新川電機株式会社

白井 泰史

マーケティング部 ST推進企画...もっと見る マーケティング部 ST推進企画

前回の「鉄道の安全と渦電流式変位センサ (その1 軌道検測) 」では、電気・軌道総合試験車 (以下「電気・軌道試験車」という)に搭載された当社の渦電流式変位センサにより、365日、日々変化する(軌道レール)の軌間 (左右のレール幅) 、および乗り心地への影響が大きく、蛇行の要因ともなる通り狂い (レールのゆがみ) を測定している事例を紹介しました。1)

今回ご紹介する地点検知センサは渦電流式変位センサの応用で、電気・軌道試験車の走行位置情報を正確に把握するために新幹線の軌道上に設置された地上子 (以下「キロポスト」という) を冬季の積雪区間でも積雪、氷着の影響を受けることなく、確実に検知するために開発されたセンサです。現在、本センサは、電気・軌道試験車だけではなく、軌道保守用車両や新型車両開発時、さらに新幹線の延伸時にも利用され、鉄道の安全に寄与しています。

写真1 新幹線電気・軌道総合試験車
(East-i : 東日本旅客鉄道株式会社様)

写真2 冬季の軌道状況

新幹線のキロポスト

写真3 東京駅新幹線ホーム上の「0 km POINT」表示

東京駅の新幹線ホーム上には、東京駅からの起点を示す「0 km POINT」と記された案内が表示されている箇所があります。 (写真3) そして、この「0 km POINT」を起点として、新幹線の軌道上に1 km毎に定点位置を示すキロポストが設置されています。

電気・軌道試験車で測定された検測データは、電気・軌道の保守計画・整備、整備後の状態確認に利用されるため、その位置情報には高い精度が求められます。通常、車両の走行位置情報は車輪の回転数などによって求められますが、車輪の摩耗状況、空転などによって走行中に誤差が累積されてしまいます。
電気・軌道試験車の検測システムでは、位置データの累積誤差を無くすために車輪の回転数による距離計測区間を1 kmとし、定点に設置されたキロポストを通過するごとに区間距離がリセットされ、東京駅 (0 km POINT) からの正確な位置情報となるよう補正されています。

当社の渦電流式地点検知センサは、最高速度275 km/hで走行する新幹線電気・軌道総合試験車 (East-i) に搭載されており、約20 cm角の導電体 (金属) で出来ているこのキロポストを検知し、区間距離をリセットするための信号を出力しています。

写真4 新幹線電気・軌道総合試験車 (East-i) と軌道上に設置されているキロポスト
(軌道試験車の前方のレール間に設置されているのがキロポスト)

渦電流式地点検知センサの検出原理と特徴

渦電流式地点検知センサの測定方式 (原理) である渦電流式には高速で走行しながらキロポストを検知するアプリケーションに適した以下のような特徴があります。

  • ターゲット (測定対象物) は導電体 (金属) に限られている。
  • 非接触でターゲットの変位が計測できる。
  • 応答周波数が高く、ターゲットが高速で変位しても追従して測定できる。
  • 絶縁体を感知しないため、水や油などがセンサとターゲットの間に介在しても影響を受けない。
    したがって、軌道上の積雪やセンサおよびターゲットへの氷雪の付着があっても影響を受けずに測定できる。
  • センサは低温から高温環境下に設置可能で、通年で使用・測定できる。

この特徴を活かした当社の渦電流式地点検知センサは、レールの軌間、通り狂いを測定する渦電流式レール変位センサと同様、新幹線電気・軌道総合試験車 (East-i) の軌道検測用車両の床下に搭載されており、軌道上に設置されたキロポストをターゲットとしてキロポストの表面から約20 cmの高さとなる位置に取り付けられています。 (写真5)

写真5 新幹線電気・軌道総合試験車 (East-i) の床下に取り付けられた各種軌道検測用機器
(写真ご提供:日本線路技術株式会社様)2)

写真6 当社製渦電流式点検知センサ

写真5のセンサと装置位置
写真中央部の丸い部分:当社製渦電流式地点検知センサ (写真6)
写真左側のレール上部:当社製渦電流式レール変位センサ
その内側 (指さしている部分) :レーザ (光学式) レール変位検測装置

新幹線電気・軌道総合試験車 (East-i) に搭載された渦電流式地点検知センサは、センサ先端のコイルからから高周波磁束を発生しながら走行し、この高周波磁束が約20 cm角のキロポスト上を通過します。この時、金属製のキロポスト表面に渦電流が発生します。275 km/hでの走行時、センサがキロポストの上を通過する時間は、わずか0.003秒 (1000分の3秒) 未満ですが、センサはキロポストで発生した渦電流によって生じるセンサコイルのインピーダンス変化を受け、キロポスト上を通過したことを検知し、信号処理しやすい時間幅を持ったパルス信号に変換し出力します。 (図1)

図1 キロポスト (地上子) と渦電流式地点検知センサ

渦電流式変位センサの測定原理と特徴の詳細については当社技術者コラム「渦電流式変位センサの原理と特徴」をご参照ください。

新幹線保守用車両と渦電流式地点検知センサ

鉄道の安全走行を支える軌道、電気系の保守管理業務は、電気・軌道試験車により計測された検測データにもとづき、主に新幹線の営業走行時間外の夜間から早朝にかけて行なわれています。その限られた時間内で保守業務を安全、正確かつ効率的に行なうため自動化された様々な軌道保守車両が開発され活躍しています。

