新川電機株式会社

長井 昭二

技術顧問...もっと見る 技術顧問

前回からの話で、今回は「自分たちが排出した CO2 分ぐらいは自分たちで応分に対策して子孫には全てを負担させない」という人間の理性について書こうと思うのですが、人間の理性と言ってもいろいろあります。個人の理性、集団の理性、社会の理性、国の理性、資本主義の理性、民主主義の理性などです。

はじめに

左から右へ進んで考えていくと「 CO2 削減するための理性」はだんだん実効性が希薄になっていく感じがします。そう思うのは私だけではありません。1972 年「成長の限界」の著書の一人のヨルゲン・ランダース氏が「 NHK スペースシップアースの未来、NHK 出版 2014 」でのインタビューで「資本主義体制では問題は解決できない」との見解です。その理由は資本主義は最も安いエネルギ-解決方法にお金をつぎ込む仕組みだからです。彼の見解には説得力あります。それは彼の下記の経験からです。

  1. 約 40 年まえの 1972 年に「成長の限界」で CO2 削減を提案したが、人類は現在まで実行できなかった(私の見解は少しはやったが実行度合が不足してる?)
  2. また 7 年前にノルウエー議会(彼はノルウエー在住)に 2050 年まで国税 1% 増税して 60% の CO2 削減を提案したが受け入れられなかった

人間の理性はどこで働くか

しかし我々は資本主義が終わるのを待つ必要あるのでしょうか、あるいは中国のような社会資本主義(一部は資本主義)のほうがうまくいくのでしょうか? と疑問を持つ人に彼は具体的な提言もしてます。この提言は今回のテーマの「人間の理性」がどこで働くのかを見るうえで役に立ちそうなので下記に列記してみました。

  1. 「将来の子孫ために今犠牲を払うべきだ」と言える政治家に投票する
  2. 富裕国(先進国、開発国に関係なく富裕な国)から化石燃料の使用中止を合法化し再生可能エネルギーに変換する
  3. 先進国の途上国への低炭素化資金支援する
  4. 国際的温室効果ガス規制機関の設置する
  5. 富裕国における「収入増」から「幸福感」への意識変革する
  6. 一人あたりの GDP が一定レベル以上の富裕国の人口を減らす

再生可能エネルギーの現実と可能性における「人間の理性の働き度」

紙面の関係と私の能力の限界から、上記の全ては解説できません。また(6)項は「人類の種の存続」の問題で重た過ぎるので、今回は触れないことにします。

さらに言えば(1)項の政治家の選択と(5)項の意識改革は自発的、個人的にも取り組めそうに見えますし、教育とか社会活動のテーマとして取り上げられるべきかと思います。

そこで私としては技術屋ですので、また産業計測機器会社に働く企業人として、技術力あるいはエンジニアリングの側面から(2)項の再生可能エネルギーの現実と可能性について「人間の理性」の「働き度」をチェックしてみたいと思います。

まずエネルギーの将来予測です。いろいろの機関が地球温暖化に関連して将来予測してます。今回は世界自然保護基金(WWF)の 2011 報告書「 WWF 100% renewable energy by 2050 」に添付されて WWF 自身の 2050 年のエネルギ-予測と Shell 社の「Blueprint」にある 2050 年予測を紹介します。

出典: WWF 100% renewable energy by 2050

WWF (2010) の 2050 年のエネルギー予測

Shell (Shell international 2008)の 2050 年のエネルギー予測

上記の二つの図はとても興味深い比較です、一見、環境保護派と経済優先派の二極的議論を表してる象徴的な図とも言えますが、実際はもっと深い話がつまってます。ですがまず図の説明です。

最初の図は WWF2011 報告の 2050 年の予測ですが「省エネ、エネルギー使用の効率化を進め、総エネルギーの使用量は 2000 年と同様レベルに抑える、化石燃料の大部分を再生可能エネルギ-で全て置き換える、結果として劇的に CO2 を削減できる」という絵です、つまり「理性が強く働く」という希望が持てる絵です。

しかしその下の図は Shell 社(石油メジャー)2008 blueprintの 2050 年の予測は「引き続きエネルギー使用は増加し、再生エネルギーも増加するが将来も化石燃料が大勢を占める。また天然ガスへの転換が進み、その分は CO2 削減効果が期待できる」という絵です。

つまり「経済的に見合う化石燃料は今後も使われるので、多大な CO2 削減は期待できない」という絵です。

しかし、Shell 社はその後、つまり 2011 年 03 月 11 日の後、将来見通しの修正を加えました。最近の Shell 社の HP での Shell scenario New Lenses では新しく 2100 年のエネルギー予測を公開し、2050 年での再生可能エネルギーの使用量は全体の 30% 程度を予測してましたが、2100 年では再生可能エネルギーが 72 %を占めると予測してます。下図がそうです。少し判りやすく加工してあります。

出典 : Shell scenario New Lenses

この絵は WWF と 50 年の時間差がありますが、WWF2011 の 2050 年の予想と似てませんか? Shell 社は何故 2008 年のシナリオを修正したのでしょう?そこにヒントがあります。

