2018/09/04 業界コラム タック 川本 メジャーリーグの現場 ― 人生にコールドゲームはない ー No.1 国際ビジネス & スポーツアナリスト タック 川本 1943年 東京生まれ。 早稲...もっと見る 1943年 東京生まれ。 早稲田大学卒業後、南米アマゾン河で探索、研究生活をおくる。 米国にて国際情報社会学、インターナショナルスポーツファイナンシャルマネージメントを研究し、中西部を中心にビジネスコンサルタントとして活躍。メジャーリーグ、カンザスシティ・ロイヤルズのインターナショナル・オペレーション、ベースボールマネジメント、カナダのモントリオール・エクスポズを経て、ロサンゼルス・エンゼルスの国際編成に移籍。現在、日米で国際ビジネス&スポーツアナリスト、講演家、著述家としてテレビ、ラジオ、講演会などで幅広く活躍中。 [著書] 『これでメジャーリーグが100倍楽しくなる』(ゴマブックス)、 『いらない人は一人もいない』(ゴマブックス) アマゾンドットコムでベストセラー1位獲得!、 『アマゾンインディオの教え』(すばる舎)、 『メジャーリーグ世界制覇の経済学』(講談社)、 『ビッグリーグ、ビッグゲーム』(日刊スポーツ出版社)、 『メジャー流ビジネス成功鉄則』(中央公論新社)、 『新庄が「4」番を打った理由』(朝日新聞社)、 『メジャーリーガーになる本』(すばる舎)、など多数。 24 歳の時であった。以前からアマゾンのジャングルで自給自足の社会に興味を持っていた私は、生まれて初めてアマゾン・ジャングルの地を実際に訪れ、そこに住むインディオの生活に触れることができました。そしてその帰り道、大きな満足感に浸って、何気なしにアメリカ・サンフランシスコへと立ち寄り、そこで私は初めてメジャーリーグの試合を観戦しました。お金もあまり持っていなかったので安い外野席での観戦でしたが、5 万人の観衆がたった 1 個のボールの行方に熱狂するスタジアムの雰囲気に、私は文字通り圧倒されました。「ベースボールというスポーツは、これほどまでに人の心を感動させるものなのか」そうしてアマゾンの地で感じたものに勝るとも劣らない充実感が、私の中を駆け巡っていきました。 17 歳の時にある先輩から「君は何んで、何のために生きているのか」と質問されたことを思い出しました。 時は流れて現在、メジャーリーグの試合は、シーズン中になれば、ほぼ毎日、テレビで衛星放送を観戦することができるようになりました。そして、あの時私がサンフランシスコで感じた感動を今また多くの日本にいる人々へ提供しています。皆様の中にも「はじめは日本人選手がいるから興味本位で見ていたけど、やっぱりメジャーリーグは迫力が違うな」などと思ってくださる方がいらっしゃるなら、メジャーリーグに携わる一人の人間としてこれほどうれしいことはありません。実際にメジャーリーグでは、プロ意識の中、エンターテイメント、ショービジネスとして人々を楽しませる仕組み、環境を作り上げています。 本稿では超競争社会のメジャーリーグについて 9 つの視点でお話しします。今月は、第 1 から第 3 の視点です。 第 1 の視点 名選手は 1 日にしてならずメジャーリーグ エンゼル・スタジアム ワールドシリーズの盛り上り エンターティメント・ショービジネス 困難なことから始めてみよう野球の世界でもビジネスでも、人は己を知らなければ成長できない。現状の自分に足りないものは何か? 困難だと思われるものは、果たして本当に困難なものなのだろうか? 他人が困難だと言っているから、自分にも困難だと勝手に決めつけているのではないだろうか? 困難な目標を最初に建てることにより、自分の足りない部分のイメージを明確にすることこそ、自らを大きく育てるための第一歩なのである。たとえば、新人として営業部に配属された社員がいるとする。飛び込みでいろいろな顧客に対して、営業をかけなければならない。その時に、まずは少ない件数を一軒一軒じっくり回り少しずつ慣れていくという方法では、なかなかの営業成績が、他の営業マンより抜きんでるということはないであろう。なぜなら同じ営業マンには、すでに何年も経験がある人がいることも多いからでしょう。 メジャーリーグでは一流選手を育てる方法として、まず 1000 段目を目指すことを教え、言い聞かせる。まずは世界の最高峰を目指すことにさせる。コーチたちはドラフトされたばかりの若手選手に厳しい口調でこう語る。「君たちは優れた選手として選ばれて今ここにいる。目標はあくまでメジャーリーグである。この目標だけは忘れてはならない」若手選手たちもコーチの言葉に反応する。「そうだ、俺の目標はメジャーリーガーになることだ。マイナーリーガーで終わってしまうことではない」 1000 段目の階段がメジャーリーグとする。