新川電機株式会社

白井 泰史

ST製品企画室...もっと見る ST製品企画室

私たちが身の回りで、普段、何気なく利用している電気製品、機械装置や移動システムには、モータなど回転部や摺動部の接触、摩擦を軽減し長期間、滑らかに維持するためにいろいろな工夫がなされています。その代表的な仕組みの一つが「転がり軸受(ベアリング)」で、回転体の重さを支え、摩擦を少なくするために大小、様々な機械、装置に利用されています。
また最近では磁気を利用して物体を空間に浮かし、接触や摩擦を発生させない磁気浮上技術が実用化され、多くの分野で応用が広がっています。この磁気浮上の制御には当社の渦電流式変位センサが使用されており、それらの代表的な例をご紹介します。

磁気浮上式鉄道

日本で初めての磁気浮上による営業路線は、Linimo(リニモ)の愛称で親しまれている愛知高速交通株式会社様の東部丘陵線(藤が丘駅-八草駅間 8.9 km )で、2005年の日本国際博覧会「愛知万博 / 愛・地球博」(略称)では、メインアクセスとして活躍、注目されました。
当時は、動くパビリオンとしても話題を集め、万博終了後も快適な地域の足として活躍し続け、2022年11月には愛・地球博記念公園内に新たにテーマパークが開園されるなど、沿線の発展にも貢献している路線です。(写真1,図1,図2)

写真1. Linimo(リニモ)
【出展:愛知高速交通株式会社ウェブサイト】
図1. Linimo(リニモ)の距離・時間
出展:愛知高速交通株式会社ウェブサイト
図2. Linimo(リニモ)の路線図
【出展:愛知高速交通株式会社ウェブサイト】

磁気浮上式鉄道の仕組みとメリット

リニモは、3車両1編成による全9編成で運行されています。リニモの各車両下部には左右5組(10台)のU字型電磁石が搭載されており、この電磁石の吸引力によって車両を浮上させると同時にレールに沿った走行案内の役割を果たしています。
電磁石とレールの隙間は、走行中や乗車人数などによって変化するため、各電磁石の上部に取り付けられている渦電流式変位センサによってレールとの距離(ギャップ)を計測し、常に浮上量が約 8 mm に保たれるように電磁石の電流を調整し、吸引力を制御しています。(図3)
このようにリニモは、空間に浮上し、リニアモータによる推進走行のため、低速から最高速度、時速約 100 km の走行中でも振動や音が極めて少なく、乗客の快適な乗り心地はもちろん沿線への騒音もなく、地域の住環境にも優しい交通システムです。
また磁気浮上式鉄道は、車両、軌道の劣化要因となる接触、摩耗がなく、振動、衝撃などの外力が極めて小さいため、保守費用が低減できるなどのメリットがあります。

図3. 浮上・推進の仕組み
【出展:愛知高速交通株式会社ウェブサイト】

磁気浮上制御と渦電流式変位センサ

リニモの磁気浮上制御には当社の渦電流式変位センサが使用されています。
当社では、磁気浮上式鉄道の開発時より、実用化に向けた鉄道システム、車両の長期間の試験運転を共にし、磁気浮上制御用として求められる渦電流式変位センサの信頼性、安定性、メンテナンス性の向上に取り組んできました。

渦電流式変位センサは、センサ先端部のコイルから発生させた高周波磁界により、ターゲット(導電体)に渦電流を発生させ、距離(ギャップ)によるコイルインピーダンスの変化を利用してターゲットとの距離を非接触で正確に測定します。渦電流式変位センサは、微小な距離変化に対する感度と高速現象への応答性も高く、センサとターゲットの間に水、油、埃のような非導電体が介在しても測定に影響を受けないと言った特徴があります。またリニモに使用されているセンサは、夏季にはレールからの輻射熱による高温環境、冬季には氷点下となる低温環境にさらされ、またセンサへの直接の風雨、積雪などの条件で使用されるため、高い耐環境性能を持たせた磁気浮上鉄道に最適なセンサ仕様としています。

渦電流式変位センサの原理と特徴

渦電流式変位センサついて詳しい情報は、『渦電流式変位センサの原理と特徴』で紹介しています。是非、こちらもご覧ください。

磁気軸受

磁気軸受は回転軸を電磁石の吸引力で軸受の中で浮上させることにより、非接触で摩擦のないスムーズな回転を得ることができます。
リニモの磁気浮上と同様に、渦電流式変位センサでターゲットとなる回転軸の浮上位置を測定し、磁気軸受内の回転軸の中心が軸受中心と一致し、過大な振動が発生しないように電磁石への電流を制御します。(図4)

図4. 磁気軸受制御、制振制御(イメージ)

磁気軸受を使用した回転機械は、振動が少なく高速回転が可能であることから、産業用の遠心圧縮機、遠心分離機などに使用されています。
また、潤滑油を必要としないため、真空、極低温環境など特殊環境で使用されるポンプなどの回転機械にも利用され、クリーンな環境下で小型化も可能であることから医療分野への応用も進んでいます。

渦電流式変位センサへの外部磁界の影響

磁気浮上では電磁石の吸引力を利用しますが、渦電流式変位センサもその強い磁界の中で使用されます。また、渦電流式変位センサ自体も、センサから高周波磁界を発生させてターゲットとの距離(ギャップ)を測定しているため、磁界の影響とその対策について紹介します。
まず、当社の渦電流式変位センサ自体は、外部磁界の影響を受けないことが確認されています。
しかしながらターゲット(導電体)が磁性体の場合、磁界の方向(Y)によっては磁化され影響を受ける場合があります。(図5)
このような場合にはターゲットを非磁性体材でメッキ処理するか、回転体の場合、測定部に非磁性体のリングを嵌めるなどすることによって磁界の影響を受けなくすることができます。

図5. 渦電流式変位センサの外部磁界の影響

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