国際ビジネス & スポーツアナリスト

タック 川本

1943年 東京生まれ。

早稲...もっと見る
1943年 東京生まれ。

早稲田大学卒業後、南米アマゾン河で探索、研究生活をおくる。

米国にて国際情報社会学、インターナショナルスポーツファイナンシャルマネージメントを研究し、中西部を中心にビジネスコンサルタントとして活躍。メジャーリーグ、カンザスシティ・ロイヤルズのインターナショナル・オペレーション、ベースボールマネジメント、カナダのモントリオール・エクスポズを経て、ロサンゼルス・エンゼルスの国際編成に移籍。現在、日米で国際ビジネス&スポーツアナリスト、講演家、著述家としてテレビ、ラジオ、講演会などで幅広く活躍中。

[著書] 『これでメジャーリーグが100倍楽しくなる』(ゴマブックス)、 『いらない人は一人もいない』(ゴマブックス) アマゾンドットコムでベストセラー1位獲得!、 『アマゾンインディオの教え』(すばる舎)、 『メジャーリーグ世界制覇の経済学』(講談社)、 『ビッグリーグ、ビッグゲーム』(日刊スポーツ出版社)、 『メジャー流ビジネス成功鉄則』(中央公論新社)、 『新庄が「4」番を打った理由』(朝日新聞社)、 『メジャーリーガーになる本』(すばる舎)、など多数。

本稿では超競争社会のメジャーリーグについて 9 つの視点でお話ししています。今月は、第 4 から第 6 の視点です。

第 4 の視点 プラス思考など意味がない

2002 年 球団創立 42 年目のワールドチャンピオンリング タック川本の名前入り

プラス思考よりリラックス

あなたが仕事でミスをしたとき、同僚や先輩などからこんな声をかけられ、励まされた経験はないだろうか?

 

「ドンマイ、ドンマイ、今日はたまたまミスをしてしまっただけだ。くよくよするな。プラス思考で物事を考えれば、次はうまくいくって」プラス思考で考えれば、絶対うまくいく。

この考え方は日本の教育者をはじめ、ビジネス界やスポーツ界 など、どのような世界においてもポピュラーな考え方として日本人に定着している。そこで、「その考え方の根拠はどこにあるのですか?」 と質問を投げかけてみると、たぶん的確に返答できる人は少ないのではないでしょうか。プラス思考ですべてがうまくいくのなら、人間は向上心など持つ必要がないのかもしれません。

メジャーリーグのトレードは日常茶飯事 出典:タック川本著「これで、 メジャーリーグが 100 倍楽しくなる!」

冬でも温暖なフロリダ州セントピーターズバーグでのオープン戦、ヤンキースに入団したばかりのチャック・ノブロックは、晴れ上がった空のように明るい表情でバッティング練習に集中していた。どの打球も鋭く外野方向へ飛んで行った。私がノブロックと初めて出会ったのは、日米野球で来日している時だった。福岡での試合前の練習中に、彼が私の方に近づいて何やら恥ずかしそうな笑顔で話しかけてきた。

 

「ちょっと、お願いしたいことがあります。よろしいでしょうか」

「ええ、いいですよ」

 

私は彼の紳士的な態度に応える様に言った。

 

「実は、ミスター・サダハル・オーのサインが欲しいのです。もしできたらこのボールにサインをいただいてきてもらえないでしょうか?」

ブロック選手の希望を叶えるために私は、ミスター・オーにサインをいただき、ボールを持って彼に手渡した。

 

「ありがとうございます。本当にありがとうございます。大好きな選手にサインをもらえるなんて夢のようです」

 

そんなブロックが、ある日、トレードされたことを知った。移籍先はロイヤルズだった。最初は大活躍をしていたが、オールスター戦後成績は下降気味で、多くのファンは「ヤンキースのノブロック、彼は一体どうなったんだ」 「あれじゃあ、メジャーリーガーと呼ぶに呼べないね。どこか身体? それとも頭の具合でも悪いのですか?」

 人間とは、すべてに健康を感じている時に、意外に重い病気にとりつかれることがある動物である。それは、自分は健康だと過信してついに無理を重ねてしまうからだ。成功するとウツ病になる。精神科医たちはウツ病を「成功病」と呼んでいる。人が急に成功や出世をすると、とたんに大きな責任がのしかかり、それがプレッシャーとなる。そのため、自分はこんな地位にいていいのだろうか、必要以上に心配と不安に駆られる。そして無意識のうちに自分が得た地位を傷つけ、破壊するような行動に出る。これは、失敗を恐れることからこういう状況に陥るのである。