写真7 新幹線保守用車両 (一例)

鉄道事業各社では、安全対策に万全を期して技術開発、改良が行なわれており、その中で新幹線保守用車同士の衝突防止など保守作業の安全システムにも当社の渦電流式地点検知センサが採用、運用されている事例をご紹介します。

この安全システムでは、新幹線電気・軌道試験車 (East-i) と同様に渦電流式地点検知センサからのキロポスト検知信号により、車輪の回転数と回転 (走行) 方向によって求められた走行位置の補正を行ないます。
車輪の回転方向は、回転数を計測するために車軸に取り付けられた歯車(ギア)に、歯車の凹凸を検知するセンサ、例えば渦電流式変位センサあるいは電磁式回転ピックアップを2個、取り付け、2つのセンサで検出する回転パルスの位相差によって方向を検知することができます。 (図2)

図2 歯車による回転数と回転 (走行) 方向の検知

この正確な位置情報とともに走行方向、スピードを含めた作業安全関連情報として各保守用車から無線により発信されています。そしてシステム上で保守用車同士ならびに作業者の情報が共有され、位置情報や車両のスピードによるアラームの発報、自動でブレーキ制御を行なうことで衝突回避、安全への支援が図られています。3)

写真8 新幹線保守用車両用地点検知センサ

新幹線保守用車両は走行速度が比較的低速であるため、保守用車に搭載されている渦電流式地点検知センサ (写真8) は、センサ内に電子回路を内蔵したコンパクトな新設計が行なわれており、汎用性を持たせ、レールの探傷用車両などの検測車両の地点検知センサとしても広く採用いただいています。 (表1)

表1 保守用車用渦電流式地点検知センサの概略仕様
測定速度範囲 10~120 km/h
地上子との距離 85~110 mm
出力 パルス出力 (地上子通過時:100 ms±20 ms)
電源 +12 VDC
センサ部周囲温度 -20~+50 ℃ (動作時)
センサ耐振性 JIS E 4031 5種 B種 140 m/s2 (14G参考値)

新幹線新型車両、新幹線延伸と渦電流式地点検知センサ

渦電流式地点検知センサは、これまでご紹介した営業中路線の電気・軌道軌道検測、保守用車両の安全システムだけではなく、新幹線の新型車両の開発時の走行試験や新幹線の延伸工事の走行試験、安全確認試験時にも使用されており、鉄道の安全に寄与しています。

写真9 東日本旅客鉄道株式会社様所有の次世代新幹線試験車両 E956型「ALFA-X」

写真10 2024年3月に敦賀駅まで延伸開業した北陸新幹線

渦電流式地点検知センサ開発の経緯

写真10 新川電機株式会社発行「新川技報1982年No.1東北・上越新幹線特集」

前回の鉄道の安全と渦電流式変位センサ (その1 軌道検測) でご紹介した通り、当社では東北・上越新幹線の開業 (1982年) 前の1979年、当時、日本国有鉄道の鉄道技術研究所様による「新幹線軌道検測車の全天候化」をテーマとしたプロジェクトに参画し、新幹線軌道検測車が210 km/hの高速で走行しながら冬季も軌道が雪に覆われ、氷着、雪の舞い上げにも影響を受けない軌道検測用センサ (渦電流式レール変位センサ) を開発しました。
また、同様に冬季の軌道条件においても影響を受けない渦電流式地点検知センサも同時に開発に着手されました。

氷着、雪の影響、210 km/hの走行速度に対しては、渦電流式という測定原理の既存技術が応用できる一方、約20 cm離れたキロポストを検出するには、センサ先端から発する磁束の到達距離を伸ばすためにセンサコイルを大きくする必要があります。しかしながら磁束到達距離を伸ばすことは、磁束を大きく広げることとなり、約20 cm角のキロポストへの検出感度が低くなるという課題があり、渦電流式変位センサとしては、これまでにない小型で離れた場所から測定できるセンサの開発となりました。

写真11 走行試験中の渦電流式地点検知センサ開発時の外観 (新川技報1982年No.1より)

地点検知センサの開発にあたり、センサの用途は距離を測定するのではなく、キロポストの有無を検知することであることからターゲット (導電体) への高い検出能力に特化した回路構成を新たに開発することとしました。

そこで得られた最適な仕組みが、地点検知センサ内に、センサコイルを基準コイル、励振用コイル、検知用コイルのそれぞれの機能を持たせた3つのコイル構成であり、検知コイルの感度を飛躍的に向上させ、「全天候型渦電流式高速軌道検測装置 (地点検知装置) 」 (渦電流式地点検知センサ) の開発に成功しました。
そして、この渦電流式地点検知センサは、東北・上越新幹線の新幹線軌道検測車とレール探傷車に早速、搭載されました。4)

参考文献

1) 北海道旅客鉄道株式会社 車内誌「The JR Hokkaido」2017年6月号、2021年4月号 未来へつなぐ

2) 日本線路技術株式会社 ホームページ / 線路検測

3) 東日本旅客鉄道株式会社 新幹線保守作業安全システムの新型線路作業用・携帯用装置の開発 JR EAST Technical Review No.35

4) 新川電機株式会社新川技報1982年No.1東北・上越新幹線特集

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