「結局皆、同じこと考えているんだ!」ということですか? じつはそうではなく、たぶん、「 Shell 社もそう考えるようになった」という方が正直なところだと思います。

あの石油メジャーの shell が自分が商売にしてきた石油ガスよりも再生可能エネルギーが大勢を占めるマーケットを想定しなくてはいけない状況を許容したのです。これは「理性が働いた」と言って良いのではと思います。もちろん Shell 社も民間企業ですから再生可能エネルギーに対するビジネスモデルがすでに確立されたから(?)ですが、それにしても「理性」がビジネスを変えようとしてます。しかし「なぜ 50 年違うのだろう」という疑問です。

そこで次に WWF2008 報告の 2050 年のエネルギー予測の内訳図を見てもらいます。

この絵のポントは二つあります。

一つは絵の右側の濃緑色の矢印バー(Aggressive end–use enrgy savings and electrification)です。エネルギーの節約と無電化地区の電化(電化による 1 次エネルギの削減)の努力効果を示します。はっきりとした意思表示です。実はここが Shell 社の New lenses の 2100 年予測と大きく違うところですまた Shell 社がエネルギー節減効果を絵にできない事情も理解できます。

ふたつ目は右側の灰緑色の矢印バー(Substitution of traditional by renewable sources)です。ほとんどのエネルギーは再生可能エネルギーとする考えかたです。しかし少しの化石燃料は残る。ここは WWF と Shell 社も類似した考え方です。

いづれにしても、WWF としてはこの二つを実現できれば、CO2 は 2050 年に 80% 削減(IPCC 他の提言)は可能だとする絵です。

私はこの WWF と Sell 社の両方の絵を見てその「 CO2 削減の実現の可能性」を感じます。どちらか片方の絵だけではそう思わないでしょう。どちらか一方では前出の感想のように何か消化不良です。それはなぜか、「時間のスパン」の影響だと思います。両者の絵から人類はその「理性」をもって何をすべきかを知っており、後は「決める」ことができればよいという段階なのです。しかし「決める」のはそう簡単ではありません、「時間」が必要です、約 250 年かけて増やした CO2 を 100 年かけて削減しようとするものです、50 年では短すぎるようです。しかしそこまで待てるでしょうか、自然災害など「軽目の痛い経験」は覚悟すべき時がくるかもしれません。

では再生可能エネルギーの実際をチェックして、その主流が 2050 年か 2100 年に来るかサイコロを空中に投げてみましょう。

風力発電の動向

下図に再生可能エネルギーのひとつである風力発電の動向記事を紹介します。下図は 2013 年の風力発電の占める割合が多い国と、その割合を示す絵です。(Earth Policy InstituteのHP、May.27.2014)

第 1 位のデンマークは全電力設備の 33.8% を占めており 4,772MW で 2020 年には 50% にする目標だそうです。国全体での電力量 15,000MW 程度と思われます。日本の中国電力と同等です。この容量で夜間電力は 100% 供給できてるようです。

アイルランドでは設備容量は 17.3% ですが、需要状態で風力電力のシェアは頻繁に 50% を超えてるようです。

ドイツは約 8% の設備容量ですが北部の 4 州では 50% の電力が風力で供給されてます。 風力のエネルギーポテンシャルは電力需要の 100% 以上あるそうです。

さて最大の CO2 排出国の米国と中国はどうでしょう。電力量で米国は 4% と中国は 3% が風力で供給されてますが、内容は興味深いです。米国のアイオワ州と南ダコダ州はすでに電力の 25% を風力発電から供給されています。

中国は風力の 2012 年には発電量が原子力を超えたようです。現状の風力発電は 19,000MW で 2015 年には 94,500MW(全電力の約 15%)が系統接続されるとみられてます。中国のその風力エネルギーポテンシャルは現状電力需要量の 10 倍とされてます、90% が陸地部です、が課題は送電線です。中国は社会主義国ですが、経済は限定的資本主義の国であることをお忘れなく。

日本の風力は 2,710MW(NEDO)でデンマークの半分くらいですが、全電力の 209,130MW 設備(電事連)に対して約 1.3% です。ポテンシャルは 8100万KW(81,000MW 全電力の 39%)で、海上風力が 5600KW 、陸上が 2500KW です(環境省)2030 年までに海上風力を 3620万KW 程度開発したいようです。問題は実現性です、実績です。

デンマークとドイツは「地球温暖化」について「かなりやってます」。米国と中国も一見 CO2 削減には消極的に見えますが、現実は「しっかりやってます」。日本はどうでしょう?

プロローグ CO2 削減に必要な時間と気候工学(ジオエンジニアリング)の必然性

上記のいくつかの国の風力発電だけの導入状況を見ると、WWF2011 の 2050 年予測と Shell Senario New lenses の 2100 年予測の中間くらいにの時期、つまり 2075 年くらいに再生可能エネルギーが化石燃料をカバーできるようにも思えます。はたしてその通りに「理性は働く」でしょうか。

次回は風力以外の再生可能エネルギーの動きと、CO2 の後始末対策の気候工学(ジオエンジニアリング)の話から、温暖化の将来を見てみたいと思います。