るための知恵とされており、この習慣は遺伝子の一部に本能として組み込まれていると考えられている。 人間の集団行動このような本能は人間においても例外ではない。人類は古代より集落を造り、お互いに協力して外敵から身を守りながら、分業による生活組織、すなわち社会を形成してきた。人間も、やはり本質的には、集団で行動する習性をもつ動物に属すると言うことができる。このような人間の習性は、現代では、民族として、また国家としての集団を形成し、また大小はあれ多くのグループにより構成される社会の中で生きている。 人間の個性と文明しかしながら、人間が他の集団行動する動物と著しく違う点は、一人一人が独自の個性を身に付けていることであり、高度に発達した頭脳により生み出される個々の意思と知能を備えている。永い歴史の中で発達した人類文明は、個々の優れた知能によって創り出され、それが社会の中で育成され、進歩してきたものである。すなわち、個性を持つ集団の力によって文明は発達したと言える。もし、人間が、個性を持たない単なる集団行動をする動物と同じであったり、あるいは孤立して単独行動する動物の習性をもっていたならば、今日のような高度な人類文明は生まれなかったに違いない。 個性と科学技術の発展科学技術の発展の歴史においても、その基となる大きな発見や発明は、個人の優れた知能によって生まれ、それが集団社会の中で具体化され、利用されることにより、新しい科学技術が育ってきたのである。すなわち、優れた知能を持つ個人の力によって芽が生まれるが、これは集団の力によって育ったのである。 わが国は、これまで基礎科学の面の貢献が少ないと言われている。とくに明治維新後の日本では、この傾向が強かった。その原因は、どちらかと言えば集団としての考えが優先される教育や社会になっており、個人の能力を十分に発揮される環境では無いからであると指摘されている。人間が本能的に集団行動する習性を持っているとしても、個人の力を引き出せる社会環境でなければ、独自の創造的な科学技術は生まれないと言えよう。これに対して、アメリカの社会では、個人の能力を重視する教育を行い、その個人の能力を社会の中で発展させる環境が整っており、その結果、世界をリードするイノベーションが次々に起こり、多くのノーベル賞受賞者を輩出しているのである。すなわち、アメリカは、個性を尊重すると共に、その個性を上手く育成する社会環境が整っている国であると言える。 日本の教育方法の改革今後、永年続いて来たわが国の集団としての教育を大きく改めて、幼児期から一人ひとりの個性を育成する個性重視の教育へと変換することが重要になっている。すなわち、“集団の中での個性を尊重する教育” を重視することが必要であろう。この教育方法の改革によって、将来、わが国独自の文化や科学技術が発展し、世界文明に大きく貢献する「尊敬される国」になることができよう。 集団は「力の発展」にはなるが、個性を持たない集団からは「知的発展」は生まれないのである。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 東北大学名誉教授 公益財団法人 電磁材料研究所 相談役・グランドフェロー 増本 健さんのその他の記事 2016/09/06 業界コラム 脳機能から見た教育とセレンディピティ No.4 2016/08/02 業界コラム 集団の中の個性 No.3 2016/06/07 業界コラム 未来材料開拓の視点 No.2 2016/05/11 業界コラム 私が歩んだ学者への道 No.1 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月