 

人間はゴムと同じで、引っ張れるだけ引っ張りつづけると、いつかぷつんと切れてしまう。ぷつんと切れてしまうとウツの状態になる。切れる前に適当なところで手を離さなければならない。つまり、手を放すということは気持ちをリラックスさせることではないでしょうか。

第 5 の視点 敗北のメッセージを受けない

敗北のメッセージを受けず 16 年間 2632 連続試合出場 世界新記録のカル・リプケン選手

敗北のメッセージを受けない

お医者さんになりたい。歌手になりたい。弁護士になりたい。

プロ野球選手になりたい。パイロットになりたい。・・・・。

 

人間だれしも子供のころには夢を描く。「そういえば、小学校の卒業文集にそんなことを書いたっけ」と、幼いころの夢を思い出す方もいらっしゃるだろう。では、その夢はかなっただろうか、あるいはかなえようと必死に努力しただろうか。多くの人々は「ノー」というだろう。そんな夢を思い描いたことすらいつしか忘れて、まったく別の道を歩いてきたのではないだろうか。アメリカ人と比べてつくづく思うのは、日本人は『敗北のメッセージ』に弱すぎるという点だ。「医者になるのはお前の頭じゃ無理だ」「野球をやるには足が遅すぎる」「体が小さすぎる」など周りの人が発した何気ない言葉を真に受けて、「やはりオレには医者は無理だ」「野球選手になんかなれっこない」とチャレンジもしないで、白旗を揚げてしまうのである。

選手としてはあまり芽がでず、マイナーリーガーとして終えた友人がいる。彼には幼いころからの二つの夢があった。一つは野球の選手になること、そしてもう一つはレストランのオーナーになることだった。引退後、何を職業として生きていくかを考えた時、やはりレストランのオーナーになる道を選んだ。友人はレストラン経営に乗り出すことを家族や友人に告げた。すると、周りの人々は口をそろえてこう言った。

 

「お前は野球選手だったんだろう、食べ物や経営のことなんかわかるわけがないんだろう」「野球で人脈を持っているのなら、コーチとか監督とかテレビの解説者になるとか、野球関係の仕事でもしたらどうだい?」

「レストランのオーナーって大変だぜ。朝から晩まで気を遣うし、それに売り上げのことも考えなければならないし、借金だって返さなければならない。お前に経営なんか出来っこないさ」

 

しかし、友人はこの『敗北のメッセージ』を受けなかった。「俺は成功するのだ」と強く信じてイタリアンレストランをフロリダ州タンパに開業した。ウエイターは彼と同時に引退したジョークがうまく愛想のいいチームメイト、コックは自炊が得意だったルームメイトを採用した。開業と同時に元野球選手トリオのうまいイタリアンレストランとして口コミで広がり、みるみるうちに盛況となった。そして 3 年後には、州内にもう一店舗増やし、さらに 5 年後にはカルホルニア州とワシントン DC とニューヨークに一店舗ずつ持つようになった。最終的は、アメリカ各地に 15 店舗を持つイタリアンレストランの経営者となった。今はレストラン経営者として得た知識と経験をステップに、ビジネスコンサルタントとして活躍している。

 

彼がもし、周囲の人々からの敗北のメッセージを受けていたらこのような人生の展開にはならなかったはずだ。たとえ敗北のメッセージを聞いたとしても、「それがどうした。俺は野球が好きで、メジャーリーガーになるのが夢なんだ。そのためのチャレンジをオレはまだ十分にしていない。納得できるまでオレはチャレンジしつづけるつもりさ」と当然のように考えればよい。人の言うことなど関係ない。まずは「自分は何をしたいのか」と考えること、夢の追い方は人それぞれだ。野球が好きで才能があるのに「医者になるのが夢」という人もいれば、それほど才能があるわけでもないが野球が好きで、「メジャーリーガーになるのが夢」という人もいる。

 

