国際ビジネス & スポーツアナリスト

タック 川本

1943年 東京生まれ。

早稲...もっと見る
1943年 東京生まれ。

早稲田大学卒業後、南米アマゾン河で探索、研究生活をおくる。

米国にて国際情報社会学、インターナショナルスポーツファイナンシャルマネージメントを研究し、中西部を中心にビジネスコンサルタントとして活躍。メジャーリーグ、カンザスシティ・ロイヤルズのインターナショナル・オペレーション、ベースボールマネジメント、カナダのモントリオール・エクスポズを経て、ロサンゼルス・エンゼルスの国際編成に移籍。現在、日米で国際ビジネス&スポーツアナリスト、講演家、著述家としてテレビ、ラジオ、講演会などで幅広く活躍中。

[著書] 『これでメジャーリーグが100倍楽しくなる』(ゴマブックス)、 『いらない人は一人もいない』(ゴマブックス) アマゾンドットコムでベストセラー1位獲得!、 『アマゾンインディオの教え』(すばる舎)、 『メジャーリーグ世界制覇の経済学』(講談社)、 『ビッグリーグ、ビッグゲーム』(日刊スポーツ出版社)、 『メジャー流ビジネス成功鉄則』(中央公論新社)、 『新庄が「4」番を打った理由』(朝日新聞社)、 『メジャーリーガーになる本』(すばる舎)、など多数。

本稿では超競争社会のメジャーリーグを 9 つの視点でお話ししてまいりました。今月は、Extra inning ということで「ベースボールチャペル」についてお話しします。

ベースボールチャペル

メジャーリーグには、「ベースボールチャペル」と呼ばれるものがある。ベースボールとチャペル、いったいどんな関係があるのか、想像もつかない人が多いかもしれない。ベースボールチャペルとは 1973 年にワトソン・スポレストラ博士によって設立された選手のためのチャペル「教会」である。

教会は一つだけではなく、アメリカ、カナダ各地に散在するメジャーリーグ、マイナーリーグ、インディペンデントリーグに属する約 250 チームのフィールドに存在する。ベースボールチャペルといっても、教会の建物があるわけでなく、毎週日曜日の試合前、約 15 分から 20 分だけロッカールームやフィールドの隅で行われる青空教会といったところである。シーズン中は、毎日のように試合と移動が繰り返し続く。幼いころは毎週日曜日になると両親と一緒に教会に通っていたが、選手になると自分の自由な時間が極端に減り、自分を見つめなおす時間が彼らにはあまり与えられていない。そこで、選手たちが毎週日曜日に教会に行かれるように、人種や宗教に関係なく少しでも安らげる場所と時間を提供してあげたいと思いついたのがスポレストラ博士だった。

最初は選手が滞在しているホテルの一部屋を借りてベースボールチャペルがスタートした。その後、メジャーリーグコミッショナーをはじめ、アメリカンリーグとナショナルリーグから正式な認定をうけ、アメリカとカナダでベースボールチャペルの活動が開始した。そして、瞬く間にマイナーリーグ、インディペンデントリーグへと浸透していった。ベースボールチャペルには、各球団にチャペルの代表を務める牧師が人生について説き、スポーツ各界で活躍していた元選手をゲストとして招き、選手たちに「人生の訓え」を語りかける。

 プロの選手として活躍し、大金を稼ごうとすると様々な壁にぶつかる。スランプ、ケガ、プレッシャーなどフィールド上だけでなく、自分の生活や家族のことなど無数の壁だらけである。スターになればなるほど社会からの注目度が増し、結果が伴わないと「もう、それまで」というのがプロの世界。年間ホームランを七十本打っても、一シーズン二十勝するスター選手も所詮、生身の人間である。テレビや雑誌の中では、誰もがうらやむ生活や仕事をしていても、彼らには自分だけでは解決できないものが沢山ある。悩めば必ずプレーに出てくる。その一瞬のうちにちょっとしたエラーやケガが引き金になって選手生命が終わってしまうこともある。選手は、常に自分との闘いを強いられている。一流プレー、一流の人間になることに対して、惜しみなくひたむきな努力を続ける。その積み重ねが、自分への自信となり、社会から評価されたものが現在の自分の位置づけということになる。

 ワールドシリーズで三度の優勝経験を持つ元ニューヨーク・ヤンキースのキャッチャー、ジョー・ジラーディは言う。

「チャペルは俺たちにとって大切なものであり、精神的な支えになっていたことは間違いない。ルーキーだった俺が、シカゴ・カブスのメジャーリーグチームに昇格したばかりの時、かなり悩んでいた時期もあった。その時ベースボールチャペルに参加した牧師やゲストスピーカーの体験談を聞いて、その時のオレの気持ちに共感できるものがあった。だから、今の俺があるのだと信じている。」
 一流のメジャーリーガーでも、自信を失ったとき、がっくりと肩を落とす時もあるだろう。せっかく一生懸命頑張ってきたのに、誰も認めてくれない。そんな時が一生涯の中には誰にでもある。しかし、失敗や挫折は失点でもないし、汚点でもない。あきらめない自分がいる限り、失敗した時の自分を笑える日が来る。失敗から学んだことをゲームの中で上手に生かせる日がやってくる。