階段の途中はマイナーリーグと呼ばれ、ルーキー、1A、2A、3A、と四つの段階に組織されている。ドラフトされたばかりの選手は、まだ階段の下にいる、といったところだ。メジャーリーグの各チームは、3A、2A、を各 1 チームずつ、1A とルーキーは複数のチームを持っている。合計すると七から八チームとなり、その選手の層の厚さと裾野の広さを誇る。メジャーリーグの一球団に所属する選手の数は、傘下のマイナーチームを含めて約二百二十人からから三十人、大きく分けると、八十人の投手、残りの百五十人が野手である。野手のポジションは八つ、計算上では一つのポジションに十九人の選手がいることになる。もし自分が遊撃手であれば、そこには十八人のライバルがいて、同じようにメジャーリーグの遊撃手のレギュラーの座を狙っているわけだ。だが、実際にその目標をかなえるのは、ほんの一握りの選手で、ほとんどの選手は 1000 段目を踏むことなく、つまりメジャーリーガーになることなく選手生命を終えていく。球団に所属する選手のうちメジャーの選手枠に登録できるのは二十五人に過ぎない。メジャーリーガーになれるのはたったの 10 パーセントである。困難な練習を最初にすることによって、選手たちは自らボールを捕りに行くという意識を、言葉ではなく身体で知ることができる。ひいてはメジャーリーガーとしてお客様に驚きと感動を与えるにはどうすればよいか、ということを身体で自ら知ることができる。己を知らなければ成長することができない。一緒に階段を上がってきた仲間の中には、余儀なく階段を下りて行かなければならない者もいる。悪魔の壁と闘いながら 1000 段の壁を目指すことは困難なことでもある。しかし、困難なことこそやりがいと価値がある。 ロスアンゼルス・エンゼルス スプリングキャンプの選手達まずは困難な目標を立ててみようではないか。困難を乗り越えることによって、より価値の高い未来を手に入れることができる。「名選手は一日にしてならず」 、「ローマは一日にしてならず」、「またメジャーリーガーも一日にしてならず」。 第 2 の視点 失敗から自分流の成功をつかみ取るカンザスシティ・ロイヤルズ キャッチャー・ミーティングコーチは自ら教えないあなたが会社で一番信頼している先輩や上司のことをイメージしてほしい。彼らが仕事のやり方などで試行錯誤しているとき、何も言わずに、すぐにその部分を指摘してくれて、親切にその答えを示してくれるだろうか? ここで大半の人は「イエス」と答えるはずである。そして、そのように親切だからこそ、いわゆる「いい先輩」「信頼できる上司」であると考えているからである。でももう一度考えてほしい。本当にそれが信頼できる人なのだろうか? 私が、カンザスシティ・ロイヤルズで仕事をしていたころの話である。ホセ・タータブルというルーキーチーム専門のコーチがいた。彼は三十五年の経験を持つベテランコーチでもあった。彼の息子ダニー・タータブルはかつてシカゴ・ホワイトソックスプレーしていたこともあり、タータブルコーチは若い選手たちを自分の息子のように扱い、その指導の様子は極めて印象深いものがあった。あるシーズンのスプリングキャンプに、日本のプロ野球球団のコーチと日本人選手がアメリカの野球を少しでも肌で感じようと参加していた。 日本から来たコーチには、アメリカのコーチの指導法には日本とのどのような違いがあるのかを知りたいという目的があった。マイナーの選手に混じって、日本人選手がバッティング練習をしていた時である。ピッチャーのボールが日本より速いせいか、その現役選手のバットはすべて振り遅れてしまい、すべての打球がファールゾーンに切れ、白線の外側へと飛んで行ってしまった。選手は自分のバッテングフォームのどこに欠点があるのかわからなかった。「打球がどうしてファールゾーンに切れてしまうのですか」「どうしたらいいでしょうか」と日本人選手がコーチに尋ねた。「そうだな、あそこにいるアメリカ人コーチに聞いてみようじゃないか。その時日本人コーチが、タータブルコーチに近づいて、選手についてアドバイスをするように求めた。するとタータブルコーチは右手の人差し指で自分の目を指して短い言葉で言った。「目を開いて見たらいい」日本人コーチも、選手もどう反応してよいのかわからなかった。二人はメジャー球団のベテランコーチが、選手の打球がファウルになる理由を得意げに詳しく教えてくれるものと思っていたから、タータブルコーチの反応には戸惑いを隠せなかった。きょとんとする二人にタータブルコーチは、今度は違うアドバイスをしてきた。人差し指で頭を指して二度繰り返して笑顔で言った。「頭を使って考えなさい」「頭を使ってですよ」またまた二人は呆然と立ち尽くすばかりだった。日本人コーチはタータブルコーチに質問した。