2014/09/09 業界コラム 長井 昭二 地球温暖化と人類文明の将来の選択 No.2 将来はどんな感じなの? 新川電機株式会社 長井 昭二 技術顧問...もっと見る 技術顧問 前回からの話で、今回は「自分たちが排出した CO2 分ぐらいは自分たちで応分に対策して子孫には全てを負担させない」という人間の理性について書こうと思うのですが、人間の理性と言ってもいろいろあります。個人の理性、集団の理性、社会の理性、国の理性、資本主義の理性、民主主義の理性などです。 はじめに左から右へ進んで考えていくと「 CO2 削減するための理性」はだんだん実効性が希薄になっていく感じがします。そう思うのは私だけではありません。1972 年「成長の限界」の著書の一人のヨルゲン・ランダース氏が「 NHK スペースシップアースの未来、NHK 出版 2014 」でのインタビューで「資本主義体制では問題は解決できない」との見解です。その理由は資本主義は最も安いエネルギ-解決方法にお金をつぎ込む仕組みだからです。彼の見解には説得力あります。それは彼の下記の経験からです。 約 40 年まえの 1972 年に「成長の限界」で CO2 削減を提案したが、人類は現在まで実行できなかった(私の見解は少しはやったが実行度合が不足してる?) また 7 年前にノルウエー議会(彼はノルウエー在住)に 2050 年まで国税 1% 増税して 60% の CO2 削減を提案したが受け入れられなかった 人間の理性はどこで働くかしかし我々は資本主義が終わるのを待つ必要あるのでしょうか、あるいは中国のような社会資本主義(一部は資本主義)のほうがうまくいくのでしょうか? と疑問を持つ人に彼は具体的な提言もしてます。この提言は今回のテーマの「人間の理性」がどこで働くのかを見るうえで役に立ちそうなので下記に列記してみました。 「将来の子孫ために今犠牲を払うべきだ」と言える政治家に投票する 富裕国(先進国、開発国に関係なく富裕な国)から化石燃料の使用中止を合法化し再生可能エネルギーに変換する 先進国の途上国への低炭素化資金支援する 国際的温室効果ガス規制機関の設置する 富裕国における「収入増」から「幸福感」への意識変革する 一人あたりの GDP が一定レベル以上の富裕国の人口を減らす 再生可能エネルギーの現実と可能性における「人間の理性の働き度」紙面の関係と私の能力の限界から、上記の全ては解説できません。また(6)項は「人類の種の存続」の問題で重た過ぎるので、今回は触れないことにします。 さらに言えば(1)項の政治家の選択と(5)項の意識改革は自発的、個人的にも取り組めそうに見えますし、教育とか社会活動のテーマとして取り上げられるべきかと思います。 そこで私としては技術屋ですので、また産業計測機器会社に働く企業人として、技術力あるいはエンジニアリングの側面から(2)項の再生可能エネルギーの現実と可能性について「人間の理性」の「働き度」をチェックしてみたいと思います。 まずエネルギーの将来予測です。いろいろの機関が地球温暖化に関連して将来予測してます。今回は世界自然保護基金(WWF)の 2011 報告書「 WWF 100% renewable energy by 2050 」に添付されて WWF 自身の 2050 年のエネルギ-予測と Shell 社の「Blueprint」にある 2050 年予測を紹介します。 出典: WWF 100% renewable energy by 2050 WWF (2010) の 2050 年のエネルギー予測 Shell (Shell international 2008)の 2050 年のエネルギー予測 上記の二つの図はとても興味深い比較です、一見、環境保護派と経済優先派の二極的議論を表してる象徴的な図とも言えますが、実際はもっと深い話がつまってます。ですがまず図の説明です。 最初の図は WWF2011 報告の 2050 年の予測ですが「省エネ、エネルギー使用の効率化を進め、総エネルギーの使用量は 2000 年と同様レベルに抑える、化石燃料の大部分を再生可能エネルギ-で全て置き換える、結果として劇的に CO2 を削減できる」という絵です、つまり「理性が強く働く」という希望が持てる絵です。 しかしその下の図は Shell 社(石油メジャー)2008 blueprintの 2050 年の予測は「引き続きエネルギー使用は増加し、再生エネルギーも増加するが将来も化石燃料が大勢を占める。また天然ガスへの転換が進み、その分は CO2 削減効果が期待できる」という絵です。 つまり「経済的に見合う化石燃料は今後も使われるので、多大な CO2 削減は期待できない」という絵です。 しかし、Shell 社はその後、つまり 2011 年 03 月 11 日の後、将来見通しの修正を加えました。最近の Shell 社の HP での Shell scenario New Lenses では新しく 2100 年のエネルギー予測を公開し、2050 年での再生可能エネルギーの使用量は全体の 30% 程度を予測してましたが、2100 年では再生可能エネルギーが 72 %を占めると予測してます。下図がそうです。少し判りやすく加工してあります。 出典 : Shell scenario New Lensesこの絵は WWF と 50 年の時間差がありますが、WWF2011 の 2050 年の予想と似てませんか? Shell 社は何故 2008 年のシナリオを修正したのでしょう?そこにヒントがあります。 「結局皆、同じこと考えているんだ!」ということですか? じつはそうではなく、たぶん、「 Shell 社もそう考えるようになった」という方が正直なところだと思います。 あの石油メジャーの shell が自分が商売にしてきた石油ガスよりも再生可能エネルギーが大勢を占めるマーケットを想定しなくてはいけない状況を許容したのです。これは「理性が働いた」と言って良いのではと思います。もちろん Shell 社も民間企業ですから再生可能エネルギーに対するビジネスモデルがすでに確立されたから(?)ですが、それにしても「理性」がビジネスを変えようとしてます。