新川電機株式会社 ソリューション本部

宋 欣光

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GISはGeographic Information System(地理情報システム)の略で、Wikipediaで検索すれば分かりますが、初めて利用可能なものは1967年に開発されたようです。そこから約半世紀が経った今、交通分野をはじめGISはすでに我々の日常生活にとって不可欠なものになってきています。例えば、タクシー会社が顧客に指定された乗車場所に一番近いタクシーを手配することで、顧客の待ち時間が短くなり、利便性が改善されます。また、燃料コストも節約できる上、排気ガス量も低減されることで、業務効率改善や環境保護など様々な総合効果も得られます。

TracSYSの開発

もともと我々は自社製品UnityBoyを使って、様々な分野における顧客に丈夫・小さい・安価なWebベースの遠隔監視ソリューションを提供し、一部の顧客が各地に点在している工場やスーパーに設置されているLNGタンク及び関連機器の遠隔監視にUnityBoyを使っています。そのうちの一社が自然災害時LNGタンクローリー車の状況把握及び日常タンク内の圧力などの状態監視を行いたいことがTracSYS開発のきっかけでした。

提案過程で見えた現実

当初、我々は通常のシステムインテグレータのように、調達可能なハードウェアとソフトウェアパーツを探し、ある程度のカスタマイズで実現できるものだと考えましたが、結論が意外に自分でやらなければ実現できないという現実が分かりました。

まず、車載機の調達。この顧客の監視対象車両数が100台程度しかないため、既成品のカスタマイズは採算に合わないし、ゼロから作った場合は、基板設計、製造、テスト、プラス保守部品や製品の在庫などで、開発周期が長く、コストも膨大になります。

次に、遠隔監視ソフトの表示部分の機能追加やカスタマイズも、システム規模が小さい理由でカスタマイズ対応ができないこともあり、「しっかり」しているパッケージを改造するにも、対応期間とコストが軽々顧客の予想を超えるものでした。

更に、ハードウェアとソフトウェアをそれぞれのベンダーから供給されることで、お互いに通信仕様の作成、調整、統合試験などにも、結構な時間とコストが必要だと感じました。

自社開発のシナリオ

TracSYSの構成イメージ(図1)に示すように、一般的なGISは移動体のデータ収集部分の車載機、データの集中保存・処理部分のデータサーバ、監視対象状態表示・オペレータの指示受けとなる遠隔監視クライアントから構成されます。

図1.TracSYSの構成イメージ

我々は上記の現実を踏まえて、顧客の「ニーズ」と「コスト」の両立を念頭に、異なるベンダー間のすりあわせ時間とコスト削減まで考え、3つの構成要素をすべて自社開発の方向に進めて行きました。ここで少し詳しく紹介します。

図2. 車載機 TracSYS Mobile (例)

まず、車載機にあたるTracSYSMobileはセンサーからのデータを収集し、警報判断を行います。正常時、データが一定周期で管理センターに送られますが、警報状態になった場合、即時に警報メールを担当者に配信し、その時点のデータも管理サーバに送ります。

警報判断及び警報メールの配信処理は車載機または管理サーバ上で行うことができますが、車載機中での処理方式は、車載機と管理サーバ間の通信状況及びサーバ自身の稼働状況に影響されにくい特徴がありますし、データを管理サーバに転送してからの警報配信処理よりリアルタイム性もよいです。ただ、車載機からの直接配信するには、配信先がそれぞれの車載機の中にあるため、担当者の異動に伴う配信先の更新処理が開発側にとってかなり複雑になります。

また、車載機ソフトの開発期間の短縮と保守コストの削減のため、車載バッテリ電圧管理モジュールを特別に開発した以外に、市販の組込型ボックスPCを採用し、センサー信号の変換器も汎用的なものを使いました。このように作った車載機が、サイズや電力消費量の面において専用ハードウェアに及ばないものの、センサーの数や種類が変わっても簡単にカスタマイズできるし、現行ハードウェアが供給中止になっても、短期間で他の機種または他のメーカのものへの切替ができるし、関連部品や製品の在庫が要らないので、在庫コストも省けられます。大手ユーザならこの程度のコストを無視できますが、中小規模の顧客にとってこれは一つ大きな決め手となっているようです。

次に、遠隔監視クライアントとなるTracSYS Monitorの主な機能は次となります:

  • 地図上車両位置表示(サンプル画面は図3参照)
  • 数字、文字又は色変化で車両状態表示
  • 指定データのトレンド表示
  • 指定データの監視PCへの保存(CSV)
  • 指定車両の警報メール送信先の変更指示
図3. 地図上車両位置表示例

TracSYSMonitorはインターネット経由でTracSYS Serverと通信するため、担当者が外出先にいってもや移動中でもLNGタンクローリー車の全車両状態の把握ができます。

当初、TracSYS Monitorソフトのインストール作業と保守手間を省けるため、Webブラウザーベースのユーザインタフェースを考案しましたが、Google地図を含め、Web経由で配信できる地図システムの導入費用及び運用コストを詳しく調べると、中小規模の顧客には現実性がないことが分かったので、各監視PCにインストールする方式にしました。少しインストールなど手間がかかるのですが、ローカルPC用地図データの利用で導入コストが大分削減できました。

警報配信先の変更処理について、開発側にとって処理が複雑になったと言ってましたが、顧客から見ると作業が非常に簡単です。すべての警報メールアドレスは一つのEXCELファイルで管理します。車両毎に5個までのメールアドレスを指定でき、100台の車両にフルで利用すれば500名までの担当者への配信先管理ができます。オペレータがこのファイルをTracSYS Monitorを使ってTracSYS Serverにアップロードするだけで、後は管理サーバから各車載機に自動的に配布更新する仕組みとなっています。

TracSYSの特徴

上記の経緯で開発したTracSYSは一般的なGISに必要な車載機、管理サーバと遠隔監視クライアントがすべて自社開発したことは一つ大きな特徴です。この特徴を活かせば、最大限で顧客の「御要望」に対応できるカスタマイズ性と「御予算」に応える低コストを両立しやすくなるのではないかと思います。

また、LNGローリー車の特性に基づき、顧客が開発した警報処理方法(特許申請中)が搭載されています。

実に、2011年3月11日東日本大震災で、GISがまだ導入されなかったある会社が、津波に流された際のトラック場所特定が大変だったことを輸送関係者にお聞きしました。当時GISが導入されてなかった理由はいろいろあると思いますが、恐らく「要望」と「予算」間のバランスが一番大きな要因ではないかと推測しております。

TracSYSの今後

現在、スマートフォーン、パッド端末、タブレットPCなど様々な選択肢が現れてました。必要であれば、我々は車載機や遠隔監視端末をスマート端末が利用できるように改造させていただきます。そうなった場合、車載機がコンパクトになり、データ収集処理用の消費電力も大幅に抑えられ、バッテリだけでも、移動体や荷物状態の長時間連続監視も可能になると思われます。また、無線センサーネットワークを利用し、人間やペットの生体情報をGISと連動すれば、ヘルスケアなどの分野にも展開可能性が出てきます。

TracSYSの開発はある顧客の御要望がきっかけでした。時代とともに顧客のニーズが変わり、技術も進歩するので、TracSYSがこれしかできないものではなく、これらの環境と一緒に進化させていただきます。ぜひお気軽にご相談ください。よろしくお願いします。