「なぜファールになるのか、教えてくれないのですか、なぜ質問したことに対してアドバイスを与えてくれないのですか」。すると、タータブルコーチは笑いながらこう答えたのだった。「アドバイスはしっかりしましたよ。『自分で考えて、答えを見つけてみなさい』という言葉が最高のアドバイスですよ。成功者の真似をするなよ。マグワイヤやソーサの真似をしていたら、それ以上の結果は一生残せないぞ」。徹底的に悩んでみる。自分の頭で考えてみる。何度でも自分と向き合ってみる。そこから自分流を見つけるのだ。だから手取り足取り教えてくれる人間など必要ない。プロは自分流、自己流を見つけ出す。メジャー流「コーチが教えないのが教え」なのだ。 第 3 の視点 目標は細分化して考えよカンザスシティ・ロイヤルズ時代の筆者大きなことは細分化して考える人は大きな目標を前にすると、その目標が大きければ大きいほど、ひるんでしまうものである。あなたは仕事で、社運をかけるような重要なプロジェクトを任されることになった。みんなの期待を一身に背負う。任されたチャンスなのだから、あなただってもちろん成功させて、上司から評価されたい。でも、それだけ大きな仕事であれば困難やトラブルが次から次へとあなたに襲いかかることだろう。どうにもならないと逃げだしてしまいたくなることもあるだろう。しかし、それはその大きな目標を「一つの大きな目標」と考えてしまうからである。そのような考え方は、昨日までのあなたの考え方としよう。 今日からは、その目標は『小さな目標の塊』だと思えばいい。要するに目標を細分化して考える癖をつけてしまえばいい。どんな大きな山でも、一歩一歩登れば必ず頂上にたどり着けるのである。焦ることはない。自分のペースで、自分流で登っていこう。メジャーリーガーを目指すものにとっても、ビジネスで一流になろうとする者にとっても、どちらにも共通して言えることである。しかも、その見据えた目標が高ければ高いほど、その困難は高く険しいものになる。しかし大きいからと言ってひるむ必要など全くない。どのような大きな目標でも、それを克服するための手段は必ずある。大きな目標をまず、できるだけ細分化して考えてみることだ。不確実な部分や見えない部分はとりあえず置いておき、自分の到達しそうな目標を見据えること。このように頭を一度整理してみるとよい。 不確実なものは受け入れない。 目標をできるだけ細分化する。 認識しやすいものから複雑なものへと順序を想定して進む。 全体を振り返り完全な列挙を行う。 この考え方はデカルトの良識「理性」の四つの法則からきている。メジャーリーガーなら誰しも、成功をつかみ取るために実践してきた基礎的な方法論である。またメジャーリーガーを育てる球団のプレーヤーズディベロップメント「選手育成課」の選手育成論にも応用される考え方でもある。カンザスシティ・ロイヤルズのプレーヤーズディベロップメントで部長を務めていた、ジョー・クラインは、選手育成について次のように語った。 「選手育成課の役割とは、選手を熟成させること、といってもいいでしょう。扱う選手各々育ってきた生活環境も違えば、ベースボールをやってきたバックグラウンドも違います。いくらドラフトという一定枠をクリアして入団してきたからといっても、ベースボールの実力も、人間性も人によって違うのは当然です。私もロイヤルズ時代見てきた中で、『選手各々、才能も実力も違うものです。選手育成する初期の段階では、彼らの才能を伸ばすためにあったプログラムを作ります。全選手同じマニュアルの下で同じように養成することはできません。彼らをすべて同じように育成したとしても、同じように成長することは不可能です。選手それぞれの長所も違えば、成熟する期間も異なります。一流のメジャーリーガーになるまでには、その選手に何が不足しているのか見極めていくことが重要なのです。重要なのは、メジャーに昇格するまでの期間は長短さまざまでも、メジャーで活躍するための精神力や身体能力を、マイナーで鍛えることです。』」 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 国際ビジネス & スポーツアナリスト タック 川本さんのその他の記事 2018/12/04 業界コラム メジャーリーグの現場 ― 人生にコールドゲームはない ー No.4 2018/11/06 業界コラム メジャーリーグの現場 ― 人生にコールドゲームはない ー No.3 2018/10/02 業界コラム メジャーリーグの現場 ― 人生にコールドゲームはない ー No.2 2018/09/04 業界コラム メジャーリーグの現場 ― 人生にコールドゲームはない ー No.1 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月