しかし「なぜ 50 年違うのだろう」という疑問です。 そこで次に WWF2008 報告の 2050 年のエネルギー予測の内訳図を見てもらいます。 この絵のポントは二つあります。 一つは絵の右側の濃緑色の矢印バー(Aggressive end–use enrgy savings and electrification)です。エネルギーの節約と無電化地区の電化(電化による 1 次エネルギの削減)の努力効果を示します。はっきりとした意思表示です。実はここが Shell 社の New lenses の 2100 年予測と大きく違うところです。また Shell 社がエネルギー節減効果を絵にできない事情も理解できます。 ふたつ目は右側の灰緑色の矢印バー(Substitution of traditional by renewable sources)です。ほとんどのエネルギーは再生可能エネルギーとする考えかたです。しかし少しの化石燃料は残る。ここは WWF と Shell 社も類似した考え方です。 いづれにしても、WWF としてはこの二つを実現できれば、CO2 は 2050 年に 80% 削減(IPCC 他の提言)は可能だとする絵です。 私はこの WWF と Sell 社の両方の絵を見てその「 CO2 削減の実現の可能性」を感じます。どちらか片方の絵だけではそう思わないでしょう。どちらか一方では前出の感想のように何か消化不良です。それはなぜか、「時間のスパン」の影響だと思います。両者の絵から人類はその「理性」をもって何をすべきかを知っており、後は「決める」ことができればよいという段階なのです。しかし「決める」のはそう簡単ではありません、「時間」が必要です、約 250 年かけて増やした CO2 を 100 年かけて削減しようとするものです、50 年では短すぎるようです。しかしそこまで待てるでしょうか、自然災害など「軽目の痛い経験」は覚悟すべき時がくるかもしれません。 では再生可能エネルギーの実際をチェックして、その主流が 2050 年か 2100 年に来るかサイコロを空中に投げてみましょう。 風力発電の動向下図に再生可能エネルギーのひとつである風力発電の動向記事を紹介します。下図は 2013 年の風力発電の占める割合が多い国と、その割合を示す絵です。(Earth Policy InstituteのHP、May.27.2014) 第 1 位のデンマークは全電力設備の 33.8% を占めており 4,772MW で 2020 年には 50% にする目標だそうです。国全体での電力量 15,000MW 程度と思われます。日本の中国電力と同等です。この容量で夜間電力は 100% 供給できてるようです。 アイルランドでは設備容量は 17.3% ですが、需要状態で風力電力のシェアは頻繁に 50% を超えてるようです。 ドイツは約 8% の設備容量ですが北部の 4 州では 50% の電力が風力で供給されてます。 風力のエネルギーポテンシャルは電力需要の 100% 以上あるそうです。 さて最大の CO2 排出国の米国と中国はどうでしょう。電力量で米国は 4% と中国は 3% が風力で供給されてますが、内容は興味深いです。米国のアイオワ州と南ダコダ州はすでに電力の 25% を風力発電から供給されています。 中国は風力の 2012 年には発電量が原子力を超えたようです。現状の風力発電は 19,000MW で 2015 年には 94,500MW(全電力の約 15%)が系統接続されるとみられてます。中国のその風力エネルギーポテンシャルは現状電力需要量の 10 倍とされてます、90% が陸地部です、が課題は送電線です。中国は社会主義国ですが、経済は限定的資本主義の国であることをお忘れなく。 日本の風力は 2,710MW(NEDO)でデンマークの半分くらいですが、全電力の 209,130MW 設備(電事連)に対して約 1.3% です。ポテンシャルは 8100万KW(81,000MW 全電力の 39%)で、海上風力が 5600KW 、陸上が 2500KW です(環境省)2030 年までに海上風力を 3620万KW 程度開発したいようです。問題は実現性です、実績です。 デンマークとドイツは「地球温暖化」について「かなりやってます」。米国と中国も一見 CO2 削減には消極的に見えますが、現実は「しっかりやってます」。日本はどうでしょう? プロローグ CO2 削減に必要な時間と気候工学(ジオエンジニアリング)の必然性上記のいくつかの国の風力発電だけの導入状況を見ると、WWF2011 の 2050 年予測と Shell Senario New lenses の 2100 年予測の中間くらいにの時期、つまり 2075 年くらいに再生可能エネルギーが化石燃料をカバーできるようにも思えます。はたしてその通りに「理性は働く」でしょうか。 次回は風力以外の再生可能エネルギーの動きと、CO2 の後始末対策の気候工学(ジオエンジニアリング)の話から、温暖化の将来を見てみたいと思います。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 新川電機株式会社 長井 昭二さんのその他の記事 2016/01/13 業界コラム 気候変動が起源でエネルギー新産業革命が始まる No.3 2015/12/08 業界コラム 気候変動が起源でエネルギー新産業革命が始まる No.2 2015/11/03 業界コラム 気候変動が起源でエネルギー新産業革命が始まる No.1 2014/11/11 業界コラム 地球温暖化と人類文明の将来の選択 No.4 将来はどんな感じなの? 2014/10/07 業界コラム 地球温暖化と人類文明の将来の選択 No.3 将来はどんな感じなの? 2014/09/09 業界コラム 地球温暖化と人類文明の将来の選択 No.2 将来はどんな感じなの? 2014/08/05 業界コラム 地球温暖化と人類文明の将来の選択 No.1どんな感じで考えればよいか 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月