夢は諦めてしまえば、その時点で終わりだが、諦めなければいつまでも継続する。夢は諦めた時終わるのである。

第 6 の視点 プロは反省しない

己を知っている人間は反省しない

誰にでも自ら犯したミスで落ち込むことがある。仕事でのミスなら、「明日は、できれば会社に行きたくない」と思ったり、友人には言ってはならないことをつい口を滑らせて言ってしまい、相手が憤慨してしまったときには、「あの人にはもう会いたくない」などと思ってしまう。そんな時、「自分の性格を変えられたらいいなあ」と望むことがある。もう少し落ち着いて行動できる性格になれば、ミスは起こさなかっただろうし、思ったことをすぐに口に出す性格でなければ、友人を傷つけるようなことはなかった。このような体験をしたことがあるだろう。

 実は、10 人中 8~9 人の人格は変えることができる。人格とは感情、姿勢、信念で形成され、それが自分にとって創造されているのである。人格を作り上げたのも自分であれば、自分の中で保っているのも、そしてそれを壊すことができるのも自分次第といえる。自分のことを研究すればするほど自分を知ることができる。決して感情だけではなく、論理的に自分を見つめることで、自分を成長させることさえ可能である。

ベネズエラ出身のアンドレス・ガララーガ選手 ハンディーを乗り越え遅咲きでホームラン王になった(タック川本と共に)

ボストンレッドソックスのリリーフ投手として活躍するベネズエラ出身のアーゲット・ウルビーナは、マイナーでプレーしていたころこんな経験をした。

 

モントリオール・エクスポスの傘下の 2A チーム、ハリスバーグ・セネタースのピッチャーだった。

ゲームは 2 対 2 の同点。九回裏二死満塁という場面でウルビーナはマウンドに立っていた。手からボールが離れた瞬間、ウルビーナめがけてバッターの打ったボールが目の前にゴロで飛んできた。ピッチャー返しだった。ウルビーナは、ボールを捕球して一塁に投げた。打者はウルビーナが思っていた以上に俊足だった。アンパイアが、大声で、「セーフ」と言った時には唖然とした。そして観衆から拍手で沸きあがるのが聞こえた。ウルビーナには、ボールを捕球した瞬間「これでゲームは終わりだ」という安堵感があった。一塁に走った打者がちらっと眼に入り、ボールは一塁手のグラブに上手く入ったと思ったが結果はセーフ。おそらく安堵感を感じた瞬間に気持ちがスッと抜けてしまい、アウトにできたはずのものがアウトにできなかったのだろう。相手チームは一点が入りゲームは終了、ウルビーナは敗戦投手となった。

ゲーム終了後若いコーチが強い口調でウルビーナを呼び止めた。「おい、お前、今日は宿舎に戻ってよく反省しろ」この一言がウルビーナの心を沈ませることになった。と同時に彼にある意識を芽生えさせた。

 

「反省してみろ、といってもミスについて反省するのはわかるが、それがどうすればよいのだろう反省することによって何が解るのか?  何が見えてくるのだろうか?  まあとりあえず今日のオレのミスはなにが原因だったのだろうか考えてみよう」原因を突き止めるためにペンを出しノートに書きだしてみた。1-ボールをとってからのスタートが悪かった。2-グラブの出し方が悪かった。3-練習を怠った。4-、5-、、、いくつかの原因が頭をよぎり、ついにノートは二ページ分にもなった。二ページ目には、ピッチャー返しのボールの処理ミスが原因ではなく、「俺にはベースボールの才能がなかった」「アメリカなんかに来なければよかった」という項目になっていた。

 

ゲームのミスを反省しているうちに、最終的にはミスの原因を突き止めるのではなく、いかに自分が無能な人間なのか、ということまで考えるようになってしまった。

 

これはウルビーナだけではなく、どの人間にも当てはまることだ。悩みを解決しようとしているうちに何が原因だったのか、と突き詰めていき、最後には「自分はなんて情けない人間なのか」「私は生きていく価値のある人間なのか」と、自分の人間性を疑うような方向にまで発展していく。ここまで来てしまっては、ミスの原因を追究してきた意味がなくなってしまう。結論はウルビーナがボールを捕りに行ったのも、アウトにするためのものだった。ゲームに勝つためのものであり、メジャーリーガーになるためのものでもあった。ただ結果的にはうまくいかなかったものの、うまくボールを処理しようとする気持ちはウルビーナの潜在意識の中にあった。

 

プロは反省することが仕事ではない。

反省するよりもプロ意識を高めることで、それが自然と行動に表れてくるものだ。

 

ウルビーナがメジャーリーガーとして成功しオールスター選手にまで上りつめた事実が、彼の『反省はしない』という行動の意味を物語っている。